第64話 予言
自らを魔術師マーリンと名乗った銀髪イケメンNPC。
彼は衝撃的な言葉を発し、そのあまりの事態に言葉を失う俺たち一行。
当然ながら、一番驚いたのは俺である。
それもそのはず、このマーリンさんは、なんと俺を『王』であると言い放ったのだ。
これで仰天しないほうがどうかしている。
冷静に『あ、そうですか。こりゃどうもどうも。私が王です!』などといえるほど俺の肝は太くないし、厚かましくもない。
それに、魔術師マーリンといったら、そりゃもうあの誰もが知る超有名な物語の登場人物なわけで……
「まさか王自らがこのマーリンに食事を供してくださるとは……! 感激の極みです!」
俺の前に跪き、両手を合わせて拝むマーリンさん。
まるで神の洗礼を受ける敬虔な教徒だ。
どうやら冗談でもなんでもなく本気で俺を王だと思っているらしい。
それにしたって、いくらなんでも『アーキー・ペンドラゴン』はないよなぁ。
ぶっちゃけ『ア』の文字しか合ってないじゃん……
元が『アーサー・ペンドラゴン』なんだぞ?
強引すぎるだろ。
そう、魔術師マーリンも、アーサー・ペンドラゴンも『アーサー王伝説』の登場人物なのである。
つまり、マーリンさんは俺を恐れ多くもアーサー王だと勘違いしているわけだ。
あり得ねぇよ……
こんな幼女のどこに王っぽい部分が……
自分の姿をなんとなく見やる。
盾形態の【ヴァルキュリア・リュストゥング】と、金属片で補強された青いエプロンドレスに胸当て。
くるりとその場で一回転してみるが、ヒナたちが萌えた以外では普段となんら変わりがない。
……ちょっと待て。
まさかとは思うが、この格好のせいか?
某セ〇バーさんっぽい衣装だからなのか!?
確かあの人もこんな感じの服装だったろ!?
だとしたら、やはりこのイベントフラグは、未実装ジョブである【姫騎士】が関係してたってことかー!?
姫って付くくらいだから、確かに王族関係なのかもしれないけどさぁ!
こじつけにも程ってもんがあらぁ!
だけど、そうか。
これじゃいくら他のプレイヤーたちが悩んだって答えが出るはずないよ。
未実装ジョブじゃどうしようもねぇし。
ん?
俺が姫、つまり王ってことは、アーサー王とマーリンの伝説になぞらえると、これはもしや……うまくすれば……うっへっへっへ。
「斯くも麗しき王よ。私は貴女様の到来をずっと待ちわびていたのでございます」
マーリンさんは片膝に態勢を変え、恭しくいう。
なんでこんなところで待つ必要が?、などというどうでもいい疑念はおくびにも出さず、俺は笑みを作ろうとする表情筋を無理矢理ねじ伏せながら、なんでもないように努めた。
「あっ、アキきゅんのあの顔。絶対なにか裏がありますね」
「そうなのかい?」
「私にはわかります。あれは笑いをこらえてる時の顔です。なにかとても楽しいことを発見したみたいですよ」
「ヒナさんはすごいですね。アキさんを深く理解していらっしゃる」
ヒソヒソと耳打ちするヒナとキンさんにツナの缶詰さん。
聞こえてるぞそこ!
ってか、なんでバレたの!?
ヒナすげぇな!
俺の研究者かなにかか?
いや、落ち着け俺。
まだ、このイベントがそうだとは決まったわけじゃないぞ。
「マーリンさん、それはどういうこと?」
「あぁ! 私に敬称をつけてくださるとはなんと慈悲深い! 王たる者の威厳としてはどうあれ、私はアーキー王のそんな優しさに感銘を受けたのです! これほどご立派になられて、父王ユーサーさまもきっとお喜びになられているでしょう!」
いや、俺とあんたは初対面でしょうが。
さも旧知の間柄みたいにいわれてもなぁ。
まぁ、イベントシナリオってのは多少強引なもんではあるんだが。
それと『アーキー王』は恥ずかしいからやめて。
だいたい俺の父親はユーサー・ペンドラゴンじゃないから。
子供をほったらかして世界遺産を巡ってるポンコツ親父、火神秋人ですから。
「では偉大なるアーキー王へ、ひとつ予言をいたしましょう」
おっ!?
いよいよきたか!?
待ってました!
「……これは王にとって、とても重大なことです」
「うんうん、なぁに?」
ついつい期待と興奮で前のめりになる俺。
「将来、貴女の実子モードレッドによって国は滅ぼされることでしょう」
「なんの話!? わたしに息子なんていないよ!?」
「いえ、モードレッドは女性ですよ」
「突っ込むところそっち!? そもそも伝説の人物を勝手に女体化すんな!」
伝説ではどうなったのかよく知らないが、そんなもんを俺のせいにされても困る。
ハァハァと息を切らせる俺へ更に────
「……アキきゅん……いつの間に子供を産んだんですか……? 私というものがありながら……!」
「産めるかっ! お前、絶対あり得ないとわかってていってるだろ!?」
「えへへー、泥沼の修羅場を再現してみました」
と、追い打ちをかけて余計に俺を疲れさせるヒナなのであった。
可愛いし面白かったから許すけど!
「アキくん、きみの狙いはなんなんだい? がっかりしてるみたいだが」
「シッ、キンさん。ここはアキさんにお任せしましょう」
「ほう、ツナの缶詰さんにはアキくんの考えがわかるんですか?」
「ええ。不確かではありますが、予測はできます。キンさんもすぐおわかりになるはずです」
さすがツナ姉さん、察しがよろしいですな。
それに比べてキンさんときたら。
俺のようにもっと様々なゲームをやり込むべきだぞ。
アーサー王っつったら真っ先にアレを思い浮かべるのが普通だろう?
「ねぇ、マーリンさん。他にはなにか私に関する予言はないのかしら?」
「……他に、ですか……そうでございますね……」
イケメンは顎に手を当て思案顔だ。
そんなポーズでもさまになるのだからいい男ってのは得だね。
いやいや、どうにか捻りだしてくれよ。
俺はどうしてもそいつが欲しいんだよ。
あの伝説の剣がね!
「そうだ! そうでした! いやはや、最も重大な事柄を忘れていたとは! このマーリン、一生の不覚!」
両瞼を抑えて己に失望したかの如く、やれやれと首を振るマーリンさん。
うんうん!
たぶんそれそれ!
はよはよ!
「アーキー王! このエリアの近辺に『湖』がございますれば、そこへ赴き『湖の乙女』とお会いなされるがよろしかろうと存じます!」
きたーーーー!
ねぇみんな!
フラグが立った!
立ったよ!!




