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第60話 嫌な事件だったね……(嘘)



「いやぁ、キンさんにしてはほんっとにメガヒットだよ! よくぞアタシ好みの女の子を連れてきたもんだねぇ! キミにこんなツテがあったのならもっと一緒に行動すべきだったかも!」


 かんらかんらと気風の良い笑い声をたてる鍛冶師のたがねさん。

 ものすごくご機嫌なのは、その両腕の中に俺とヒナを捕らえているからであろう。

 デカい膨らみが俺の顔を圧迫し、このままでは窒息しそうだ。


 なにせ、聞いた話ではこのたがねさん、なんとガチレズらしい。


 それはともかく、この人、なんでマスクしてんだろ?

 風邪でも引いてんのかな?

 ゲームの中でマスクをしても無意味だと思うが……



 流石に俺たちへ悪いことをしたと反省でもしたのか、キンさんにしては殊勝な表情をしていた。


 そりゃそうだ。

 これじゃ完全に生贄じゃん。

 ってかね、俺、中身は男なんですけどね……

 バレたら厄介なことになりそうなんですけど……


 だからさっさと交渉してくれキンさん!

 『交渉は僕に任せてくれたまえ』なんて格好付けてただろ!


 俺に睨まれて首を竦めたキンさんはようやく口を開く。


「あ、あの、それでだね、たがねさんに頼みがあるんだけど」

「わーってるわーってる! 武器が欲しいってんでしょ?」

「う、うむ。まぁそういうわけなんだ」

「キミ、レベルはいくつになったんだい? いつの間にか司祭になったみたいだけどさぁ!」


 ピクッとキンさんの頬が緩んだのを俺は見逃さない。

 あれはカンストしたのを自慢したい顔だ。

 んなもんいいから、はよ交渉せい!


「うん、まぁ、やっと99になったよ、うん」


 さもなんでもないといった風な小芝居すんな!

 目と口が笑ってんぞ!


「へぇー! すごいじゃない! たいしたもんだね!」

「そ、そんなことないさ、ハハッ」


 相手がガチレズとはいえ、キンさんも男。

 やはり女性からの称賛は嬉しかったらしい。


 某ネズミみたいな笑い声を出してる場合かっ!

 あんたのレベルは俺たちのおかげで上がったんだろ!?


「ちなみに、その二人もレベルカンストしてるよ」

「へええ! この子たちも!? 可愛くて強いなんて最高だね!」

「ぎょえぇぇ!」

「むぎゅぅぅぅ!」


 俺もヒナもデカパイに顔を押し潰されそうだ。

 嬉しさよりも苦しさのほうが際立つ。


「ねぇキミ、ちょっとだけキスしてもいい?」

「へっ!? お……わたし!? って、ぎゃーーー! ギザ歯だーーー!!」


 マスクを外したたがねさんの口!

 サメかなにかみたいなギザギザの歯並びだ!

 風邪じゃなくてこれを隠してたのか!?

 なにこれ!?

 顔装備の一種!?


 いや、ちょっと待って。

 この人、俺の変なところをまさぐってない!?

 つるぺたなんだからやめて!!


 色々な意味で食われると思った俺は全力で抵抗した。

 レベル差かSTRの差か。

 割とあっさり魔の手から脱け出すことに成功、ついでにヒナも奪還。

 ミッションコンプリートだ!


 そのまま二人でキンさんの背後に隠れたのである。

 背中から顔だけ出し、たがねさんに向けて唸る俺。


「ああっ! 警戒して陰から威嚇する金髪幼女……! かわいいッ! (ガチな意味で)抱かせてッ!」

「く……それはずるいぞアキくん……まるで小動物みたいだよ」


「ダメですよ二人とも! アキきゅんは私のなんですから!」

「むむっ!? えーと、ヒナちゃんだっけ? アキちゃんとヒナちゃんはこっち(ガチレズ)側の人なんだ? お仲間じゃーん!」

「ちっ、違います違いますっ!」

「だって、女の子同士で付き合ってるんでしょ~?」

「ちがっ、くもないような、そうではないような……アキきゅ~ん!」


 答えに窮するくらいならいうなよ!

