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第49話 ユニコーンライダー


「ひゃぁぁぁぁあああああああ!!」



 白蓮の森に響き渡る絶叫。


 森の中だと言うのに軽快極まるひづめの音。


 背中(・・)に感じる風と疾走感。


 顔に押し付けられた柔らかな感触。



「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!」



 さっきから物凄い声を上げているのは俺ではありません、ヒナです。



「アキきゅぅぅぅん! どうやって制御するんですかこれぇぇぇ!?」


「もががもごがごが」


「えぇ!? なんです!?」


「がもがごもも」


「なにいってるのかわかりません!」



 そりゃあそうだろう。


 なんせ、俺の顔はヒナの控えめな胸に埋まっているのだから。





 発端はこうだ。


 テイムを完了したユニコーンのニコ。

 彼女の言葉が全ての始まりだった。


(あるじ)さま。聞こえますでしょうか)

「ふぇ? ニャル、なにか言った?」

「? なんのことですニャル?」

「あれ? じゃあヒナ?」

「いえ? 私はなにも」


 そう言ってかぶりを振るニャルとヒナ。


 ブルルルッ


(主さま。今はこのニコが主さまの心へ直接語り掛けています)

「えぇぇ!? ニコが!?」

「ど、どうしたんですかアキきゅん」

「ニャルにも聞こえたですニャル! ニコさんがテレパシーでご主人さまとお話ししているのですニャル!」

「えー!? いいなぁー! 私もニコちゃんと話したいですよー!」


 いや、いきなりだと驚くだけだぞこれ。

 ニャルみたいに普通の会話ができないものかね。


 ヒヒン


(パーティー全体にテレパシーを拡大しました。これならばヒナさんにも聞こえるはずです。いかがでしょう?)

「あっ! 私にも聞こえますよ! わーい! ニコちゃんありがとう!」


 嬉しそうにニコの首筋を撫でるヒナ。

 すっかり馬にも慣れたようだ。


「んで? どうしたんだニコ」

(はい。ヴァルキリーさまの元へお戻りになられるのであれば、是非とも私に騎乗なさってください)

「いいんですか!? 乗れるんですか!? 私、初めてです! 憧れのユニコーンライダーですね!」


 両手を合わせてパァッと顔を輝かせるヒナ。

 金持ちなら乗馬くらい嗜んでそうなもんだが、意外だな。

 って、それは偏見か。


 ま、帰りもこのクソエンカ率の森を歩くのは御免だし、丁度いいな。


 というわけで、ニコへ騎乗することとなったわけだ。

 しかしここで問題が発生した。


 唯一、祖父母の実家で馬を乗り回していた俺だったが、普通に乗るにはニコに対して身体が小さすぎるのだっ!

 幼女であるがゆえにっ!

 くそぁ!


 こうなったらもう解決策はひとつしかない!



「えぇぇぇ! 私が騎手にぃ!? 無理無理! 初めてなんですよ!?」

「大丈夫だってヒナ。ニコは賢いから加減してくれるよ」

(お任せあれ)


 確かに、鞍もあぶみも、手綱すらない裸馬に乗るのは普段の俺でも難儀するだろう。

 だがここは【OSO】内。

 現実ではなくゲーム世界だ。

 つまり、誰が乗ってもある程度の補正は入るはず。

 あまりにもリアルに準拠してしまうと、ゲームらしさが失われるからだ。


「おっ? あれっ? うわっ! へへー! 見てくださいアキきゅん! 意外といけそうですよ!」


 伏せた状態のニコに跨り、ヒナはご満悦だ。

 そりゃまぁ、まだ動いてないからな。

 さて、俺も乗るか。


 ヒナの後ろへ跨ろうとした時。


「そこ、危なくないですか? なんだか振り落とされそうな……」


 心配そうに振り返りながら言うヒナ。

 ならばと、俺はヒナの前へ、ちょこんと座った。

 しかし。


「……掴まるところがないと困りません?」

「じゃあどうしろと……」

「あっ、こうしましょう! アキきゅん、身体ごと私のほうを向いてください……うんうん、いいですね。それなら私にしがみつけるでしょ?」

「……は?」


 俺に猿の赤ちゃんの真似事をしろと?

 ええ、しますとも!


 ご希望通り、ヒナの胴にむしゃぶりつく……いや、しがみついた。

 自然と控えめなぽよんぽよんが俺の顔の位置に。

 極楽とはこのことか。


「さぁ! ニコちゃん行きましょう!」

「待て待て! ニャル、こっちへ来い」

「はいニャル」

「お前は俺の服の中に入っててくれ」


 俺はそう言いながら胸元にニャルを突っ込んだ。


「ご主人さまの胸はぺったんこですニャル~」

「ほっとけぇ!」


 幼女なんだから当たり前だろうに。

 いや、男状態でも当たり前なんだが。


「今度こそ、ニコちゃんレッツゴーです!」

(かしこまりました。しっかりお掴まりください!)





 と言うことで冒頭へ戻るわけだ。



「速い! 速いですよニコちゃん! んひぃぃぃいいい!」


 笑ってんだか泣いてんだかわからぬ声で叫ぶヒナ。

 少なくとも美少女が上げていい悲鳴ではない。


 ニコは快調に飛ばし、あっと言う間に白蓮の森を抜け選定者の街道を疾駆する。

 そして、行きにあれほどかかったとは思えぬほどの短時間で戦乙女の神殿へ到着したのであった。


「ひぃ、はぁ……」


 乗っていただけなのに、ひどく疲れた様子のヒナ。

 歩くのでさえもしんどそうだ。


「大丈夫かヒナ」

「……な、なんとか……アキきゅんが落ちなくてよかったです……」


 自分よりも俺の心配か。

 ニコに乗っているあいだ中、片手でずっと俺の背中を支えてくれてたもんな。


 くそ、こんな時になんで男の姿じゃないのか。

 せめてヒナに肩くらい貸してやりたいのに。

 俺がヒナを守ってやりたいのに。


 もどかしさに葛藤している時、ヒナは俺と、俺の胸元から顔を出しているニャルを眺めてニヘニヘと笑っていた。

 きっと萌えたのだろう。


 俺のほうこそヒナに萌えっぱなしなんですけどねぇ。



 などと考えてるうちにヴァルキリーさんの部屋についた。

 一応ノックをしてから入室する。


「あら~? もう戻っていらしたの~……ゴホン。も、もう戻ってきたのか。うむ、なかなか優秀だな」


 慌ててソファから立ち上がり体裁を整えるヴァルキリーさん。

 どうやらまたも寝転がって本を読んでいたらしい。

 なんと隙だらけな女神か。


「よくやった。これで第一の試練は終了だ…………って部屋に馬を入れるなぁぁぁぁ!」


 ブヒヒン?


 試練に私を組み込んだのはあなたでしょうに、とでも言いたげにニコが鼻を鳴らす。

 確かにニコが入ったお陰で一気に部屋は狭くなった気がする。


 あぁ、森の中を走ったもんだからニコも葉っぱまみれになっちゃったな。

 せっかくの美しい白馬が台無しだ。


「こ、こら! アキ! ここでユニコーンの汚れを落とすんじゃない!」

「え? あ、すみません。ニコが可哀想だったもので」


「ぐぬぬ……そのユニコーンを思う気持ちに免じて許そう……うぅ……あとでお掃除しなきゃ……ええい! それではこれより第二の試練を開始する!」


 第二!?

 まだあるの!?



『ユニークシナリオ・オルタナティブ:【戦乙女の試練】が更新されました』



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