第59話 やばい性癖の鍛冶師
爺ちゃんのところで修業を開始してから一週間が経過した。
はっきりいって、未だ強くなった実感はない。
当り前である。
一朝一夕で強さが身に付くのなら誰も苦労はしないのだ。
だが、全身に襲い来る筋肉痛と引き換えに、幾ばくかの体力と筋力を獲得した。
今はそれでいい、と思う。
何事も一番重要となるのは基礎なのだから。
基礎を疎かにしていては何も成すことなど出来ぬ。
真なる強さとは、基礎の遥か延長上にあるのだ。
はい、これ爺ちゃんの受け売りー。
だけど最近、爺ちゃんとの組み手なんかも開始したし、鈍ってた実戦の感覚も多少は戻ってきた気がするんだよね。
それに、爺ちゃんのところに行けない日も庭で基本となる型を練習してるのさっ。
まぁ、そうは言っても修行ばっかりしてたわけではない。
俺の本業はゲーマーだからな。
お前学生だろ!? って意見は受け付けません。
今は【OSO】に傾注させてくれよ。
来年になったら本気出すからさ。
……受験は……うん、一年もあれば間に合うよきっと。
え? 手遅れ?
HAHAHA!
心配無用!
俺には学問の女神さまが付いてるから余裕だ!
助けてヒナさま!
「? アキきゅん、どうしたんです? そんなに見つめて。あ、その顔はなにか頼みごとでもあるんですね?」
「!? (こいつ、エスパーか!?)あー、うん、いや、ヒナは今日も可愛いなぁと思って」
「やだもー! なにいってるんですかー! 照れちゃいます~、でもうれしい~!」
俺のつむじにキスをし、頭に頬ずりするヒナ。
ここのところ、主に俺のせいでヒナとのリアルデートもままならない。
だからせめて【OSO】内ではできるだけ一緒にいたいと思っている。
なので、俺は自慢(?)の金髪をグシャグシャにされてもニッコリだ。
「きみたちは本当にいつもラブラブだねぇ」
羨ましそうに俺たちを眺めて深々と溜息をつくキンさん。
しかし、声音とは裏腹にとても機嫌がよさそうだった。
それもそのはず、彼もついにレベル99を達成したからである。
連日連夜、ユニコーンのニコと出会った【白蓮の森】でレベル上げに励んだ成果だ。
俺、ヒナ、ツナの缶詰さんの手厚い介護があってこそ、これほど早くに到達したのであった。
それを知ってか知らずか、ホクホク顔でステータスやスキルを振りまくるキンさん。
嫌な予感しかしないが、他人のキャラ育成には文句を付けないのがネトゲにおいて暗黙のルールでもある。
でも頼むからLUK極振りだけはやめてくれよ……?
ともあれ、これでパーティーメンバー全員がレベルをカンストしたわけだ。
ならば俺たちが取る道はひとつしかないよなぁ。
そう、本格的な攻略だ!
目指せ最前線!
というわけで、色々攻略しながら先へ進むことに満場一致で決まった。
まだまだ行きたいところもいっぱいあるしな。
例えばニャルの故郷、天猫津国とかね。
行きかたは知らんけど。
あとは、ヒナやキンさんの装備も新調せにゃならんな。
武器や防具によるステータス補正はかなりのものだ。
それはとても無視できないほどに。
俺も高補正武器が欲しいと切実に思ってる。
そうだ、【レジェンダリーウェポンシリーズ】とやらも探索したいよな。
ヴァルキリーさんに聞いたところによれば、俺が所有する【ヴァルキュリア・リュストゥング】以外にも、伝説に謳われる武具や、神々が使用していた兵器なんてのもあるらしいぜ。
やべ。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
なんだかんだいっても武器は男のロマンだ。
今の俺は幼女だけど。
とはいえ、いきなりそんなもんがホイホイと見つかるわけもない。
なので首都にいる商人たちの露店を巡って掘り出し物を探したりもした。
しかし、ユニークウェポンなどはそうそう出回るものでもないらしい。
やはり発見の難しさと、その希少性や有用性が高いせいもあるのだろう。
売るくらいならそのまま使うほうがいいもんなぁ。
店売りの武器なんかよりも遥かに強いんだしさ。
まぁ、装備制限もあるから一概に全部がそうだとはいえないけど。
基本的に【OSO】のアバターはどんな武器防具でも装備できる。
ただ、ジョブに見合った武器種以外には強烈なペナルティがかかるのだ。
魔導士ならば、杖と短剣、その他一部の武器種以外を装備した場合、ステータスにマイナス補正がかけられる、といった風に。
そんな魔導士が、例えばユニークウェポンの剣を入手したとするなら、宝の持ち腐れもいいところとなる。
そういった品が掲示板経由でトレードに出されたり、商人のプレイヤーに委託をしたりなどして売られていることもあるのだ。
しかしそれらをピンポイントで見つけるのはやはり難しい。
廃人たちが常に目を光らせているからである。
中には一日中掲示板に張り付いている者もいるとかいないとか。
そんな彼らはその潤沢な資金に物を言わせ、あっと言う間に購入していくのだ。
これでは一般のプレイヤーにユニークウェポンが回ってくる機会などほぼないだろう。
ならばどうするか?