 ややこしくなるだけだろ!

 ええい、俺がかましてやらぁ!


「いいからあなたの作った武器を見せてよ! それともわたしたちがレベルカンストしてるから怖気づいたの!?」

「おぉ~! 見事なツン幼女! ますますアタシ好みなんだけど!」


 ぐはっ。

 まさか逆効果だったとは。

 この人もキンさんと同じドMか?



「そういえば自己紹介もしてなかったね。アタシは鍛冶師のたがね。レベルは92。作成可能武器種は今のところ、鈍器、斧、杖、短剣だよ。鎧や盾なんかも作れるけど、衣服は専門外。もし衣服が欲しいなら腕のいい職人を紹介してあげる」


 おおっと。

 急にたがねさんの顔つきが変わったぞ。

 仕事の話の時はプロフェッショナルになるのかよ。

 まぁ、社会人っぽいしなぁ。

 営業職なのかも。


「僕と彼女は【OSO】を始めたてのころに少しだけ一緒のパーティーにいたんだ。まぁ、僕はこのステータスのおかげですぐにお払い箱となったけどね」


 複雑な顔でそう説明するキンさん。

 彼にとっては苦い思い出なのかもしれない。


「違うよ。キミがお払い箱になったのはメンバー唯一の『男』だったからさ」

「そうなのかい!? た、確かに僕以外は全て女性だったけど……」

「実はあのパーティー、アタシも含めて全員が百合カップルでさー」

「な、な、なんだって……僕はそんな中にいたのか……恐ろしや……」


 フンフンとハミングしながらテーブルに作成した商品を並べていくたがねさん。

 対照的に、キンさんはこの世の終わりみたいな顔をしている。


「だけど、その中の一人が恋人への当てつけかなんかしらないけど、アンタに色目使おうとしてたのって知ってた?」

「なっ、なにぃいぃぃぃ!?」


 ものすごい形相で激昂するキンさん。

 その鬼気迫る表情に思わず吹き出す俺とヒナ。


「その女の子は『バイ』だったからね。アタシらにも『キンさんて恋人いるのかなぁ?』なんて聞いてたよ」

「ぐあああああ! なんで直接言ってくれなかったんじゃああああ! この際そんな細かい性癖は気にしないんじゃあああああ!」

「あっはっはっは! キミのキレ芸は健在なんだねぇ」


 プップププ……

 ダメだ。

 俺も笑いをこらえきれない……

 飢えすぎだよキンさん……


「ま、それが恋人の女の子にバレちゃってね。それはもうひどい喧嘩だったよ。今思い返しても嫌な事件だったね……で、その子がパーティーリーダーだったもんだから『もう解散するー!』って大騒ぎさ。誰もそんな説明をしたくなかったんで、キンさんはお払い箱みたいな形になっちゃったわけ。実際には全員がバラバラになったってのがオチだよ。さ、これがアタシの商品の全部!」

「杖のおすすめはどれです?」

「これと、これだね。性能も見ておく?」

「はい、是非お願いします」

「ん~、ヒナちゃんは素直でいい子だねぇ。ピンクのツインテもよく似合っててかわいい~」

「剣とか大剣はないの?」

「あー、アタシも作りたいのは山々なんだけど、スキルポイント不足でねぇ。アキちゃんは剣が好きなのかな?」

「うん。やっぱりファンタジーといえば剣と魔法でしょ?」

「そうだよねぇ。完全に同意するよ。でもね、剣は作れても鍛冶師は装備できないっておかしくない? だからどうしても剣作成スキルの取得が後回しになっちゃうんだよねぇ。ところでアキちゃん、アタシと付き合わない?」

「ぶっ! なんの脈絡もないでしょ!? きっぱりとお断りします」

「ちぇー、ざーんねん。アタシ丁度フリーなんだけどなー」



「人が落ち込んでるのになんで和気あいあいとしとるんじゃあああああ!!」



 武器屋の中にキンさんの絶叫が虚しくこだまするのであった。




ここまでが第3部です!

実は記すのを忘れてました!

お読みいただきありがとうございます!

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