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第44話 東へ向かってみよう


 【OSO】内、首都アランテルより東のエリア【選定者の街道】────



「あぁ~、春乃ちゃん可愛かったです~。私もあんな妹が欲しかったなー」

「えー? 年々姉ちゃんに似て口うるさくなってきてんだけど……」

「あははは、それはアキきゅんがだらしないからですよ」

「うぐっ、悔しいが言い返せない」


 俺とヒナは現在、まだ見ぬ地を目指して絶賛放浪中である。

 当然トホホの徒歩でだ。


 だが、ふんっ! 

 こうして、オラッ!

 ヒナと、せいっ!

 おしゃべりしつつ、ぐはっ!

 モンスターとも戯れながら歩む旅路も悪くないね、いてっ!


「春乃ちゃんはお兄ちゃんのことがとっても大好きなんですね。【ファイアボルト】!」

「は? そりゃいったいどこから出た結論なんだ? おっ、レアアイテムゲットー」

「もー、鈍感ですねアキきゅんは。態度を見てればわかるじゃないですか。私と話していても春乃ちゃんはずっとアキきゅんのことを目で追っていましたよ」

「えぇ!? んなわけねーって。あいつ学校でもモテるみたいだしな。イケメンのなんとかくんって子に告白されたらしいぜ?」

「……はぁ……春乃ちゃんもこれでは苦労しそうですねぇ」

「憐れみの目で見るなよ。だいたい、妹に好かれても嬉しくねーって。俺にはヒナさえいればいいんだ」

「ッ~~~~! アキきゅんラブです~っ!」

「ぐほぁっ! 背骨ぇっ!」


 気ままな二人旅。

 お互い気を遣わずとも済む特別な存在。

 なんでも言い合える仲。

 こんな気分を味わうのは【OSO】を始めたばかりの頃以来だ。


 キンさんはもとより、ツナの缶詰さんも仕事なのか、ログインはしていなかった。

 リアルの事情は人それぞれ。

 居ないものは仕方がない。

 と、言うわけでヒナと連れ立って首都を出たのである。


 たまには二人きりもいいもんだな。

 こうしてリアルのことも気兼ねなく話せるし。

 まぁ、ニャルもいるけど、こいつはNPCだからな。


 俺に見つめられ、不思議そうな顔でこちらを窺うニャル。

 どちらかと言えば猫派な俺は、そんなニャルの仕草だけでメロメロだ。


 それにしても春乃のヤツめ……

 なに考えてんだ。

 確かに兄妹仲は悪くないと思うけど、あいつそんなにブラコンだったっけ?


 ……いや、ごめん。

 ブラコンかも……

 今でも時々俺と一緒に風呂へ入りたがったりするもんな……

 夏姉ですら最近はそんなことを言わなくなったってのに……


 どちらにせよ、やはり買い物に連れて行ったのは失敗だったな。

 これ以上我が家の恥ずかしい部分をヒナに見せるわけにはいかん。


 ま、それはそれとして、この【選定者の街道】がやたらと広い。

 かつて、ヒナが魔導士への転職試験でマンドラゴラの根っこを集めに訪れた時以来だが、思った以上に広大だった。

 一応、街道と謳うだけあって、石畳で舗装された道路が延々と続いている。

 周囲は主に草原と、時折雑木林があるくらい。

 ただし、結構起伏に富んでいた。


「この街道ってどこに繋がってんだろ?」

「うーん、どこなんでしょうね。アキきゅんが『なるべく余計な知識を入れないほうが初見で感動できるだろ?』なーんて言うもんだから調べてすらいませんよ」

「うっ、そうだった。すまねぇ……」

「でも、ネタバレは私も嫌なんでアキきゅんの意見には賛成です」

「ですよねー。ま、のんびり行こうぜ」

「そうしましょー」

「ニャル~」


 二人と一匹がのんびりと闊歩する姿はピクニックにしか見えないかもしれない。

 俺の他に幼女がもう何人かいたら遠足状態だったな。

 そうなるとヒナが引率の先生か。


 ……女教師ヒナ。

 あれ?

 女教師って付けると急に淫猥な雰囲気に……


 脳内にはピチッとしたタイトスカートのスーツを纏ったヒナが机に腰かけ、クイッと眼鏡を持ち上げて俺を挑発する姿が繰り広げられた。

 勿論、黒いストッキングにハイヒールな。

 ……ダメだ、エロすぎる。


「アキきゅん、ダメですよ女の子が鼻の下を伸ばしてちゃ。他のプレイヤーもちらほらいるんですから」

「ハッ!? の、伸ばしてねーし!」

「どうせ変な妄想をしてたんでしょう?」

「してないしてない」

「……まさか他の女の子のことでも考えてたんですか?」

「ちげーって! ヒナが女教師だったらどうなるかなって! ……あ」

「……なんで女教師なんですか……変態」

「違うんだぁぁぁ!」


 長い金髪を振り乱してかぶりを振る俺。

 幼女のアバターでこれをやると駄々っ子にしか見えまい。

 そんな俺をそっと抱き上げるヒナ。


「でも、私のことを考えてくれてたのはちょっと嬉しいです」

「……ヒナ……」

「ご主人さま。女の子同士でチュッチュしてる場合じゃないですニャル。立札がありますニャル」

「!?」


 ニャルの的確なツッコミが入った。

 なんと言う超AIなんだろう。


 ニャルの言った通り、街道が二股に分かれている地点に立札はあった。

 街道の一方はそのまま東へ。

 もう一方は南へと伸びている。


 かなり高い位置にある立札を見上げると、『南:エリア2』、『東:戦乙女の神殿』と書かれていた。

 当然ながら日本語で。


 情緒がない!

 でもわかりやすくて助かるわー。


「へぇー、戦乙女の神殿だってよ」

「戦乙女って、ヴァルキリーのことですよね?」

「だな。やっと北欧神話らしくなってきたじゃん」

「ヴァルキリーの神殿があるなら、トールとかフレイとかの神殿もあるのかもしれませんね」

「あー、なるほど。確かにありそうだなぁ。さすがヒナ、賢いな」

「えへへへ」


 ピンクのツインテをピコピコさせながらはにかむヒナは格別に可愛らしい。


「で、どっちに行く?」

「そんなの聞くまでもないですよ」

「よし、エリア2だな」

「ぶっ! なんでそうなるんですか!」

「ははは、冗談冗談。戦乙女の神殿へ向けて出発!」

「わぁ! ヴァルキリーに会えるといいですね!」

「そうか! いるかもしれないもんな! うひょう! どんな美人なんだろ!」

「アーキーきゅーん!?」

「じょ、冗談だって! ニャル! 助けてくれー!」

「夫婦喧嘩は『猫』も食わないと言いますニャル」

「そりゃ『犬』だ!」



 大騒ぎをしつつ戦乙女の神殿へ向かう俺たちなのであった。




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