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第87話 自由すぎる人々(NPC)



 東門(こちら)へ元気よく手を振りながらやってくる人影。


 耳を澄ませると、どうやら俺の名を呼んでいるらしい。



 身体を覆う衣装のみならず、頭髪までもが真っ白な長身の男性。


 そして彼に肩車されているのは、まるで妖精が着るような緑色の衣装を纏った小さな子。


 どちらも俺がビックリするくらいキラキラした笑顔だ。



「…………」

「……アキきゅん。あれってまさか……」

「ワタシノシラナイヒトタチダヨ?」

「ロボ化した!? アキきゅん! 現実逃避しても無駄ですってば!」


 冷静なヒナにツッコミを食らう俺。

 しかも彼らに対抗するつもりなのか、ヒナは俺を抱え上げてそのまま肩車をしようとしている。


 待った待った!

 やめてヒナ!

 スカートの中見えちゃうって!

 ガン見してるプレイヤーもNPCもチラホラいるよ!?

 ヒナは中に短パン穿いてるからいいだろうけどさぁ!

 これでも一応羞恥心はあるんですが!


 ああ、クソッ!

 それよりも『彼ら』をどうにかしないと……

 このまま街に入られたら大騒ぎになるかもしれんし。

 いや、ならないかな?

 いやいや、『彼』は女性プレイヤーに絶大な人気があるとか聞いたもんな……

 やっぱダメじゃん!


「ヒナ! ヒナ!」


 肩車の体勢に入り、立ち上がろうとするヒナのほっぺをぺちぺちと叩く。


「うんしょ、っと。あはは、ちっちゃな手ですねー、かわいい~!」

「聞けよ! もうこのままでいいからさ、あいつらのとこまで走って!」

「えぇ? まぁいいですけど。落ちないようにちゃんと掴まっててくださいよー? それーー!」

「どこにだよ!? って、うわぁぁあああ!」


 どこを掴む間もなく全力で走り出すヒナ。

 足はヒナが押さえていてくれるが、上半身はそうもいかない。

 俺は海老反りのまま連れ去られた。



「おぉ~い! お主ら~!」

「我が王~~~!」


「あっち! あっち! あっちで話そう!」


 走り寄る二人に指をさす。

 そして肩車をした奇妙奇天烈な二組は、共に林へ駆け込んだのであった。



「ってか、こんなところでなにやってんの!? マーリンさん! ヴィヴィアンさん!」


 ヒナから降り立った俺の開口一番はこれである。


 照れ臭そうに頭を掻く魔術師のマーリンさん。

 対して、鼻息も荒く腕組みドヤ顔なのは【湖の乙女】ヴィヴィアンさん。


「藪から棒になんじゃ。せっかく遊びにきてやったのに」

「えぇ!? あんたたち重要NPCの自覚ある!? いきなり固定位置からいなくなってたらイベントの進行に困るでしょ!?」

「そんな奇特なヤツはおらんおらん。サービス開始以来、お主らしかイベントフラグを立てておらぬもの」


 うわ。

 相変わらずメタなことをいっちゃうダメ妖精だ。


「それより、ヴィヴィアンさん」

「なんじゃ?」


 俺は彼女にそっと顔を寄せ、小声で訊いてみた。


「マーリンさんのこと嫌ってなかったっけ?」

「うむ、今も嫌いじゃ。しかしじゃな、わらわの探知魔法ではお主らを見つけられなかったのでな。仕方なくこやつを頼ったわけなのじゃ。魔力は師匠であるこやつのほうが上じゃからの」

「ああ、なるほど……そういやヴィヴィアンさんはマーリンさんから魔法を教わったって伝説だったな……」


 チラとマーリンさんを窺えば、頬を染めて幸せそうにはにかんでいる。

 恋するヴィヴィアンさんと一緒にいられてとても嬉しそうだった。


 うーん。

 マジでイケメンだなこの人。

 女性プレイヤーからモテモテなのも納得するわ。


 まぁ、片想いみたいだからマーリンさんはちょっと可哀想だけど。

 アーサー王伝説でもなんで片想いなのかよくわからないんだっけ?

 しまいには湖の乙女に監禁されちゃうんだよな確か。

 ……つくづく哀れな人だ。



「それでじゃな、アキ」

「アーキー王です。乙女よ」

「……うるさくて細かい男じゃのう。それはお主のこじつけ設定じゃろが」


 煙管でポコンとマーリンさんを小突くヴィヴィアンさん。

 ボケとツッコミがはっきりしていて良いコンビだと思うのだが。


「アキたちが湖を去ってからというもの、なんとなーく【鞘】の行方を追っていたんじゃがの」

「! ほんと? それでそれで?」

「鞘? 鞘とはもしや【聖剣エクスカリバー】の鞘でございますか? 乙女よ、鞘をどうしたというのです?」

「あぁもう! 話の腰を折る天才じゃなお主は! 王の御前じゃぞ、控えよ!」

「はっ、ははーーー!」


 愛する少女に叱られ、すごすごと下がるマーリンさん。

 なかなか愉快なNPCたちだ。

 これだけ好き勝手に行動できるAIを搭載しているならば、もう人間となんら遜色がない。


 こういう自我を持ち始めたAIとかって、SF映画だとすぐ軍事転用されたりするよな。

 そんで毎度おなじみ人類滅亡の危機が訪れるわけだ。

 まぁ、幸いここは日本だからそんな心配は……ないよね?


「結局、鞘は見つかったの?」

「申し訳ないがそれは『否』じゃ。ただ、居場所の方角だけはなんとか掴んだのじゃ。それで報告がてら遊びに来たんじゃがの」

「ふぅん……」

「アキきゅん……」


 少し落胆する俺。

 期待はそれほどしていなかったが、こうもはっきり否定されるとやはり精神に来る。

 だが、ヒナはそれを敏感に察知して俺を後ろから抱きしめてくれた。

 お陰で幾分か気持ちが楽になる。


 ありがとな。


「しかし不思議なことがあってのう」

「うん?」

「どうも鞘は移動しておるようなのじゃ」

「もしや……」

「うむ。どうやら誰かが鞘を所持しておるということじゃろうのー」


 はぁ。

 と重い溜め息をつく。


 とどのつまり、それは所持者から手に入れるしかないと言うことだ。


 譲渡、あるいは強奪で。


 現在の持ち主がモンスターなら話は早い。

 問答無用で倒せばいいのだから。


 しかしNPCやプレイヤーの場合は別だ。

 交渉や金銭でどうにかなるならまだしも、決裂した時に取る行動次第では面倒なこととなるだろう。


 まさか某ゲームみたいに『殺してでもうばいとる』わけにはいかないしなぁ。

 でも一応、在処は聞いておこう。


「鞘はどっちの方向?」

「うむ。首都アランテルより北西じゃな」

「北西……ヒナ、行ったことあったっけ?」

「ないですね。西には行きましたけど」

「だよなぁ。ヴィヴィアンさん、北西って何があるのか知ってる?」

「えーと、なんじゃったかのう……」


 あちこちに首をひねる元老婆。

 見た目は少女だが中身は高齢故に記憶力が低下しているのかもしれない。


 NPCなんだからそんなわけねーか。



「アランテルより北西……そうじゃ、古城じゃ! 古城があったのじゃ!」



 また随分とロマンあふれる単語が出てきましたこと。




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