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第77話 凶行



「なぜだ……なぜこうなった……」


 攻略最前線キャンプ地における『ハンティングオブグローリー』専用の天幕。

 その火も焚かれず薄暗い内部で、幻魔ゲンマは一人、椅子に腰かけ頭を抱えた。


 彼はここ数日、ずっと煩悶を繰り返していたのだ。


 迂闊な自分のせいで邪神アポピスが解放され、世界に黄昏が訪れた。

 それに伴い、新大陸では今、大きな混乱が巻き起こってしまったからだ。


 あの逆ピラミッドから邪神アポピスのみならず、その強力な軍勢までもが溢れ出し、この大陸を席巻していたのである。


 事情を知った『ユニバーシティ』や『アカデミー』のプレイヤーたちは、当然のことながら尋常ならざる勢いで幻魔へ詰め寄った。

 今後はもう、円滑な新大陸の攻略が非常に困難となるがゆえに。


 現に識者の間では、最早このキャンプ地も長くは持たないだろうという見解で一致しているのだ。

 このままでは攻略そのものを一度諦め、邪神と対抗できる戦力を確保したのちに再出発を図るほかはないとも。


 逆ピラミッドダンジョンへ同行していた『アカデミー』の団長『ハカセ』も出来得る限り幻魔を擁護していたが、糾弾は止むことがなかった。

 それは幻魔をハンティングオブグローリー創設当時から支えてきた副団長のセイラやぺろり~ぬも同様であった。


 今は情報封鎖によって水際で食い止められているこの現状も、すぐワールド中に知れ渡ってしまうのは明白だ。

 NPCであればともかく、プレイヤーの口には戸を立てられぬのだから。


 そうなれば幻魔は完全に破滅する。

 トッププレイヤーの一人としても。

 トップ団の団長としても。


 とかく目立つ廃人団ゆえに、それを良しと思わぬ輩も大勢いるのだ。

 そんな連中が喜んでオレを弾劾するであろう、と幻魔は考えた。


 彼は己が疎まれていることも重々承知している。

 別のゲームにおいても好き放題やってきた。

 多くの人を泣かせ、敵に回した。

 そのツケがとうとう回ってきたのだ。


「こんな……こんなはずではなかった……」


 頭を抱え、なにもない床を凝視した幻魔の口から苦し気に声が漏れる。

 だが彼は自身に纏わりついている邪悪な気配に気付いていない。

 薄い皮膜のようなそれ(・・)が邪悪な意思を持って蠢いていることを知らない。


「……だんちょぉ。ここにいたのぉ?」


 ぺろり~ぬが天幕にそっと入ってきた。

 幻魔を気遣ってか、その独特な口調の声は小さい。

 彼女は戦闘から戻ったところなのか、右手に魔導士の杖を所持していた。

 その杖をインベントリへ仕舞いながら幻魔の様子を窺う。


 ボクが朝出て行った時とぉ同じ姿勢のままだねぇ。

 リアルでもぉ全然ご飯を食べてないっぽいんだよねぇ。


「……終わったことをあんまり気にしてもぉ仕方ないでしょぉ? ボクが癒してあげるからさぁ、あんな女のことはぁもぅ忘れちゃいなよぉ」


「……貴様に……なにがわかる……!」


 しまった、とぺろり~ぬは思った。

 彼を心配するあまり、余計なことを口走ってしまったのだ。

 どう伝えれば彼に納得してもらえるかを考え始めた時、幻魔は突然立ち上がった。


「貴様がそこまで言うのなら、今すぐオレを癒してもらおうではないか!」

「えっ? きゃぁ! ちょ、ちょっとぉ!」


 なにを思ったか、幻魔はぺろり~ぬをいきなり抱きすくめたのである。

 そのものすごい力に、腕から脱け出すことも、身体を動かすことすらもかなわなかった。


「オレを想うのならば貴様の全てを捧げろォ! 心も、身体も余さず全部だ!」

「やっ、ヤダッ! やめてよぉ!」


 強引にぺろり~ぬへ顔を寄せ、無理矢理唇を奪おうとする幻魔。


