第52話 ハズレ地獄
「そろそろ本命が来てもいいと思うんだけど……そぉい!」
ガチャリ
「……またもやハズレですね……アキきゅんの運の無さときたら」
「ふぬぬぬ!」
「(ああ! 怒っているアキさんも、したり顔で嫌味をいうヒナさんもかわゆいです!)……短気は損気、とも言います。お二人とも、ここは冷静さを保ちましょう」
ツナの缶詰さんの言うことはいちいちもっともだ。
ごもっともなんだが、全く納得がいかない。
俺はやるせない気持ちを詰めて、ペイッと空箱を投げ捨てた。
だって、見てくれよこの宝箱の山、山、山!
この中から当たりを見つけろって!?
こんなクソギミックを考えたやつはバカなんじゃねーの!?
骨鎧を倒した後、俺たちは試験迷宮の通路を何度も折れ曲がりながら進み、アホみたいに湧く不死系モンスターを蹴散らしてようやく辿り着いた先がこの大広間だ。
やっと景色が変わるぞと喜んだのも束の間、俺たちを待っていたのは広間を埋め尽くすほど大量の宝箱だったのである。
本来ならば歓喜すべき状況なのだろう。
これほどのお宝が眼前にあるのだから。
だがここはあくまでも【試練の迷宮仮実装試験版_001】なのだ。
そんな場所にまともな宝があるわけないと思ってはいた。
思ってはいたが、まさか連動ギミックとは。
この大広間は袋小路。
入ってきた扉以外は出口がない。
ついでにいえばここまでの通路もほぼ一本道だった。
そして目の前には無数の宝箱。
これでピンとこないヤツはゲーマーに非ず。
宝箱を開けて、はい終わりです、なんてムシのいい話があるはずもない。
つまり、この宝箱に先へ進むための仕掛けが隠されているわけだ。
それを確信したのは宝箱のサイズのせいでもある。
なにせ30センチメートル程度しかないのだ。
これではとてもじゃないが武器や防具などは入れようがない。
良くてもせいぜいアクセサリー程度が関の山だろう。
だがこの【OSO】、金策には異様に厳しい。
稼ぎたければモンスターを倒しまくれ、がモットーだ。
強敵から出る素材のほうが余程高く売れる。
となれば、こんな宝箱に高額な金品が入っているとは考えにくい。
ってことで、『宝箱はただの仕掛けか、もしくは先へ進むためのキーアイテムが入っている』の意見で満場一致。
そこからはもう作業っすよ、作業。
最初こそ罠などを警戒して慎重に扱っていたのだが、開けども開けどもなにもないとわかると段々雑になっていくのは人間の悲しい性だ。
ツナの缶詰さんも入口から襲撃されるの恐れて自ら見張りを買って出てくれたが、どうやらここのモンスターは再湧きしないらしく、今では俺の開封作業を温かく見守ってくれていた。
なぜ俺一人で開封しているのかって?
みんなで開けりゃ早いだろって?
全くもってその通り!
まぁ、一応理由がないわけでもない。
万が一、トラップだった場合、犠牲となるのは俺だけで済むだろ?
だったら一番硬いツナ姉さんに開けさせろとか言うなよ。
女子にそんなことさせられるかっての。
ヒナもツナ姉さんもそんな俺の意思を汲んでくれてるのはありがたいけどね。
俺、見た目は幼女ですが、中身は男なんですよ。
なら女性二人に男を見せてやらんとな。
ツナ姉さんにバレない程度に。
こら、そこ!
見栄っ張りっていうな!
というわけで、見果てぬ開封作業に没頭しているのが現況なのである。
「ちくしょー……ランダムってほんとクソ要素だわぁ……」
「あはは、アキきゅんはランダムとか乱数とか嫌いですもんね」
「運任せってのが許せない。試行錯誤とは意味合いがまるで違うもん」
「あー……アキきゅんは狡い戦法を使ってでも勝ちに行くタイプでしたね」
「コスいって言うなよ! せめて卑劣と言って!」
「……どちらにせよ褒められたものではないと思うのですが……?」
ツナ姉さんの冷静なツッコミ!
されどその通り!
だけど、こう、なんというか……ねぇ!?
すげぇ努力してる人を運の力だけであっさり追い抜いて行くヤツとか見ちゃうとなんだかモヤモヤするよねぇ!
「(はふぅ~! 煩悶するアキさんも良き! 良きです!)しかしながら、諦めさえしなければいつかは道が開けると思います」
「……ツナ姉さんはいいこというねぇ」
「本当ですよね。よーし! 私も道を開くために努力しますよ! アキきゅん! 開封作業を手伝わせてください! ぱかっ!」
「あっ、こら! 危ないって!」
俺の制止は間に合わず、手近な宝箱をなんの躊躇もなく開けるヒナ。
頭が良いくせに変なところで豪快な女の子だ。
……そういう部分も好きだからいいんだけど。
「あれ? なにか入ってますよ?」
「へ? マジで!?」
「ヒナさんすごいですね!」
ピラッと紙きれを取り出し、ヒナはそれ高々と掲げた。
「『あたり!』って書いてありましたー!」
「な、なんだってーーーー!」
「い、一発で引き当てたのですか……!」
なんちゅう豪運!
今頃泣きながら働いているであろうキンさんの、なんちゃってLUKとは大違いだ!
ってか、可愛くて頭も良くて金持ちでリアルLUK持ちとか、どんな完璧超人だよ。
本当に人間か?
まさかこいつ、俺の運を吸い取って己の力に変えているのでは……?
いや、そんなことより『あたり』ってなんだ?
「その紙だけ? アイテムとか入ってないの?」
「えーと、いえ。箱の底になにかあります……なんだろこれ? あ、なにか押しちゃいました?」
「はい!?」
俺はヒナから宝箱を奪い取り、底を改める。
すると中央付近に白く丸いものが!
「うわぁ! ホントだ! 箱の底にスイッチみたいなのがある!」
「アキさん、ヒナさん、先ほどからなにやら鳴動が聞こえるのですが……」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「う……マジだ……床が揺れてる……うーん、嫌な予感しかしない……」
「あぁ~ん! アキきゅんごめんなさいごめんなさいごめんなさい~!」
「(くっ! ヒナめ、かわいいな……!)もういいからそのままわたしにしっかり掴まって!」
「(くぅぅっ! ベソをかくヒナさんの破壊力はすさまじいですね!)何が起こるかわかりません! ですが必ずお二人は私が守り通します!」
シュン!!
突如として床が消失したのは、ツナの缶詰さんが言い終わるか終わらないかくらいのタイミングであった。
周囲の宝箱が粒子となりつつ舞い落ちていく中、咄嗟に空中を泳ぐ俺とヒナ。
おっ、ツナ姉さんも泳いでら。
はははっ、みんなやることは一緒だよ、なあああああぁぁぁぁ!!
「あああああ!」
「いーーーーやーーーーー!」
「きゃああああ! ……こほん、みっともない悲鳴を上げて失礼したしました……ですがこれは……やっぱり無ぅ~~理ぃ~~~! きゃぁぁあああ!」
システムの物理演算能力と、忌々しい引力に逆らうことは出来ず、俺たちは深淵の闇へ虚しく落ちていくのであった。




