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第69話 魔術師の護符



「やれやれ、ようやく外に出られたのじゃ。このままサービス終了まで……おっと違った、このまま一生出られないのかと嘆いていたところなのじゃ」



 何気にメタいことを言いながら、さも大儀そうに腰を叩く【湖の乙女】と思しき────



 老女!!!!



 何故か衣装だけはまるで妖精が着るような羽毛っぽい緑色のヒラヒラドレスなのが、こちらのイラツキ度を一気にヒートアップさせた。


 これのどこが乙女だよ!

 枯れ果ててるじゃねぇか!!


「うわああああ! のじゃロリを期待した僕のピュアな気持ちを返せえええええ!」


 案の定、それを見て即座にブチキレるキンさん。

 頭を抱えて『ノー! ノー!』とのたうっている。


 うんうん。

 その気持ちは俺もよーくわかる。

 なんでか知らんが『詐欺だ!』とか『金返せ!』とかの単語が浮かんだもの。


「せめてロリババアにするという選択肢はなかったのかああああああ! クソ運営めええええええ!」


 キンさんはそのままゴロンゴロンと転がりながら泣きわめく。

 史上まれに見るキレっぷりだった。


 これには俺もヒナもツナの缶詰さんも呆気にとられる。

 そしてそれぞれ見当違いな感想が口をついた。


「ま、まぁ、【湖の乙女】といっておきながらこれ(・・)はないと思うけどさぁ……」

「確か、マーリンさんは湖の乙女(・・)に恋をしてるって伝説でしたよね……年上すぎません?」

「……人の趣味嗜好というのは奥深いものです」


 そんな俺たちに対し、やれやれ顔で首を振る皺くちゃな湖の乙女(仮)。


「なんじゃ。初めて出会ったプレイヤー……ではなく、冒険者じゃというのに、ずいぶん失敬な連中じゃのう」

「うおおおお! 声だけロリボイスなのが余計にムカつくんじゃあああああああああ!」


 今日のキンさんは普段のキレ芸と一線を画した本気のガチギレっぽい。

 なにが彼をそこまで駆り立てているのだろうか。


 スケベ心だと思います。

 意外とロリコンだもんなこの人。


「な、なんじゃこやつは……お主らのツレかの?」


 ほれ見ろ。

 NPCですらドン引きしてるじゃねぇか。

 俺たちまで同列と思われちゃ困る。

 ならばこうだ!


「ううん、全然知らない人!」

「(なるほど! アキきゅん了解です!)そうですねぇ、かろうじて見覚えがあるくらいです」

「……(え!? え!? アキさんが私へウィンクを何度もしてます! かわゆい! ……え? ああ、合点がいきました! 話を合わせろと言うことですね! キンさんごめんなさい!)……ほんのりとどこかでお見掛けした可能性は否定しきれません」


「きみたち!? 僕を切り捨てる気だね!?」


 愕然とするキンさんを余所に、湖の乙女は満足そうに頷く。

 やはり同じ女性陣(俺含む)の言葉には納得がいくのだろう。


「そうじゃろうそうじゃろう、お主らはわらわと同じ清らかな乙女じゃからのう。ユニコーンが懐いているところからもそれがわかるというものじゃ」


 なにやら爆弾発言を聞いてしまったような気がする。

 そのお年で……?

 などとはとても聞く気にならない。


「それで、お主らはなぜここへきたのじゃ?」


 湖面から数十センチメートルほど上空で胡坐をかき、煙管に火を点す乙女。

 その貫禄はまるで場末のバーを経営するママのようだ。


 だがこれは重要な質問であると俺は見抜いた。

 フラグが立っているからこそ、このNPCは現れたのだ。

 つまり、俺が今まで取ってきた行動を鑑みれば答えは容易い。


「魔術師のマーリンさんが予言をしてくれたの。わたしに湖の乙女と会えって」

「ほう、マーリンが……他になにかいっておったかの?」

「うん。わたしは『王』なんだって。マーリンさんはわたしを『アーキー・ペンドラゴン』って呼んでたよ」

「なにっ!? そっ、そうか……うむ、うむ。確かにお主はマーリンの加護を受けておるようじゃの」

「加護?」

「スカートの内側を見てみるがよいのじゃ」


 言われるがままにニコから下馬し、ピラリとスカートを捲り上げると、裏地には四角い紙片が張り付けられていた。

 その紙片にはわけのわからない文字や記号がビッシリと描かれている。

 それはまるで呪術用のお札か護符に見えた。


「うわ! なにこれ!? 護符!? あの人いつの間に張ったの!?」

「ちょっ! アキきゅん! キンさんとツナお姉さんがスカートの中をガン見してますよ!」

「えっ!? へ、変態! ツナ姉さんはともかく、キンさんのド変態!」

「これはレディに対し、失礼いたしました(眼福! 眼福です!)」

「ぐはぁっ! 僕はそんなつもりじゃなかったんだあああああ! でも目が勝手に見ちゃうんだああああああ!」


 俺が男とわかっていながら全力で注視した己を恥じるように、そしてこんな忌まわしい記憶は失ってしまえとばかりに地面へ何度も頭を叩きつけるキンさん。

 彼のものすごい葛藤ぶりが嫌でも伝わってくる。


 お、おい、HPがガンガン減ってるからやめとけって。

 もう見ても怒らないからさ。

 いや、やっぱ怒るかも。

 だって恥ずかしいんだもん!


「アキきゅん、スカートを押さえて可愛いポーズしてる場合じゃないですよ、乙女さんがなにかいってます」

「乙女さんて……」


「アーキー・ペンドラゴンよ。その護符を良く見せるのじゃ」


 スイーッと湖岸まで近付いてきた湖の乙女さんは俺の眼前でピタリと止まった。

 アーキーじゃないんだけどなぁと思いつつ、乙女に向かって恥じらいながらスカートを捲った。

 顔を少しそむけ、意図的に頬を羞恥で染める。


 どうよ。

 この完璧なロールプレイ。

 ネカマも真っ青だろ。

 その証拠に見ろよ。

 ヒナもツナ姉さんも、キンさんまでキュンキュンしてる。



「うむ、間違いないようじゃの。これはマーリンが記したものじゃ。よかろう、お主を王と認め、来たるべき時に備えて魔法の剣を授けることにするのじゃ」



 きた!

 ついにきた!


 アーサー王伝説。

 魔術師マーリン。

 湖の乙女。



 これらが示す魔法の剣とはつまり───




「これが【聖剣エクスカリバー】じゃ!」





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