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第81話 圧倒的な差



 小盾が眩く輝き、蒼き閃光が港を覆う。


 輝きは幼女の全身を包み込んで宙へ舞い上がらせた。


 盾は形を失い、粒子となって身体に纏わりついていく。



 幻魔ゲンマもギャラリーもあまりの眩しさに目が眩んだ。



 粒子は変異し、新たな形を作り上げて行き────



 地に再び舞い降りた俺は、蒼く煌めきを放つ美しい鎧に覆われていた。


 頭部には両耳に純白の羽飾りがついた兜。


 美麗な装飾の施された胸当て、肩当て、手甲、脛当て、具足の一式。


 そして、俺の周囲をふたつの光球が回っていた。



「……な……なんだそれ(・・)は……?」


 視力が回復した幻魔もギャラリーも、俺を見て唖然とするばかりである。

 わざわざ答えを教えてやるまでもない。


 いや、待てよ。

 幻魔もご親切に自分のユニークジョブを明かしてくれてたしなぁ。

 俺も言わないとなんかモヤモヤしない?

 フェアじゃないっつーかさ。


「……仕方ないから無知蒙昧なアンタにも教えてあげる。アルティメットユニークジョブ【戦乙女】だよ」

「!?」


 お返しとばかりに皮肉を込めて言った途端どよめきが押し寄せ、皆の驚愕が如実に伝わってきた。


「戦乙女……ってことはやっぱあの神殿か!?」

「あそこ怪しかったもんな」

「でも私たちが行ってみたけどなにもイベントはなかったわよ?」

「待て待て、きっとなにか面倒な条件が……」


 察しのいいギャラリーには、やはり気付いた者もいるようだ。

 もしかしたら考察団の『アカデミー』や『ユニバーシティ』の関係者がいるのかもしれない。


 ところがどっこい残念賞。

 肝心の前提条件が未実装なんです、すみません。



「……バカな……そんなジョブは聞いたことがないぞ……! ハッタリだ!」

「そう思うなら試してみれば?」

「減らず口を!!」


 巨剣【ダインスレイヴ】を大上段に構え、一気に間合いを詰めてくる幻魔。

 まんまと俺の挑発に乗った様子。


 幻魔は微動だにせぬ俺を見て観念したとでも思ったのか、無造作に必殺の巨剣を振り下ろした。


 ガキィッ


「なにぃ!?」


 今度こそ目を剥く幻魔。

 血走った眼球がこぼれ落ちそうだった。


 驚くのも無理もない。

 ヤツが斬りかかった瞬間、俺の周囲を回っていた光球が半透明の蒼き盾となって巨剣を難なく受け止めたのだから。


 これが【戦乙女】のパッシブスキル【フォースシールド】だ。

 ふたつの光球が常に周回し、攻撃を受けると瞬時に盾化して俺の意思に関わらず自動的(・・・)に防御をするのだ。

 勿論魔法攻撃も防御の対象となる。


 ただし、これも無敵と言うわけではなく、盾には耐久値が設定されており、それ以上の攻撃を受けた場合は砕け散ってしまう難点もあった。



「クソォ! クソッ! クソオオオオ!」


 闇雲に巨剣を振り回す幻魔。

 だがそのことごとくを盾が甲高い音と共に防御する。

 どれほど速く剣を振るおうが、どれほど角度を変えようがそれは変わらない。

 背後を含む俺の360度全てが防御範囲なのだ。


「ハァハァ! ……汚いぞ貴様!! そんなジョブはチートではないか!」

「へぇ。自分が使う時は自慢げにいってたくせに、他人が使ったらチート呼ばわりか? わたしもあんたのユニークジョブなんて初めて見たんだけど」

「ぐぬっ!!」


 言葉を詰まらせる幻魔に、『そうだそうだ』とギャラリーがヤジを飛ばす。


 とはいえ、これだけ攻撃を受け続けたらそろそろ盾が持たない。


 ならばどうする。

 幻魔こいつは生半可な攻撃じゃ倒せないだろう。


 そして圧倒的な差を見せつけねば、いつまで経ってもツナの缶詰さんを諦めたりはするまい。


 つまり結論はひとつ。

 出し惜しみは無しってことだよな。


 俺はその『圧倒的な差』を作り出すためにちょっとした演出を考案した。



「クソッ! この不可思議な盾とて無限ではあるまい! ならば延々と攻撃し続けるのみ!」


 あらら、ばれちゃった。

 廃人団を率いているだけあって、愚かだけどバカじゃないんだな。



「無駄な努力はやめなさい。あんたはもう負けが決まってるんだから」

「世迷い言を!! 貴様さえいなければ! ……貴様さえいなければ! ツナを出せ! ツナを出せ! オレのツナをすぐに呼び出せぇええ!」


 ギンと盾に巨剣を押し当てたまま迫ってくる幻魔。

 目は真っ赤に充血し、額には無数の青筋が浮かび上がり、目を伏せたくなるほど醜い形相だった。


 狂気は人間にこんな顔をさせてしまうのか。

 ……わかったよ。

 引導は渡してやる。



 俺は高々と右手を天空へ突き出した。



「参れ! 聖なるつるぎよ!!」



 光の柱が直立し、その中から一本の剣が現れる。

 言わずと知れた【聖剣エクスカリバー】だ。

 あの戦乙女の試練を受けた時に、ヴァルキリーさんが見せてくれた武具召喚である。


 試練が終わったあと、やり方をヴァルキリーさんに教わったんだよね。

 実は、それっぽいエフェクトを発生させてる間にインベントリから武器を取り出すだけっていう、しょーもないネタ技なんだけどな。

 でも演出としてはバッチリだろ?

