第80話 幼女VS廃人(ガチ)
俺のなにを警戒したのか、幻魔はジリッと後退った。
この身を焦がすほどの燃え盛る気炎にか。
それとも、全身から溢れるほど漲った気迫にか。
おいおい、幻魔さんよぉ。
廃人団の団長ともあろう者が情けねぇぞ。
百戦錬磨なんだろ?
別ゲーじゃ散々いたぶってくれたじゃねぇかよ。
俺の内心が伝わったらしく、幻魔は巨剣を構え直し、一歩前に出た。
そうそう。
そうこなくちゃ。
テメェが俺と闘いたいっつったんだからな。
俺もインベントリから使い慣れた鬼神滅砕斧を取り出し肩に担いだ。
「……キンさん……動けます?」
「……うむ。動くだけならなんとかなるよ。だが戦闘は無理だね。あいつの武器かジョブ特性かはわからないが、切られた腕が痺れてる」
「そう、ですか。わっ、エグいことになってますね」
「エグいっていわないでおくれ! ……ヒナさんはそのまま横になっていたまえ。きみもお腹が痺れたように痛むだろう?」
「はい……でも、アキきゅんが……」
「アキくんなら大丈夫さ。きっと僕たちの仇を取ってくれる」
「ですよね……そうなんですけど、アキきゅんが後々まで恨まれるのではないかと心配なんです」
「……まったくきみはこんな時まで……ヒナさんは本当にアキくんを愛しているんだね」
「勿論です。私を容姿や家柄だけで判断せず、内面をちゃんと見てくれた人ですから。そんな素敵な人はアキきゅんしかいません」
「はいはい、ご馳走様」
幻魔は俺の顔から視線を外さぬよう注視しつつ、ジリジリと間合いを狭めてくる。
あれだけ息巻いていたというのにこれほどの慎重深さなのは、初見の相手との戦闘ゆえに取った戦略だろうか?
それにしては妙だ。
ヤツは明らかに俺のなにかを警戒している。
まぁいい、どうせ考えてもわからん。
俺はヒナにひどいことをしてくれた幻魔へのお礼参りをするだけだ。
……あと一応キンさんの分もな。
俺は大胆に視線を外し、鼻の頭を掻く素振りを見せてから一気に地を蹴る。
不意をつかれ、ギョッとなったツラの幻魔にニヤリと笑いかけた。
ドゴン
渾身の力を込めて大斧をブチかます。
だが幻魔も歴戦の廃人だけあって精神を立て直すのが早かった。
大剣を素早く差し込み、斧の刃を顔面ギリギリのところで受け止めたのである。
膂力に任せ、グイと押し込む。
しかし幻魔も負けじと押し返してきた。
く。
STR勝負は互角か。
となると、やべぇな。
一撃も貰えないってことじゃん。
はい、油断大敵。
「ドリャアァ!」
幻魔に斧を下から巨剣で跳ね上げられ、身体ごと宙に浮かされたのだ。
幼女は身体が軽いゆえに、それこそ軽々と。
舐めんな!
俺は弾かれた大斧を更に振り上げ、その遠心力を利用して一回転し、華麗に着地した。
ギャラリーからは『おお~~!』と驚嘆の声。
その中から『見えた!』とか『クソァ! 見逃した!』とか聞こえた。
いやん、エッチ!
じゃなくて。
どーもどーも応援ありがとー。
やってるこっちは結構ヒヤヒヤものなんだけどな。
「ウオオオオ!」
機を逃さず突進してきた幻魔を真っ向から受けてやる。
ガギンと金属同士が奏でる甲高い音。
この状況を待ってたぜぇ!
「雲身!」
特殊スキル発動。
瞬時に幻魔の背後へ回った俺にまたもギャラリーから歓声が。
そのままヤツの背中に一撃を────
ガィン
「!?」
なんと幻魔は背を思い切りのけ反らせ、巨剣で大斧を受け止めたのである。
なんちゅうアクロバティックな!?
出鱈目すぎるぞ!
そして幻魔もニヤリと笑い────
「雲身!!」
────一瞬で俺の視界から消え失せ……
「ぐはぁっ!!」
背中に走る衝撃と痛み。
海老反りになって前へ吹っ飛ぶ俺。
なっなんだ!?
