第56話 幼女戦乙女 降臨
うーむ。
まさか盾だったとはな。
道理で幅も広いし厚みもあるわけだよ。
これで本当に斬れるのか? と思ってたくらいだもんな。
……うわ! 裏側をよく見たら盾としての持ち手も腕に装着する輪っかもちゃんとある!
マジで盾だこれ!
「さぁ、アキよ。どうする? 言うまでもないが武器の交換は認めぬぞ」
女神らしからぬしたり顔を見せるヴァルキリーさん。
この【OSO】が誕生してから一年と少し。
その間、一度もプレイヤーと遭遇することのなかったヴァルキリーさんは、表舞台に立つ喜びに満ち溢れているかのようだ。
ってか、これ全然武器じゃねーじゃん、こういうのは武器縛りっつーんだよ。
と言いたいところだが、それならそれでいくらでもやりようはあるってもんだ。
縛りプレイも意外と嫌いじゃないんでな。
……変な意味の縛りプレイではないぞ?
えーと、確か騎士系スキルに……あったあった。
俺のジョブは【姫騎士】だけど、『騎士』と付くだけあって騎士系スキルも習得できるんだよね……と。
「盾じゃ戦えない、なんて泣き言はいわないよ」
「その意気や良し。ならば見せてもらおう」
ふっふっふ。
最近では『シールダー』なんていう盾を使う立派な戦闘職が存在するゲームも多いんでね。
意外と扱いには慣れてたりするわけよ。
おっと、ヴァルキリーさんも不敵に微笑んでやがる。
幼女だと思って舐めてるな。
うへへへへ。
見せてやるぜ。
さっきのモンハウみたいな通路で、とうとうレベル99に到達した俺の実力をな!
せーーのっ!
「!!」
先程と全く同じ、低い体勢で突っ込んでくる俺に、面食らった様子のヴァルキリーさん。
だがすぐに表情と気を引き締めたらしい。
あの目は『ならば再び蹴り飛ばすのみ』といってるよなぁ。
しかし俺とてバカではない。
……いや、頭は良くないが。
ゲームに対する情熱では負けんぞ!
俺は足首を狙うと見せかけてから持ち手を掴み、全身を伸び上がらせてヴァルキリーさんの顔を目がけて盾を突き出した。
「むぅっ!?」
咄嗟に足を引っ込めたヴァルキリーさんは剣で盾を受け止める。
想定通りの動きをしてくれてありがとうよ。
盾ってのはな、受けたり払ったりするだけの防具じゃ……ねぇ!
ヴァルキリーさんの剣ごと思い切り盾を押し込む。
剣とは違って折れる心配のない盾ならではの攻撃だ。
「くっ!」
押し返されたヴァルキリーさんは、わずかにバランスを崩して後方にたたらを踏んだ。
勝機!
俺は輪っかに腕を通し、盾に肩を密着させて突撃を敢行する。
「【シールドチャージ】!」
ボッと全身が赤く輝き、自動モーションが俺の身体を走らせた。
彗星の如き勢いで肩からヴァルキリーさんに突っ込んでいく。
「きゃあぁ……ではない、ぐぅはっ!」
悲鳴をわざわざ言い直してから吹き飛ぶヴァルキリーさん。
めっちゃ余裕あるね!?
彼女は剣を盾との間に挟むことで直撃は免れたようだが、身体は仰向けに飛ばされた。
それを見逃す俺ではない。
俺はヴァルキリーさんを追って飛び上がり、上空で持ち手を掴むと、思い切り盾を振り下ろした。
「【シールドバッシュ】!」
「くぅぅ!」
ヴァルキリーさんは顔面を狙われると思ったのか、顔の前で腕を交差させガードする。
一撃で意識を断ち切るのならば顔面や頭部への攻撃は有効だ。
だがその分、読まれやすい。
ならば俺の狙いは────
「うおりゃぁぁ!」
「がっっふ!」
────腹だ!!