答えは簡単。
プレイヤーが作製した良質の武器を買うのだ。
商人系上位職のジョブ、【鍛冶師】。
高レベルの鍛冶師が作った武器は、ユニークウェポンと遜色のない威力を誇るという。
俺たちはそんな鍛冶師を求めて首都を闊歩していた。
一応、あてもなく歩いているわけではない。
幸い、キンさんの知り合いに一人鍛冶師がいるらしく、腕前は未知数だが話だけでも聞いてみようということになったのである。
「先に言っておくけど、あまり期待しないほうがいいと思うよ」
キンさんはミニマップで武器屋の位置を確認しながらそういった。
その鍛冶師さんは、武器屋の中を間借りしているという。
普段はもっと先のエリアで狩りをしたり素材を調達したりしているらしい。
ただ、やはり武器を売るなら最も人の集まるこの首都であろうとここに店を構えているとか。
「へ? なんで?」
「どうしてです?」
「いやぁそれがねぇ……」
なんとも言い難そうに口をもごもごさせるキンさん。
言い淀むからにはそれなりの理由があるのだろう。
ものすごくがめついとか?
まぁ、金なら【白蓮の森】でだいぶ稼いだからなんとかなると思うけど……
あ、頑固職人とか?
職人気質なら『テメェに売るような武器はねぇよ!』なんていわれるかもな。
そん時はレベルカンストを活かしてちょっと小突いてやるしかないよね。
ククク。
「アキきゅん、幼女がしてはいけない顔になってますよ」
「どんな!?」
「おっと、ここだね」
カランカランと音を立てながら武器屋のドアを開ける。
ずらりと並んだ武具の数々は、いわゆる店売りの品だ。
ハゲ頭の店主らしきガチムチNPCが『いらっしゃい』と声をかけてくる。
「あのー、『たがね』さんはこちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、奥にいるよ」
キンさんの問いに、親指を奥へ向けて答える店主。
ほう、鍛冶師は『たがね』さんというのか。
故意か偶然かは知らんが、まさしく鍛冶師らしい名前だな。
「さぁ、アキくん、ヒナさん。覚悟だけはしておいてくれ」
奥へ続く扉の前でそうつぶやくキンさん。
ハテナマークを山ほど浮かべる俺とヒナ。
ガチャリとドアを開けると────
「おっ、きたきた! やー、珍しいね、キンさんが連絡してくるなんてさ…………ああああああああ!?」
驚いたことに中にいたのは女性だった。
モジャモジャの長い茶髪。
迷彩柄のタンクトップは大きく膨らみ、デニム地っぽいホットパンツと白いニーハイソックスにゴツいブーツ姿。
そんなグラマラスが雄叫びを上げながら一直線に俺とヒナへ向かってきたのだ。
そしてそのまま俺たちをガッシと抱きしめる。
ものすごいパワーで。
「うわあああああああ!? なにこれ!? なにこれ二人ともめっちゃかっっっわいい~~~~~~~!!」
「ぎゃーーーーー!!」
「ひいいいいいいい!!」
わけもわからず絶叫する俺たちに言い放ったキンさんの金言がこちらです。
「彼女は……ガチレズなんだよ……」




