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第54話 奇妙な剣と微妙な女神



「……これは……なんだろ? 剣でいいのかな?」

「ずいぶんと不思議な形をしてますよね」

「私も剣、だとは思うのですが、それにしては幅の広さが尋常ではありません」


 ツナの缶詰さんが顎に手を当てしげしげと台座の上に置かれたそれ(・・)を眺めながら言った。

 俺もヒナも頷き同意を示す。

 それを誰も手に取ろうとしないのはトラップを警戒してのことだ。



 うーん。

 どう例えればいいんだこれ?


 ざっくりいうと、野球のホームベースがあるだろ?

 五角形の。

 あれに棒、というかつかというか。

 そんなふうなものを取り付けてある感じなんだ。

 だから2頭身のSDキャラが持つ、極端にデフォルメされた剣のように見えるわけ。 

 今は幼女の俺が持てば、サイズ感的にもそれなりに見栄えはよさそうだけどね。


 でもこれじゃ刀身が短いよなぁ。

 短剣とあんま変わらんもん。


 現在使用中のユニークウェポン【鬼神滅砕斧オーガベイン】はデカいだけあってリーチも長い。

 仮にこの剣(?)へ乗り換えるとしても、慣れるまではそのリーチ差に悩まされるだろう。

 武器が短いということは、それだけモンスターに接近しなければ攻撃を命中させられないということでもあるのだ。


 敵に近付けばそれだけ危険も増える。

 最近気付いたのだが、俺のようなAGI重視型は超接近戦だと回避がしにくい。

 AGIの数値による回避補正があってさえも。

 目前の敵が放つ攻撃というのはそれだけ察知が難しいのだ。


 大振りの攻撃なら見てからでも躱せる。

 しかしボクシングでいうところのジャブ的な素早いパンチは結構被弾しちゃうんだよね。

 ペラッペラな紙装甲の俺としては細かい攻撃も出来れば避けたいところだ。


 そうなるとどうしても一撃離脱ヒットアンドアウェイをせねばならない。

 それは言い換えれば攻撃頻度の減少。

 つまりDPS、1秒間に与えるダメージが下がってしまうということでもある。

 一見手数が一番多そうな武器種の短剣だが、そんな弱点もあったりするのだ。


 だがそれは一般的なプレイヤーの話。

 俺の場合だとその状況ならば特殊スキル【雲身】を使うかどうかの二択を迫られる。

 モンスターの背後を確実に取れるなら、一方的な攻撃も可能であるからだ。


 でもあれって一度敵の攻撃を武器で受けてからじゃないと発動できねぇのがネックなんだよなぁ。

 パリィの派生スキルっぽいから仕方ないんだけど。

 短剣の短い刀身でパリィってのもなかなかのスリルなんだぞ?


 いいか?

 短剣ってのは、こう握ってこう構えるだろ?

 んで、例えば上から攻撃が来るとしたら……



「あぁっ!」

「あ……」

「ん?」

「アキきゅん! 剣を握っちゃってますよ!」

「!? うぉあっ! マジだ!」


 ヒナもツナの缶詰さんも慎重にこの剣を見守っていたってのに……

 俺ときたら……バカ! バカ!

 思わせぶりに安置されてた以上、なにかしらの仕掛けがあるとわかっていてこれだよ!

 ガチの大バカですわ!


「ど、ど、どうしようこれ?」

「えぇっ!? わ、私に聞かれても!」

「取り敢えずヒナに渡していいか!?」

「い、嫌ですよ! ステータス異常のトラップアイテムかもしれないですもん! えーんがちょ! アキきゅんえーんがちょです!」

「えんがちょっていうな! ならこっちはバーリア! バーリア!」

「あっ! バリアはずるいですよ! えんがちょ系最強防御じゃないですか! ちょっ、いやぁぁ! こっちにこないでください!」

「ぐへへへヘ! ヒーナー待ーてー!」

「(くふぅぅぅっ! お二人とも子供みたいでかわゆいですぅ!!)あの、アキさん。お身体に異変はないのですか?」

「えっ? ……あ、うん。今のところ平気みたい」

「なるほど。では毒や呪いのアイテムではないようですね」


 ツナの缶詰さんの冷静な判断で少し落ち着きを取り戻す俺。

 俺から逃げ惑うヒナとは大違いだ。


 しかしそうなると、この剣の意味とはいったいなんなのだろうか。

 ただのご褒美という線も考えられなくはないが、『試練』としては条件がぬるすぎる。

 これでクリアとはとても思えない。


 取り敢えず剣のようなものを掲げてみる。

 よく見れば刀身には厚みがあって……



「へ?」

「はい?」


 今からおかしなことを言います。


 空中で目が合っちゃいました!!


 誰とって?



「あらあらまぁまぁ~? これはどうしたことでしょう~?」


 2メートルほどの高さの空中で、寝そべった姿勢のままお菓子を口に咥え、ちっとも慌ててるようには見えないのに、慌てたようなセリフを吐く女性。


 こんな自堕落NPCは一人しか知らない。



「ヴァルキリーさん!?」

「はい~? きゃぁ~!」


 俺が声をかけた途端、間延びした悲鳴と共に床へ落下するヴァルキリーさん。

 脳天から落ちたのか、彼女は頭を抱えて痛い痛いとのたうってる。


 その様にヒナとツナの缶詰さんは言葉も出ない様子。


 俺だってびっくりだよ。

 女神としての威厳とかどこに置いて来ちゃったのかねぇ。

 ってか、この人、なんでここにいきなり現れたんだ?



「んひぃ~! 痛いです~!」

「…………」

「痛いよぉ~! ……はっ!? ん、んんっ、ごほん。と、とうとうここまで辿り着いたのだなアキよ」


 俺たちの冷たい視線にようやく気付いたヴァルキリーさんは転げまわるのをやめ、わざとらしい咳払いと共に声音を変えて体裁を取り繕った、

 だが俺のしらけた表情を見て、みるみる頬を染めていく。


 あ、羞恥心とか一応あるんだ?

 へぇ~、さっすが高級なAIだねぇ。

 技術の進歩ってのは目覚ましいよなぁ。

 これで機械なりなんなりの身体が現実のほうに存在したら人類大ピンチだぞ。

 SF映画みたいな世界になっちまう。


 俺とヒナはそんなAIが支配する世界でどう生き延びるのか。

 これは愛と勇気の物語である。

 なんてな!



 などと妄想でニヨニヨしていると────



「~~~~! アキよ! 私と戦いなさい!」



「はぁぁ!? いきなりなに!?」

「えぇっ!? 唐突すぎません!?」

「なんと……! これは予期せぬ展開ですね」



「いいから早く準備なさい!」




 俺たちはヴァルキリーさんの半ばやけっぱちに言い放った突然の申し出に、目を白黒させるしかなかったのである。




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