第57話 尽きぬ幼女の話題
【OSO内で】噂話スレッド【プレイヤーは見た】
ノーネームプレイヤー:俺、今日首都で馬を見たんだけど
ノーネームプレイヤー:は? 馬?
ノーネームプレイヤー:イミフ
ノーネームプレイヤー:綺麗な白馬でしたよね
ノーネームプレイヤー:なにそれ? テイムモンスター?
ノーネームプレイヤー:さぁ?
ノーネームプレイヤー:あれは馬じゃねーよ
ノーネームプレイヤー:角あったぞ
ノーネームプレイヤー:角!?
ノーネームプレイヤー:それって……なんだっけ?
ノーネームプレイヤー:ユニコーンだろ!
ノーネームプレイヤー:その馬に幼女が乗ってたよな
ノーネームプレイヤー:【OSO】に幼女なんているのかよ!?
ノーネームプレイヤー:遅れてんなお前
ノーネームプレイヤー:有名ですよね
ノーネームプレイヤー:しかも『ハングロ』のトップアタッカーも一緒にいたらしいぞ
ノーネームプレイヤー:その幼女も廃人ってこと?
ノーネームプレイヤー:知らねぇよ
ノーネームプレイヤー:ゲリライベントの時すごかったぞ幼女
ノーネームプレイヤー:可愛いの?
ノーネームプレイヤー:べらぼうにな。しかもクソ強ぇ
ノーネームプレイヤー:金髪碧眼幼女が可愛くないわけないだろ! いい加減にしろ!
ノーネームプレイヤー:やめとけ! 幼女大好き団の奴らが来ちまう!
ノーネームプレイヤー:あいつら新エリアにいる幼女の王女ちゃんに夢中なんじゃないの?
ノーネームプレイヤー:そいつらじゃねーよ。件の幼女に惚れ込んだ連中が立ち上げた団だって
ノーネームプレイヤー:親衛隊きどりかよキメェな
ノーネームプレイヤー:確かにあの可愛さは異常だもんな。気持ちはわからんでもない
ノーネームプレイヤー:狙ってるヤツらすげぇいそう
ノーネームプレイヤー:そばに廃人トップアタッカーがいるんなら声もかけらんねぇよ
ノーネームプレイヤー:手ぇ出したら普通にボコられるわなw
ノーネームプレイヤー:ところで、今日ワールドメッセージ流れたけど見た?
ノーネームプレイヤー:なんぞ
ノーネームプレイヤー:見てないんか
ノーネームプレイヤー:『ワールドに【レジェンダリーウェポンシリーズ】が出現しました』だっけ?
ノーネームプレイヤー:それそれ
ノーネームプレイヤー:なんぞ!?
ノーネームプレイヤー:シリーズってくらいなんだから複数あるんだろうな
ノーネームプレイヤー:どこに行けばもらえますか?
ノーネームプレイヤー:どうせめんどくせー条件満載なんだろ
ノーネームプレイヤー:そういえば噂の幼女さんが見たことのない盾を装備してましたよ
ノーネームプレイヤー:レジェンダリーウェポンねぇ……
ノーネームプレイヤー:ほんとにあるのか?
ノーネームプレイヤー:ワールドメッセージが出たんだから無いってことはないだろ
ノーネームプレイヤー:おいおい、また幼女ちゃん絡みなのかよ
ノーネームプレイヤー:こちら【OSO University】の者ですが、見たことのない盾とは? 情報提供を求みます
ノーネームプレイヤー:在りかを探すつってもなぁ
ノーネームプレイヤー:うわ出た
ノーネームプレイヤー:考察大学キターーーーー!
ノーネームプレイヤー:厄介な団に目を付けられちゃったな
ノーネームプレイヤー:あーあ、幼女ちゃんかわいそー
ノーネームプレイヤー:しつけぇからなこいつらw
ノーネームプレイヤー:この分じゃそのうち『アカデミー』も出張ってくるなきっと
ノーネームプレイヤー:幼女ちゃんは我々が守る!
ノーネームプレイヤー:変態たちも湧いたぞー!
ノーネームプレイヤー:おまいら余所でやれ!
夜。
いつもの宿屋────
「というわけで、わたし【戦乙女】になっちゃった。てへっ」
「…………」
おっ。
あと一押しかな?