なにが起きた!?
あの野郎、俺の【雲身】を!?
「貴様如きに習得できる特殊スキルがオレにできぬとでも思ったのか! 愚か者め!」
勝ち誇った幻魔の声が俺の考えを肯定していた。
俺をずっと警戒していたのは【雲身】だったのか。
だが、ヤツはどこで習得条件を知ったのだろう。
俺は身体を丸め、港の石畳を転がるうちに思い出した。
そうか……俺は以前、一度だけ他人に話したことがある。
ラフレシアプラチナムでレベル上げをしている時に出会った聖ラさんって女司祭にな。
くっそ、あの人よりによってハンティングオブグローリーの団員だったのかよ。
しくじったなぁ。
……いや、まさか、最初から俺を探りに来てたのか?
幼女なんて【OSO】じゃ珍しいもんな。
あー、迂闊だったわぁ。
ま、知られちまったもんはしょうがねぇ。
俺は態勢と気持ちを切り替えると、再度正面から幻魔へ突っ込んだ。
お互いが【雲身】を習得済みとわかった以上、ここからは読み合いになるだろう。
いや、分が悪いのは明らかに俺のほうだ。
俺は幻魔のように【雲身】を受けきる自信はない。
やってみれば出来るかもしれないが、そんな博打に賭けたくなかった。
なら、奇策に出ればいい、ってね!
「むぅっ!?」
俺は幻魔の眼前まで迫ってから急激にしゃがんだ。
ただでさえ小さな幼女がいきなり屈んだら、雲身を使わずとも消えたように見えるだろう。
そしてヤツが泡を喰っている間に膝へ斧を叩き込む。
「うぐっ!」
だがダメージを受けたのは、なぜか俺のほうだった。
先程背中に受けたダメージと相まって、HPが5割方減っていた。
ヒナやキンさんのように痺れていないのは鎧のお陰で切り傷をもらっていないからかもしれない。
色々厄介だな……
しかし、一応幻魔もカスダメは負ったようだが、今のは一体……
「フハハハ! 無知蒙昧な貴様にもわかるように教えてやろう! 今のは【カースナイト】の固有スキル【リフレクション】! 受けたダメージを軽減し何割かを相手へ反射させるものなのだ!」
いちいち頭にくる言い方しやがって……
このストーカー野郎が。
だが謎は解けた。
なるほどね。
クソ便利なスキルを持った壊れジョブですこと。
しかし参ったなこりゃ。
【姫騎士】スキルは全体バフだから、個人だと使い勝手も燃費も悪すぎるんだよなぁ。
かといって生半可な剣士系スキルじゃ全く通用しないだろうし……
はっはっは、笑うしかないね。
勝ち目が全然見えてこねぇや。
……今のままでは、な。
「これでもう理解したであろう! 貴様のようなザコではオレに勝てぬと! 諦めてツナを呼び出せ!」
ギャラリーから巻き起こる凄まじいブーイングも意に介さずに叫ぶ幻魔。
彼の耳は、もうなにも聞こえていないのかもしれない。
彼の頭は、もうツナの缶詰さんのことしか考えていないのかもしれない。
「やだね。ツナ姉さんはわたしの大事な仲間だもん。それに、まだ負けたわけじゃないしね」
「強がりはよせ! 貴様にはもはや何の手立てもあるまい! 切り札の【雲身】も通用しなかったのだからな!」
「は? あのね、切り札ってのは最後まで取っておくもんでしょ?」
「な……に……?」
俺は鬼神滅砕斧をインベントリへ放り込み、かわりに【ヴァルキュリア・リュストゥング盾形態】を取り出して左手に持つ。
「そのような小さき盾で何が出来る! オレを……このオレをバカにしておるのではないのか……?」
俺の奇妙な行動が気に入らなかったのか、怒りの余り語尾が小さくなる幻魔。
正直言って、大勢の人がいる前でユニーク関連を見せるものでもないのだが、こんなカス野郎に負けるよりは100倍マシだ。
今こそ使わせてもらいますよ、ヴァルキリーさん!
俺は突き出した盾の上部スイッチを押し込み、そして叫んだ。
「【ヴァルキリー・フォーム】!!」




