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第61話 最果てを目指して



 ボソボソと、まるで周囲を憚るような小さき声が薄暗い室内に漂っている。

 その声の主は長方形の板を耳に当てていた。

 どうやら誰かと通話中らしい。



「はい……ええ、現状はそういうことです」

『ふむ、こちらは了解したよ。では、現時刻を以て今のきみが持つ任を解く。そして【因子】と共に行動することを正式に許可しよう』

「……ありがとうございます。向こうは抜けてもよろしいのですね?」

『ああ。あちらには別の者を担当に付ける。それに、これまでのデータだと彼らに見るべき部分はそれほど無さそうだ。プレイ時間だけはやたらと長いのだがね』

「ふふっ、それはいいすぎですよ。彼ら無くしてはこれほどまでに捗らなかったでしょう?」

『ふはは、確かにそうかもしれない。だがそれも、きみあってのことだよ』

「いいえ。私はあの子たちのために動いているだけですから」

『……きみの行動原理は必ずそこ(・・)に帰結するのだね』

「いけませんか?」

『いや、少し羨ましいだけさ』

「あら、ご家庭でなにかありました?」

『……きみは時々鋭いね。まぁそれはいい。今後も協力のほど、よろしく頼むよ』

「了解です」


 通話終了ボタンを押し、小さく溜め息をつく。

 そして憂いを含んだ瞳で白い壁を見つめた。


 未来(向こう側)を見通すかのように。




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「そう、ですか。そんなことが……さぞ怖い思いをしたでしょう。世の中には特殊な人も大勢いますので」


 そういいながら、まるで我が子を慈しむかのように俺とヒナの頭を撫でるツナの缶詰さん。

 しかし、彼女の身体は頭からつま先まで禍々しい鎧に覆われている!


 いたただだだ!

 手甲のトゲが脳天に刺さってるって!


 『お前ら毎度懲りないな』とお思いだろうが、ツナ姉さんには世話になりまくってるんでね。

 このくらいは俺もヒナも甘んじて受け入れるのだよ。


 それに、なぜかツナ姉さんに逆らってはいけないような気がしてな……

 なにもいわないけど、ヒナもそんな風に思っている節がある。

 理由は全くわからねぇ。


 ともかく、あのガチレズ鍛冶師たがねさんのいた武器屋から宿屋へ戻り、ツナの缶詰さんに先程の恐怖体験を語って聞かせたのである。


 ……なんか妙なアニメのタイトルみたいだな。

 【ガチレズ鍛冶師たがねさん】

 語呂も語感も完璧じゃね?


 脳内に浮かぶアニメ調のたがねさんが高笑いをしながらモンスターに飛びかかる妄想を振り払う。


 その先はいけない。

 あのギザ歯でモンスターを食い散らかしたり、多数の女の子を集めてハーレムを築きあげウハウハしそうだもんな。

 色んな意味でヤバいアニメになっちまうよ。


 とはいえ、たがねさんには一応感謝もしている。

 ヒナとキンさんの装備が大幅に充実したからだ。


 ヒナの購入した【捕食者の杖】は効果もすごい。

 使用者のHPをその名の通り『喰らい』、魔法攻撃力を上昇させ、尚且つ攻撃対象となったモンスターの魂を『喰らい』、使用者のSPに還元するというなかなかブッ飛んだ武器だ。

 しかもHPが少ないほど魔法攻撃力が上がるというおまけつき。

 死の危険と隣り合わせではあるものの、きっちりとHPの管理が可能ならば非常に強力だといえるだろう。


 こんなわけのわからん効果を付与した武器を作成できるのだから、たがねさんはやはり有能なのかもしれない。


 まぁ、その分とんでもない金額を要求されたんだけどね。

 10Mゼニルも払わされたといえばわかってもらえるかな。

 そう、1000万ゼニルだっ!

 ……とほほ。


 キンさんの武器は【ボールドメイス】という名が付いている。

 一見すれば『勇敢』を意味する『Bold』かと思うのだが、実のところは『Bald』、つまりハゲを意味しているらしい。


 なんと攻撃するたびにHPが自動回復するという優れものだ。

 ただし、攻撃を受けるたびに頭髪が減っていくッッ!

 キャー! 恐ろしい!


 それを聞いた俺とヒナは大爆笑。

 キンさんは引きつった笑みを浮かべていたが、鈍器はそれ一本だけな上、性能はいいものだから渋々買うことにしたのである。

 お値段、3Mゼニルッ(300万)!


 一刻も早くハゲたキンさんを拝みたいものだ。

 高い金を払ったんだからせいぜい笑わせてもらわないとな。


 てか、たがねさんもなんでこんな効果を付与したんだろ?

 面白すぎるぞ。



「さて、武器も調達したことだし……ニャル!」

「はいですニャル! お呼びですかご主人さま!」


 ボワンと顕現する青猫のニャル。

 スチャッと着地したのは俺の頭の上。


 どんだけそこがお気に入りなんだ。


 まぁいい。

 肝心なのはここからだ。


「ニャル、わたしたちはお前の故郷、『天猫津国アマノネコツクニ』に行ってみたいんだけど」

「待ってましたですニャル!」


 ニャルは器用に前脚で拍手をする。

 つられてヒナとツナの缶詰さんも拍手をしていた。


 ああ、ヒナってやっぱり可愛いよなぁ。

 ツナ姉さんも兜で顔は見えないけど、仕草がいちいち可愛いらしいんだよね。


「それで、どこへ向かったらいいの?」

「この大陸の東の果てですニャル!」

「……また東?」

「戦乙女の神殿のずっと先には大きな湖がありますニャル。さらに進むと東の果てにある街、『イーストエンド』があって、もっと先ですニャル~!」

「うわっ、遠そう」


 ちょっとだけげんなりする俺。

 とはいえ、ゲーム内での『遠い』ってのは別に何日もかかるとかではない、と思う。

 最悪でも半日くらい歩けば到達できるはずだ。


 いや待てよ。

 この【OSO】は製作者の頭がおかしいんじゃないかというくらいリアルだ。

 もしかしたらマップが実寸の大陸サイズってことも大いに有り得る。


 …………ま、そん時はそん時だ。

 行ってみてから考えよう。


「んーと、そういうわけなんだけど、異論のある人はいますかー? 意見があったら挙手してくださーい!」


 俺はちっちゃなもみじみたいな手をピンと挙手し、みんなの反応を窺う。

 だが伝わってくるのはホワンと萌え萌えしてる気配だけ。


 俺の愛らしさにみんなはメロメロだ!

 嬉しくねぇ!



「あーもう! じゃあ決定ね!」




 そう宣言した途端、宿屋の室内に『おーー!!』と威勢のいい掛け声が響き渡ったのであった。



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