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第83話 迫りくる変態



「予定通りの措置を執行いたしました」

「ご苦労だったね」

「……これで本当に良かったのでしょうか?」

「ああ。彼は最後にとても興味深いデータを残してくれたよ」

「……」

「ゲームの廃人が本物の廃人になってしまったのは少しばかり想定外だったがね」

「……最低ですね。あなたは」

「おいおい、言ってくれるね。私のせいではないだろう?」

「ええ。私も最低です」

「フッ、解ってるじゃないか。一蓮托生、ってね。もう後戻りは出来ないのだよ」

「……承知しています」

「それで、状況はどう?」

「現在、フェーズ2に移行中です。このまま『黄昏』が進行すれば……」

「ん。順調ってことだね」

「はい。ただ……」

「うん?」

「アップデートを早めなくてはならない可能性も出てきました」

「ほう!」

「プレイヤーの間で、新大陸へ再侵攻の気運が高まっています」

「いいね。面白くなってきたじゃあないか。そうでなくては困る」

「……本当に最低ですね」

「そうしみじみ言われるとさすがに傷つくよ。それできみは?」

「はい。予定通りに」

「ふむ……そうだね。なら任せたよ」

「はい、ではこれで」




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「ねぇん、お願いよォ~」


「えぇ~~……」


「なんでもするからさァ~」


「あ、それはいらないです(きっぱり)」


「やん! アキちゃんのいけずゥ~!」


「……」






 あの幻魔による騒動から数日後。


 プレイヤー名こそ明記されなかったが、彼と他数名が正式にアカウント停止処分になったと運営からのお知らせに記載されたのが一昨日。


 なんと、BANされた全員がハラスメント行為による処分だというから驚きだ。


 いったいなにやったんだよ……



 あれからなんとなくタイミングが合わず、今日になってようやくパーティーメンバーが揃った俺たちは、港町イーストエンドからニャルの故郷へ向かうべく船探しを開始した矢先のことだった。



「あらぁ~~ん! 可愛らしい幼女ちゅわ~ん! 探したわよォ~! 聞いていた以上に愛くるしいじゃないのさ~!」


 港で長身瘦躯、黒髪長髪の……男性(?)にいきなり声をかけられたのだ。


 異様に腰をくねらせる奇妙な歩き方。

 片眼鏡モノクルをかけた怪しげな風体。

 マスカラも口紅もバッチリな白塗りの顔。

 それでも薄く青い髭が見える。

 極めつけはその野太い声。


「人違いです」


 俺は即座に変態であると判断し華麗にスルーした。

 ヒナたちも無言でゾロゾロと続く。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってェ~ん!」


 くねんくねんと追ってくる変態。

 ツカツカと早歩きで立ち去ろうとする俺たち。


 いつしかそれは熾烈なデッドヒートと化していた。


「うぉおおおお! 待ってよォ~~~!」

「ぎゃああああ! 来るな変態ぃぃぃい!!」


「キンさん! ツナお姉さん! 変態(あの人)の狙いはアキきゅんです! 私たちは散開しましょう!」

「了解だヒナさん!」

「承知しました。キンさんは左へ、私とヒナさんは右へ」


「えぇぇ!? お……わたしを捨て駒にする気!? ヒナ! 後で覚えとけよぉぉおお!」


 なんて薄情なヤツらだ。

 俺を見捨てるなんて!

 ちくしょおおおお!


「アキさん、冗談ですので御安心を。私にお任せください」


 珍しく冗談を口にしたツナの缶詰さんだったが、今はまるで天使に見える。

 彼女はピタリと立ち止まり、追ってきた変態へ振り向きざまにラリアット!


「ぐべあ!!」


 赤黒い鎧に覆われたツナの缶詰さんの剛腕が、変態の喉元に見事炸裂したのだ。

 変態は首を支点に一回転し、その場へ顔面からブッ倒れる。

 対して、ツナの缶詰さんは鉄壁と思えるほど微動だにすらしなかった。


 それを視認してから俺も立ち止まる。

 本気で左右に散っていた薄情なヒナとキンさんも、どのツラ下げてかはわからないが恐る恐る戻ってきた。


「はぁはぁ……なんなのこの変態は……」

「見たところオカマさん、ですか?」

「どうもそうらしいね」

「いえ、違います。ああ、いや、オカマで間違いありませんけれど。『彼女』は考察解析特化団【翰林院アカデミー】の団長『ハカセ』さんです」

「えぇ!? ツナ姉さん知ってたの!? じゃあ逃げなくてもよかったじゃん!」

「なんとなく流れで……」


 まぁ、確かに、走り出したのは俺のせいか。

 でもこんなオカマに追われたら誰でも逃げ出すよな……


 しかし何度か耳にした『アカデミー』の団長が変態だったとはねぇ。

 これで本当に頭脳集団を率いるヘッドなのか?


「あいたたた……ツナさん、あんた酷いじゃないの!」

「申し訳ありません。アキさんが怖がっていたもので、つい」


 顔を押さえて起き上がる『ハカセ』とやら。

 ツナの缶詰さんの手に掴まって、ふらつきながらもどうにか立った。

 あのラリアットを受けて即死しないとは、意外とタフなオカマだ。


 もしかしたらVIT-INTとかに偏重したステータスなのかも。

 頭脳派がINTに振らないわけないしな。


「そのアキちゃんたちに、ちょ~っとお話があるのよねェ~」

「?」

「ここじゃなんだから、落ち着いて話せる場所に移動しましょ!」


 意気揚々とハカセが俺たちに案内したのは、港近くの酒場であった。

 酒場と聞くと、荒くれものたちの喧騒に満ちた野卑な空間を思い浮かべがちだが、ここはとても落ち着いた雰囲気で大人のバーといった風情だ。


「こういうところは初めてなのでなにか緊張しますね」

「わたしも……」


 未成年の俺とヒナは場違いな雰囲気に少し萎縮してしまう。

 それでも店の奥まったボックス席に皆が収まった時、話は冒頭の状況へと戻ったのだ。




「ねぇん、お願いよォ~」


「えぇ~~……」


「なんでもするからさァ~」


「あ、それはいらないです(きっぱり)」


「やん! アキちゃんのいけずゥ~!」


「……」



「お願いだからあたしたちと新大陸の攻略をしましょうよォ~~~~!!」




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