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第72話 聞かなきゃよかった事実



 【聖剣エクスカリバー】の『鞘』。


 かつて、アーサー王はエクスカリバーと共に、この鞘を身に付けていた。


 その鞘には途轍もない魔力が込められており、アーサー王の身体をあらゆる攻撃から守護したという。


 つまりアーサー王は無敵の剣と無敵の盾を同時に所持してたようなものである。


 しかし、アーサーの異父姉モーガン・ル・フェイが謀略を巡らせ、ついにその鞘は奪い去られてしまった。


 それ以降、アーサーは凋落の一途を辿ることとなる。


 そして、実子(もしくは甥とされる)モードレッドと一騎討ちの果てに致命傷を負ってしまうのだ。





「悪かったのじゃーーー! じゃからそやつを近付けるなーーー! いーーやーーじゃーーー! うぎゃーーー!」

「ふへへ、ぐへへ、のじゃロリ~~~~」


 手をワキワキさせてニヘニヘ笑うキンさんへ、問答無用でヴィヴィアンさんの背中を押し近付けてやる。

 ヴィヴィアンさんは首をブンブン振って抵抗するが、レベルカンストした俺のSTRに抗う術はない。


「やむ! 心がやむからやめるのじゃーーーー!」

「じゃあ、なんで鞘をなくしちゃったの? 正直に答えてどうぞ」

「そっ、それはその……一人でボーっとしておると退屈じゃろ? ……ここには誰も訪れぬし、訪れたとしてもそやつらはフラグを立ててないし」


 ヴィヴィアンさんはどうしてもメタいことを言っちゃうタイプなんだなぁ。

 プログラムミスかな?


「それでの、鞘で遊んでた時に、なんだかすごく飛びそう(・・・・)な形状をしておるもんじゃから、つい……」

「……まさか……投げたの(・・・・)……?」

「う、うん……」

「よく飛んだ……?」

「……それはもう、一直線に空の彼方へ消えていったのじゃ……」

「……気持ち良かった?」

「……とっても……」

「……満足?」

「……は、はい……」

「……」

「……」


「ツナ姉さん! ヴィヴィアンさんを思い切り愛でてあげて!」

「(いいんですか!? 本当に!? わーい!)御意!!」

「にょわーーーー! やっ、やっ、やむぎゅーーーー!!」


 ものすごい勢いでツナの缶詰さんに拘束さ(抱きしめら)れ全力を以て撫でくり回されるヴィヴィアンさん。

 ずっと物欲しそうにこのダメ妖精を見ていたツナの缶詰さんも本望だろう。

 俺はパンパンとヴィヴィアンさんを放り投げた手を払う。


 流石の俺もヴィヴィアンさんをキンさんへの生贄するほど鬼畜ではなかった。

 だが、ツナの缶詰さんの愛撫も尋常ではない。

 それでもキンさんにペロペロされるよりはだいぶマシなはずだ。

 武士の……いや、姫騎士の情けとでも思ってもらおう。


 全くもう、聞かなきゃよかった。

 ふざけた事実が露呈しただけじゃねぇか。


「まさか投げ捨ててたとは恐れ入ったぜ……なんてことをしやがる。物の価値を知らんのかこのダメ妖精は」

「あ、アキきゅんめっちゃ怒ってますね? 言葉に出てますよ」

「おっと、いけないいけない。ヒナ、ナイス忠告」

「でも、鞘があったとしてもどんな効果になってるんでしょう?」

「というと?」

「だって、伝説だと傷を負わなくなるんですよね? コンシューマゲームならともかく、MMORPGでそれをやっちゃうと……」

「あっそうか。チートアイテムになっちゃうね」

「そうなんですよー。だからなにかの効果が付与されているとしても、それはきっと限定的なものなんじゃないかなーって」


 確かにヒナのいう通りだ。

 そんなアイテムが存在していたらバランス崩壊もいいところだろう。

 となると考えられるのは、せいぜいダメージ軽減やカット、といった感じか。


 あれ?

 やっぱり欲しいな!?

 持ってるだけでダメージが減るなら充分すぎる性能だろ!


 まぁ、無くなっちまったもんはアレコレいっても仕方ねぇ。

 縁があれば見つかるんじゃないかな。

 ……誰かが既に拾ってる可能性も否定できないが。

 そん時はそん時だ。


「やーっははははは! く、くすぐったいのじゃ~~! うひ~~!」

「(はぁ~ん! かわゆいですね! どこもかしこもすべすべです!)ハァハァ!」

「…………のじゃロリ……」


 ……この二人はまだ戯れていたのか。

 キンさんはキンさんで羨ましそうに涎を垂らしているし。


 うちのパーティーは変態しかいないのだろうか。

 勿論俺とヒナを除外してだが。


 しかしまぁ余計な道草を食っちまったもんだな。

 エクスカリバーが手に入ったのは大収穫だったけどさ。

 早く試してみたくてウズウズするね。

 うひょう!



「ツナ姉さん、キンさん。そろそろ出発するよー」

「(もう少し撫でていたいですが)了解しました」

「そうだね……行こうか(僕も撫でたかった……)」


 名残惜しいのか、ノロノロと立ち上がる二人。

 ようやく解放されたヴィヴィアンさんは疲れ切った表情でヘロヘロと飛びながら俺の後ろへ隠れた。

 ツナの缶詰さんの恐ろしさをやっと理解したようである。


「ヴィヴィアンさん。わたしたちは行くね」

「……そうか。また寂しくなってしまうのじゃ」


 本当に寂しげな顔になるヴィヴィアンさん。

 NPCだとわかってはいても少し可哀想になってしまう。

 こんなところに一人ぼっちは誰だってきつい。


「そうだ、割と近くにマーリンさんがいたから連れてこようか?」

「お断りなのじゃ」


 キッパリと言い切るヴィヴィアンさん。

 思わず俺とヒナは顔を見合わせる。


 あれっ?

 伝説だとマーリンさんってヴィヴィアンさんに恋をしてるんじゃなかったっけ?


「あやつにはここへ近付けぬように一種の呪いをかけてあるのじゃ」

「えぇ!? なんで!?」

「鬱陶しいからに決まっておるのじゃ。わらわはあまり好かぬでの」

「……だからマーリンさんはあんなところでうずくまっていたのね……」


 これはもしかして、マーリンさんの一方的な片思いってやつですかぁ?

 でも、なにがあったのかは知らんが、男女の間柄に首を突っ込むのはやめたほうがいいよね。

 ツッコミ職人を自称する俺だけど、色恋沙汰は無理!

 どうせ、ろくなことにならん。


「お主らといるのはなかなか楽しかったのじゃ……できればその……」


 ヴィヴィアンさんは言い難そうにモジモジしている。

 先程まで老婆だったとは思えぬ可愛さだった。


 ま、なんとなくいいたいことはわかるよ。

 だから────



「うん! また来るね!」



 俺の笑顔にヴィヴィアンさんの表情もパッと輝くのであった。




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