第89話 自由すぎる人々(NPC)3
「おぉ~! ほんとに古びた城だ」
「わぁー、丘の上にお城とか風情がありますねぇ~。ヨーロッパみたいです~」
「我が王、高度を下げますのでお気を付けください」
「あぁ、うん、お願いします」
マーリンさんがピャッと指を振れば魔法の絨毯は即座に反応して降下を始める。
ゆるやかに、だがみるみる城は大きくなっていく。
いいなぁ、これ。
俺も一枚欲しい!
【OSO】はフィールドが異様に広いからな。
どこへ行くにもとにかく時間がかかる。
こんなのがあったら冒険もすげぇ楽になると思うぞ。
などと妄想しているうちに地面も近くなり、そろそろ着陸態勢に入ろうかという頃。
「むっ!? なにか来る! 伏せるのじゃーーー!」
「へっ?」
「はい?」
ヴィヴィアンさんの警告に何事かと思った時には、俺たち全員が空中に投げ出されていた。
かろうじて火炎を纏った槍のようなものが、魔法の絨毯を貫く瞬間だけ目に飛び込んだ。
「ぎゃーーーー! なんだあれ!? 大砲かーーー!?」
「きゃあああ! 落ちてますーーー!」
俺は咄嗟にヒナと繋いでいた手を引き寄せ、彼女の身体をしっかりと抱きかかえた。
むしろ、ヒナに抱かれているような格好にも見えるがそれはご愛嬌。
小さな幼女の身体なんで勘弁してくれ。
「なんなのじゃーーーー!」
「あああああ! 私の魔導具がああああああ! この世にひとつしかない逸品だというのにいいいい!!」
素っ頓狂な悲鳴を上げたのはヴィヴィアンさんとマーリンさんも同じだった。
マーリンさんのは悲鳴というより嘆きの絶叫だが。
幸い、たいした高さから落ちたわけでもなく、着地と同時に転がって、来るやもしれぬ追撃から身を躱す。
ヒナを身体の下にしてかばいつつしばし待ち様子を窺うが更なる攻撃はなかった。
「あいたたた……いったいなにが起こったのじゃ……」
「あああ……これで私はもう二度と空を飛べない……」
小ぶりな己の尻をさするヴィヴィアンさんに、さめざめと泣くマーリンさん。
どちらも無事な様子でホッとする。
「ヒナは大丈夫か?」
「大丈夫でした。アキきゅんがかっこよくかばってくれたおかげです」
「そ、そう?」
「はい!」
「へへへ」
「えへへ」
「おーい。アキや、とっとと現世に帰ってくるのじゃ。明らかに攻撃を受けたんじゃぞー」
「はっ!? そうだった!」
俺はハッとして城の方を見やる。
しかし眼前にある崩れかけの城壁や、その内部は沈黙を保ったままのように感じた。
「絨毯が落ちる寸前、なんらかのスキルか魔法が発動する気配を感じたのじゃ」
「それってつまり……」
「うむ。もしかしたら【鞘】の所持者かもしれぬな」
俺たちが鞘を取り返しに来たと相手にバレたのだろうか。
いや、そんなはずはない。
エクスカリバーはインベントリに入ったままなのだ。
むしろ怪しまれるとすれば、魔法の絨毯に乗ってきたという事実のほうであろう。
あんな異様に目立つ乗り物が【OSO】内にあるなんて俺も知らなかったのだから。
ま、もう二度と乗れないっぽいからちょっと残念ではあるがね。
チート級アイテムだし仕方ないけどやっぱり勿体なかったなぁ。
マーリンさんが嘆くのもわかるよ。
そんなに大事な物なら壊されないような工夫とかしておいて欲しかったけどさ。
「とにかく、プレイヤーかモンスターかは不明だが、城の中にいる何者かが攻撃してきたことに間違いはないってことだな」
「ですね」
「そうじゃの」
「なら精々気を引き締めて行こう」
「……私の魔導具……」
「ほりゃ、アホマーリン! いつまでもメソメソしてないで行くのじゃ!」
俺とヒナ、そしてマーリンさんを引きずったヴィヴィアンさんの一行は朽ち果てた城門をくぐった。
かつては緑と噴水の美しい庭園であったと思われるそこは、寒々しい光景と化している。
花壇は枯れ、水のない噴水は崩壊していたのだ。
人気もモンスターの気配もない庭園を通り、問題の城へと辿り着く。
見上げれば尖塔も高々とそびえ立つ巨大な城だ。
色褪せてしまっているが、それでもその圧倒的な威容は変わらない。
「すげぇなこりゃ」
「立派ですね……この間アキきゅんと見たネズミーランドのお城より大きいですもん」
「そりゃそうだ」
正門の両脇にはなんとも勇壮な槍を持った鎧騎士の彫像が立っていて、まるで侵入者を拒む門番のようである。
あまりの精巧な造りに動き出すのではあるまいかと、つい手を触れてみた。
金属の硬い手触り。
「へぇ~。凝ってるなぁ」
「あれっ? アキきゅん、今この像、動きませんでした……?」
「ははは、その手には乗らないぞヒナ。ネズミーランドのお化け屋敷に入った時の仕返しか?」
ギギギ
「違いますって! ほら!」
「はっはっはっは、演技力がまだまだ未熟……」
ギギギギギ
はて?
妙な摩擦音がするな……
ギギギギギギギ
「うぉあっ!?」
バギッ
像が振るった槍を左腕に装着したヴァルキュリア・リュストゥング【盾形態】で何とか受けた。
「そ~れ見たことですか!」
「ドヤ顔してる場合かアホヒナ! くっそ! マジで動きやがった! みんな下がれ!」
前衛が俺一人では分が悪い。
魔導士は後衛にいてこそ真価を発揮するの……だから……な……って。
おいおいおいおいおい!
なんで前に出てくのマーリンさん!
この人は自殺願望でもあるの!?
だが彼は歩みを止めず、恐れる風もなく彫像に手をかざして呟いた。
「灰燼と帰しなさい」
ボフン
たった一言。
そのたった一言で2メートルはあろう彫像が粉末と化して床にわだかまったのである。