 現にギャラリーも超ビビってるし。



「さぁ、終わりにしよう……!」

「エ、エクスカリバー、だと……? ぐふぅっ!!」


 俺は幻魔の腹へ思い切り回し蹴りを入れて吹っ飛ばした。

 ヤツのリフレクション効果で俺にもダメージが入る。

 これで残りHPは4割。


 だが距離は稼いだ。


 『ヒロイックゲージ』もとっくに満タン。



「湖の乙女に賜りし聖剣よ、我が手に絶対なる勝利をもたらさんことを……」


 祈りを捧げながら詠唱を開始する。

 自動モーションが発動し、エクスカリバーを地面へ突き立て、両手を柄の上に置いた。



「円卓に集いし聖騎士たちよ! 我が剣、我が槍、我が盾となりて仇敵を穿つ光刃と化せ!!」



 俺の周囲に11体の人影が揺らめくように現れる。

 全員が様々な武具に身を包んでいた。


 その中の一人。

 赤い鎧を着た金髪の……半ば透明な美少女がこちらへ振り向き、ウィンクをしながら手を軽く振った。

 そして何事か呟く。


 俺には彼女の唇が『ち・ち・う・え』と動いたように見えた。


 父上!?

 俺が!?

 まさかこの子がモードレッド!?

 嘘ォ!?


 11人は朧気だった全身を光の刃に変えた。

 そのまま俺の周囲で回転する。


 俺もエクスカリバーを引き抜き、腰を落として身構えると、光刃たちも切っ先を幻魔へ定めた。

 光が臨界まで達した時、俺は叫ぶ。



「聖剣奥義!! 【ナイツ・オブ・ザ・ラウンド デモリッションバースト】!!」



 ゴオッと光刃たちが飛翔し、今度は幻魔の周囲を超高速で回転する。

 そして圧倒的なまでの破壊を開始したのだ。


 光刃による無数の斬撃が幻魔を切り刻む。


「グオオオオオ! リ、【リフレクション】!」


 幻魔は苦し紛れに攻撃を反射するも、HPの概念がない光刃の前にはなんの効力も及ぼさなかった。

 もはや成す術はない。

 己の身体が切り裂かれるさまを、贖いと共にただ眺めるのみだ。


 光刃たちは一旦離れ先端を鋭利にすると、再び幻魔へ一斉に襲い掛かった。



「ガッ、アアアァァァアアアアア!!」



 全身を11本の光刃で串刺しにされ、獣じみた絶叫を放つ幻魔。


 ヒナとキンさんが味わった痛みを思い知るがいい!


 更に自動モーションは止まらず、俺に強制的な構えを取らせた。


 半身で腰を落とし、聖剣を引く。

 その聖剣へ、見る間にオーラが満ち溢れていった。



「吼えろ聖剣! エクスカリバーーーー!!」



 突き出した聖剣から迸る光の奔流。


 極太のレーザーにも似たそれは、光刃ごと幻魔を飲み込んだ。






 閃光が霧散し、ようやく自動モーションが解除された時、倒れ伏したズタボロの幻魔と俺を見比べて静まり返っていたギャラリーから、一気に歓声が溢れ出したのである。



 な、なんか身体がふらつくな……

 ……うげ!

 俺のHPが1になってる!

 なんだこれ!?

 まさかこっちも割合ダメージ受けんの!?

 しかも99%!?

 諸刃の剣もいいとこじゃねぇか!

 いくら威力はあってもデメリットがやべぇだろ!

 こんな技、毎度使ってたら死ぬわ!


 っと、それどころじゃない。

 ヒナたちは……あそこか。


「……アキきゅん。やりましたね」

「お見事だった」

「へっへっへー。二人の仇は取ったよ」

「死んでません!」

「死んでない!」


 おーおー。

 ツッコミを入れる元気があるなら大丈夫だな。


「だけど、これでお……わたしもプレイヤーキラーかぁ」

「オーバーキルもいいとこでしたもんね」

「廃人を即死させるとは驚いたよ」

「ま、相手が相手だったし、手加減する気も余裕もなかったんだけどさ」


 おっと、そうだ。

 幻魔の野郎とはまだ話がついちゃいねぇ。


 回復を申し出てくれた司祭さんに二人を任せ、俺は幻魔の元へ向かった。

 ヤツの周りには野次馬が群がっている。


 死体蹴りでもしてんのか?

 そこら中から恨みを買ってるだろうしな。


「ちょっと通してくれる?」


「うおっ!? 幼女ちゃんだ!」

「おい、道を開けろ開けろ!」

「小さな戦乙女の登場だぞ!」

「や~ん! かわいい~~!」

「ちっちゃ~い!」


 ちっちゃいっていうなよ。

 実は気にしてんだからさ。


 人波を掻き分け、苦労して幻魔の元へ辿り着いた時────




「はいはーーい! きょきょ……ここまででーす!」



 ボン、と目の前にいきなり女性が現れたのだ。


 おかっぱ頭に黒縁眼鏡。

 真っ白な学校の制服と見紛う不思議な衣装。


 そして現れるなりセリフを噛む、この聞き覚えのある声の女性。




「きょの……この勝負は【GM(ゲームマスター) 004】こと、『リノ』が一旦預かりましゅねーー!!」



 ええええええ!?


 ゲームマスター!?


 つまり、この人が『噛み噛みちゃん』!?




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