 今、幻魔の脳内ではけたたましいほどの大音量でハラスメント警告音が鳴っている。

 直接聞けば鼓膜が破れかねない音を電気信号に変えて直接脳へ送っているのだが、幻魔はまるで意に介していないかのようであった。


 彼女は必死に顔を背け、わずかながらも抵抗する。

 しかし、顎を抑えつけられてはそれも出来なくなってしまった。

 ぺろり~ぬの頬を伝って涙が幾筋も流れた時。


「……あなたたち、なにをやっているの……!!」


 普段からは考えられぬ大声を発しつつ、聖ラが天幕へ飛び込んできたのだ。

 彼女はつかつかと柳眉を上げて幻魔たちへ近付くと。


 パァンッ


 問答無用で幻魔の頬を思い切り張ったのである。

 聖ラも零れる涙をものともせず、キッと彼を見上げて睨みつけた。


 その気迫に気圧されたのか、それとも正気を取り戻したのかはわからぬが、幻魔はぺろり~ぬの身体をようやく解放したのだ。


 そして天幕の出口へ歩きながら、ボソリと一言だけ残していった。



「もう……終わりだ……」



 残された聖ラとぺろり~ぬは、彼の背を黙って見送ることしか出来なかったのである。



 幻魔は振り返らない。


 真に憎むべき相手に思い至ってしまったから。



 己の愛する女を奪い去った小さきその姿が鮮明に脳裏へ浮かぶ。



 駆けだした彼の背中には、蛇のように絡みついた黒いものが邪悪な笑みを浮かべていた。



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【OSO内で】噂話スレッド【プレイヤーは見た!】




ノーネームプレイヤー:最近変じゃね?


ノーネームプレイヤー:なんだか空が暗く感じるよな


ノーネームプレイヤー:なにいってんだこいつ


ノーネームプレイヤー:黄昏てんじゃねーぞ


ノーネームプレイヤー:草生えるwwwwwwww


ノーネームプレイヤー:だれうま


ノーネームプレイヤー:結局黄昏ってなんだったんだ?


ノーネームプレイヤー:さーねー


ノーネームプレイヤー:噂は腐るほどあるけどな


ノーネームプレイヤー:そうなん?


ノーネームプレイヤー:しらんけど


ノーネームプレイヤー:知らねぇなら喋んなカス


ノーネームプレイヤー:殺伐として参りました(^ω^)


ノーネームプレイヤー:顔文字死ね


ノーネームプレイヤー:喧嘩すんなカスども


ノーネームプレイヤー:最前線のほうでなにかあったみたいですよ


ノーネームプレイヤー:どっちも死ねカス


ノーネームプレイヤー:待って↑↑がなにかいってる


ノーネームプレイヤー:最前線で?


ノーネームプレイヤー:なにかってなんだよ


ノーネームプレイヤー:噂っていや『ハングロ』が内部分裂してるとかは聞いたぞ


ノーネームプレイヤー:は?


ノーネームプレイヤー:はいはい嘘乙


ノーネームプレイヤー:いやあり得るぞ あそこの団長クソみてぇなヤツだからな


ノーネームプレイヤー:別ゲーでもうざかったぞあいつ


ノーネームプレイヤー:その団長さんが最前線でなにかやらかしたから世界が黄昏たって話ですよ


ノーネームプレイヤー:なんだお前


ノーネームプレイヤー:事情通か?


ノーネームプレイヤー:事情通wwwww


ノーネームプレイヤー:バロスw


ノーネームプレイヤー:ここでいってもいいのかわかんねぇけど


ノーネームプレイヤー:ワロッシュw


ノーネームプレイヤー:なんだい?


ノーネームプレイヤー:噂ならいってもいいだろ


ノーネームプレイヤー:はよいえや




ノーネームプレイヤー:ハングロの団長のせいで邪神が復活したんだとさ





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