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第48話 一角獣と言えば……


 大きな瞳でジッとこちらを観察する一角獣ユニコーン。


 その真摯な目は、まるで俺たちの奥底をも見透かそうとしているかのようであった。


「アキきゅん、確かユニコーンって……」

「ああ、俺も多分ヒナと同じことを考えてる」

「色々まずいかもしれませんね……」

「だな。なんせ俺は……」


 ブルルルルッ


 ユニコーンは俺の言葉を遮り、一声上げる。

 そして『こちらへ来い』とばかりに何度か頭を縦に振った。


「罠、ではないと思うけどな」

「明らかにフラグっぽいですもんね」

「こちらに来て欲しいと言ってますニャル」

「お前、ユニコーンの言葉がわかるのかよ!? 有能!」


 ここでフラグをヘシ折るわけにもいくまい。

 俺たちは意を決して泉の縁に沿って歩いた。


 これは、なるべく花を踏み荒らさないようにするための措置だ。

 無論、俺の考えなわけがない。

 我が天使(マイエンジェル)ヒナの提案でございます。


 容姿も良くて頭も良くて性格も良いとか、ヒナは女神だよなぁ!

 と、内心絶賛していたのだが、そのエンジェルからこんなお言葉をいただいた。


『アキきゅんアキきゅん、花を避けて歩きましょう。きっとユニコーンの好感度稼ぎになりますよ! ふふふ……』


 びっくりするくらいのゲーム的な打算でした!

 ヒナよ、これでは堕天使みたいだぞ……


 俺たちの悪だくみなどあっさり看破されそうな気もするが、やはりなんとなくこの綺麗な花々を踏みつけるのは憚られ、結局避けて歩くあたりが小市民の俺らしいと我ながら思った。


 北枕とか夜中に口笛を吹くとか、そういう軽いタブーを意外と気にしちゃうんだよなぁ。


 そんな俺たちを見据えたまま動かぬユニコーン。

 一挙手一投足を監視されているみたいであまり気分はよろしくない。


 だがそこは歴戦のゲーマーたる俺とヒナ。

 こちらもガッチリとユニコーンを視界に固定し、妙な動きをしようものなら問答無用で一発ブチかましてやるつもりだった。

 相手がモンスターである以上、警戒するに越したことはなかろう。


 しかし、ユニコーンは俺たちの予想に反し、近付くにつれて目を伏せ、跪いたのである。

 これには俺もヒナも驚きを隠せない。


 そして、俺たちが目前に立っても姿勢を変えることなく、ただ一声嘶いた。


「? なんて?」

「えーと、『【姫騎士】たる者よ。よくぞここまで参られました。歓迎いたします。長きことこの地を守ってきた甲斐があると言うものです』と言ってますニャル」


 あの一声でそんなに意味が詰まってんの!?

 どんな圧縮言語だよ!


 ヒヒン


「『さて、ではこれからひとつだけ質問をいたしますゆえ、正直にお答えください』ですってニャル!」


 ハッとしてヒナと顔を見合わせる。

 来た。

 審判の時がついに来てしまった。


 俺たちが伝え聞くユニコーンの習性は────



 ヒィン


「! ……それは失礼な質問ですニャル!」

「なぁ、ニャル、なんて? なんて?」

「……『あなた方は【処女】ですか?』と言ってますニャル……」


 言い難そうに顔をしかめるニャルだった。


「やっぱりな!」

「やっぱりですか!」


 思わずハモッたバカップルがこちら。


 ────そう、ユニコーンの困った習性とは、清らかな乙女しか絶対に認めないと言うことだ。



「……私は……まぁ、今のところは、そうです……やだも~……」


 消え入る語尾と共に、真っ赤な顔でヒナはそう答えた。

 なんでかホッとする俺。

 同時に『今のところは』の部分でドキッとする。

 それって、そう言う意味に受け取っていいんですかねヒナさん?


「ニャルもですニャル!」


 そういやお前はメスだったな。

 ユニコーンがニャルのことまで気にしているかは知らないが。


 きみたちはまだいいだろうよ。

 どちらにせよ答えがきちんとあるんだから。


 問題は俺!


 見た目は幼女だけど中身が男!

 どっちの性別として答えるのが正解なんだ!?


 いやまぁ、そういった経験のあるかなしかで答えるなら、おとこ泣きをしながら『無い!』と断言はできるんだがな。


 いやいや、どっちの性別でも経験なんてねーよ?

 幼女のほうでなにかあったら事案発生じゃねーか!



 ヒヒーン


 ニャルに通訳してもらわずともユニコーンがなにを言いたいのかはわかった。

 さっさと答えろと急かしているに違いない。


 くっ。

 ヒナの前でこれを答えるのはなんだか恥ずかしい。

 いらぬ男のプライドが邪魔しやがる。


「……」


 ヒナがジトーッと俺を見ている。

 なんでそんな不審者を見る目付きなの?


「……アキきゅん。まさかとは思いますが、私以外の女の子と……?」

「まさかってなんだよ!? ない! ないよ!」

「……ハッ!? じゃあ男の子と!? 不潔!」

「んなわけあるかっ! どっちも処女です!」


 ヒヒーーーーーーン


 答えた途端にユニコーンは高らかに嘶いた。

 森中に響くような声で。


「うおっ、なんだ急に!」

「怒らせたんですか!?」

「いえ、これは歓喜の声ですニャル! 『私と同じ乙女にやっと会えましたー!』って!」


 えぇぇ!?

 こいつメスなの!?

 ユニコーンっつったら、普通オスじゃね!?


 ってか、俺は【処女】として認められたのか……

 なんかすげぇ複雑な気分なんですけど……


 ブルルル


 鳴くだけ鳴いて満足したのか、ユニコーンはまるで俺へこうべを垂れるように顔を伏せた。

 もしかして、『撫でろ』ってことなのかねぇ?

 そんな素振りに見えるけど。


 思い切って頬に触れてみると、嬉しそうに顔を摺り寄せてきた。

 おー、よしよし。

 こうしてみればなかなか可愛いヤツじゃないか。


 ヒナも鬣や首筋をおっかなびっくり撫でていた。

 都会に住んでると大型動物に触れる機会なんてあまりないから気持ちはよくわかる。

 俺も母方の祖父母が酪農をやってなかったらそんな経験は出来なかっただろうよ。


 ヒヒン


「ん? どうした?」

「訳しますニャル。『あなたがたはこの花園に咲く花々を傷つけなかった。その高邁な精神は私が仕えるにたる人物とお見受けいたします』」


 おおー!

 ヒナの策略は狙い通りユニコーンの好感度を上げてたみたいだな!


 んん?

 今、仕えるって言った?


 ヒヒーン


「『さぁ、私に名をお与えください』ですニャル」


 名前、名前か。

 よかろう。


「今からお前の名は【ニコ】だ!」

「うわ! 安直! ユニコ(・・)ーンだからですか!?」

「うるさいよヒナ! ほっとけ!」



 ヒヒヒーーーーン




 『ユニークモンスター:ユニコーン【ニコ】のテイムに成功しました』




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