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第90話 自由すぎる人々(NPC)4



 ギギギギィィィ


 重厚、且つ錆びついた音を立てて扉は開かれた。


 古城らしく、内部は薄暗く少し黴臭い。


 内装は荒らされたというよりは経年による劣化に思えた。

 つまりこの城は長年に渡る放置、または放棄によって荒れたのだろう。


 うむ。

 実に無駄なリアルさだ。


 靴音と共に、かつてはホールだったと思われる広間を進む。

 俺が先頭、間にヒナとヴィヴィアンさんを挟んで殿はマーリンさん。


 入口にあんな『動く石像(リビングスタチュー)』がいたのだから内部にもモンスターはいるはずだ。


 レベルカンストの俺とヒナがいる以上、さほど恐れることもないであろうが、NPCの二人を死なせるわけにはいくまい。

 その考えで行くならば殿はヒナに任せるべきだ。

 しかしフェミニストのマーリンさんがそれをとても嫌がったのである。


 じゃあ幼女の俺が先頭なのはいいのかよ、とツッコミそうになったが敢えて黙っておく。

 まるで『女の子扱いしろ』と訴えているみたいで気恥ずかしかったのだ。


 って、危ねっ。

 俺は男だ俺は男だ俺は男だ……

 男にちやほやされても嬉しくない嬉しくない……


「アキきゅん。さっき空で受けた攻撃って、このお城から飛んできましたよね?」


 後ろを歩くヒナの声が、俺のつむじあたりに降り注ぐ。


「ああ、チラッとしか見えなかったけどな。多分ここの上階じゃね?」


 振り返ることなくそう答えた。


 古城には聖剣エクスカリバーの鞘を持った何者かが潜んでいるとヴィヴィアンさんはいう。

 なら、そいつが俺たちの接近を感知して攻撃したのだろうか。

 鞘を奪われまいとするために。


 いや、そう考えてしまうのはいささか早計か。

 仮に相手がモンスターならば、近付く者を見境なく攻撃するだろうし、プレイヤーだったとしても、いきなり奇妙な飛行物体が飛来したら取り敢えず牽制のためにやはり攻撃をするかもしれない。


 いずれの可能性も考慮しておくべきだろう。



「うぅ……それにしても黴臭いな……」

「ですねぇ」

「なんなんだよこの城は……」

「む? お主ら知らんのか? ここは……」


「おぉ~~、麗しき荘厳な~~、キャメロット城に栄光あれ~~~~!」


「うわっ、いきなり大声で歌い出さないでよマーリンさん! ……ん? 今なんて?」

「まっことうるさいヤツじゃのう! 人の言葉を遮りおって!」

「ちょっと待ってください! 今なんて歌いました!?」


「おぉぉぉお~! 麗しき荘厳なああああ! キャメロット城に栄光あれえええええ!」


「ぎゃー! うるせー!」

「誰も歌い直せなんていってませんよー!」

「本物のアホじゃなこやつは!! 黙らんかこのアホ!!」

「ぶへあっ」


 ヴィヴィアンさんは容赦なくマーリンさんの頬を打つ。

 しかもグーで。


 よくやった。

 じゃなくて、酷い。

 いやいやそれよりも!


「ここがキャメロット城だって!? あの円卓の騎士が集った!?」

「キャメロットってログレスの都にあったという、アーサー王のお城ですよね!?」


「お、おう。その通りなのじゃ。お主ら博識じゃのう」


 ズイと迫る俺とヒナにタジタジのヴィヴィアンさん。


「なんで北欧神話ベースの大陸にキャメロットがあるんだよ!?」

「どうして滅びちゃってるんです!?」

「まぁ、そこは開発の都合上ってやつじゃな」

「メタい! それを言っちゃおしまいだろ!」

「仕方あるまい。物事には限界が付き物なのじゃ。むしろここまで詰め込んだ開発陣を褒めてやるのじゃ」

「だからメタいっての! ただのごちゃ混ぜ世界観じゃねぇか!」

「アキきゅん、乱れすぎですよ」

「ぐっ、ご、ごめんヒナ。ついエキサイトしちゃった」


 いかんいかん。

 NPC相手だとつい素が出ちまう。

 プレイヤー相手よりも気が楽な分、油断も多くなってるんだな。


「しかし、キャメロットねぇ……」


 寂れた城内をぐるりと見回す。

 栄華を誇った幻の名城とは、話を聞いた今でも到底信じられない。


「円卓の騎士が守ってたんじゃなかったのかよ……」

「そういえばどこ行っちゃったんでしょうね」

「おるぞ。円卓の騎士たちも」

「はい!? いるの!?」

「いるんですか!?」

「勿論健在じゃ。どこをほっつき回っているかはわからんがのう」


 なら、俺が聖剣の奥義を使った時に現れた円卓の騎士の英霊っぽい連中はなんだったのだ。

 王の呼びかけに答えてくれた結果なのだろうか?

 それとも奥義による強制力か。


「時々はここを巡回している騎士もいるはずじゃ。荒廃してしまったとはいえ、やはり愛着があるのじゃろうのう」

「ふーん……そうなんだ」

「我が王は騎士たちと出会っても王らしくあれば良いのでございます」

「?」


 よくわからないことを言い出すマーリンさん。

 そもそも円卓の騎士たちにとって俺はどんな立ち位置なんだ?

 聖剣エクスカリバーを所持している以上、マーリンさんのようにやはり王として扱われるのかな?


「ふむ、今も来ていますな」

「は?」

「はい?」

「私の魔力感知にそう出ております」

「マジで!?」

「誰なんでしょう……?」

「どうやら上にいるようでございます」


 マーリンさんは何食わぬ顔で爆弾発言を放つ。

 イケメンじゃなかったらとても許されまい。


「ってことは、そいつが『鞘』を持っている可能性が……」

「非常に高いでしょうね……どうしますアキきゅん」

「おっしゃ! そこらのプレイヤーが持ってるより100倍マシだ! アーサー王伝説の関係者だってんなら余計にな! 交渉も楽勝だろ!」

「言うと思いました。それでこそアキきゅんです」

「ヒヨッコ騎士どもの尻を叩くのはわらわに任せるのじゃ! グダグダ言い出したらスパーンと決めてやるからの!」

「バイオレンスが過ぎますよ湖の乙女。もっとこう、おしとやかに……」

「やかましいのじゃ!」



 一気に盛り上がってきた俺たちは、上階を目指して突き進むのであった。




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