今度こそ直撃を受け、背中から床に叩きつけられるヴァルキリーさん。
床石が砕け、彼女の身体が半ばまでめり込む。
はっはっはぁ!
見たか高STRの威力を!
「ごはぁっ! げほっ、がはっ!」
あっ、やべ。
やりすぎたかな。
ヴァルキリーさんて、HPゲージが見えないからどの程度のダメージを負ったのかもわかんねぇんだよなぁ。
「はぁはぁはぁ……み、見事だアキよ……これでもう、思い残すことはない……」
「ヴァッ、ヴァルキリーさーーーん!」
笑みを浮かべたままスッと目を閉じるヴァルキリーさん。
彼女はHPを全損していたのか……
【魂の選定者】にして【戦乙女】たるヴァルキリーさんの雄姿を俺は忘れない……!
「アキきゅん! 勝ったんですか!?」
「うん、どうやらそうみたい」
「お見事でしたよアキさん」
「いやぁ、ツナ姉さんに褒められると照れちゃうね」
駆け寄ってきたヒナとツナの缶詰さん。
二人と握手を交わし、健闘を讃えられていた時。
「よし! これにてアキは第二の試練を達成したものとする!」
何事もなかったかのようにムクリと身を起こして宣言するヴァルキリーさん。
「うわぁぁ! 亡霊!?」
「お化けはいやぁぁぁ!」
「なんと……」
慌てふためく俺たち。
「勝手に殺すな! 背中を打った衝撃で少しばかり動けなかっただけだ!」
ヴァルキリーさんはパンパンと身体の埃を払いながら立ち上がった。
アレを食らって生きてるなんて、さすが女神といったところか。
「第二の試練をクリアしたアキには、褒美としてその盾を進呈する」
「えぇ~? いらないんですけど……」
「なっ、なにを言うか! 由緒ある神器なのだぞ!」
「これがぁ~?」
「それはお前がこの盾の使い方を全くわかっておらぬからだ!」
懐疑的な目を向ける俺に地団駄を踏むヴァルキリーさん。
俺は貴女の鎧が欲しいんですけどねぇ?
「よいか、その盾の名をよく見ろ」
「名前? ……えーと……【ヴァルキュリア・リュストゥング】って書いてあるね」
「……リュストゥング……ですか!?」
真っ先に反応したのはヒナだった。
「そうだけど……?」
「アキきゅん! リュストゥングはドイツ語で『鎧』ですよ!」
「えぇ!? だってどう見ても盾だよこれ!?」
「ふっふふふ。驚いたようだな」
うろたえる俺たちを眺め、ヴァルキリーさんは満足そうに笑った。
「よかろう、では使い方を説明する。盾を前に、そして上部の棒を下に押し込んでみろ」
あ、これ、柄じゃなかったのか。
どれどれ。
「おっと、その際は『ヴァルキリー・フォーム』と叫ぶのを忘れるな」
えぇ!?
なにそれ!?
まぁいい、ちょっと恥ずかしいが試してみるさ。
ゴクリと息を飲むヒナとツナの缶詰さん。
無駄に緊張感を醸し出すのやめて!
「……ヴァ、【ヴァルキリー・フォーム】!!」
がちゃこん!
ピカーーーン!
棒を押し込むと同時に盾が眩く輝いた。
その輝きは俺の腕を伝って全身に広がって行く。
「アキきゅんが浮いてますよ!」
「ああ……アキさんが光に包まれて……」
天に召されてるわけじゃないんだからね!?
カッ!
一際強く輝いたあと、フワリと着地した俺の姿は────
「なにこれ!?」
「うわぁー! すごいですね!」
「とてもお似合いですよアキさん!」
────盾は消えて、蒼く煌めきを放つ鎧に身を包んでいたのである。
『ユニークシナリオ・オルタナティブ:【戦乙女の試練】をクリアしました』
『レジェンダリーウェポンシリーズ:【ヴァルキュリア・リュストゥング】を獲得しました』
『アルティメットユニークジョブ:【戦乙女】を獲得しました』