「あとねー、わたしもヒナもレベルカンストしちゃった。えへっ」
「……なんでじゃ……」
きたきたきた!
「なんでじゃあああああああ! なんで僕が必死こいて仕事してる間にそんなことになっとるんじゃあああああああ! 幼女のかわいい顔で煽られたら余計にムカつくんじゃああああああ!!」
出たーーー!
我がパーティ名物、キンさんのキレ芸!
いやぁ、今宵もふたつの意味でキレッキレですなぁ。
「あはは……アキきゅんは鬼畜ですねぇ……(そんなところもラブですが!)」
「アキさんそのくらいにしておいたほうが……キンさんが可哀想ですから」
ヒナとツナの缶詰さんが遠くから見守っている。
触らぬ神に祟りなしということだろうか。
「……当然僕もその神殿へ連れて行ってくれるんだろうね……?」
「そうしてあげたいのは山々なんだけど、一度クエストをクリアしちゃうとラビリンスへの再侵入ができないみたいなんだよね。だから経験値が美味しい美味しい【ヘルの軍勢】とも戦えないわけ」
「ぐんぬぬぬぬ!」
歯が砕けそうなほど食いしばって悔しがるキンさん。
だが、大人ゆえか、それとも仕事で培った我慢術か、彼は己の精神をどうにか立て直したようだった。
「まぁ僕も高レベル帯までは来ているからね……それはともかくとして……」
キンさんは窺うようにチラリと俺の後方を見上げる。
ブルルッ
鼻息も荒くそびえ立つは一角獣ユニコーンのニコ。
「なぜ馬が……」
(栗毛サングラスのかた、馬ではありません。気高き戦乙女アキさまのしもべ、誇り高き一角の幻獣ユニコーンのニコでございます)
パーティメンバーだけに通じる念話で、そうきっぱりと言うニコ。
ニャルに続いてニコからも『栗毛サングラス』扱いされたキンさんに思わず吹き出す。
「よ、よろしくニコ」
(よろしくお願いします。ですがひとつだけ忠告を。私は男性にも寛容ですが、背に乗せるのは清らかな乙女のみですので」
「……えー……アキくんだって……」
「げふんげへん!」
余計なことを口走りそうなキンさんを大きな咳払いで牽制する。
この栗毛はアホか。
ツナ姉さんだってここにいるんだぞ。
「だけどアキくん、よく宿屋まで来れたね。ニコを連れていたら目立ってしょうがなかっただろう?」
「あー、それね。ニコ」
(かしこまりました)
言うなりニコの姿が消える。
キンさんのかけたサングラスの奥にある目が思い切り見開かれた。
「これは……ハイディングかい?」
「ちがうんだなこれが。なんとニコはアイテムとしてインベントリに収納できるんだよ」
「なんだってー!?」
それは首都に帰還し、プレイヤーたちから散々好奇の視線を浴びせられた後だった。
ニコを連れたままでは宿屋に入れないと気付いてしまったのだ。
いくら店主がNPCだとは言っても、いきなり屋内へ馬が侵入してきたら仰天するだろう。
ヘタすれば俺たちごと強制退去だ。
外につないでおくしかあるまいと、その旨をニコに伝えたところ。
(でしたら私をインベントリへ格納してください。ウィンドウに『乗り物』のタブが増えているはずです)
と言い放ったのだ。
自分を乗り物扱いするニコにも驚いたが、ウィンドウを見て二度驚いた。
本当にタブが追加されていたのだ。
(あとは命令していただければいつでも出入りできます)
そういうことはね、もっと早く教えて欲しかったよ……
いらぬ恥をかいたじゃないか……
(ちなみに、格納中もテレパシーで会話はできますので)
便利!
「というわけなんだ」
「なるほど……」
顎に手を当て、うむむと唸るキンさん。
あんまり深く考えるとハゲるよ?
「でさ、今後の方針なんだけど」
「うん? いってくれたまえアキくん」
俺は発言する前にヒナとツナの缶詰さんへ視線を送り、それぞれから同意の頷きを得た。
「件のヴァルキリーさんにいわれたんだよ」
「なにをだい?」
「遥か頂を目指すのであれば、神々や英雄たちと相まみえよ、ってな────」




