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第43話 妹、強襲


 チュンチュン。



「おにーちゃんおはよー」

「……んあ……? おー、春乃か……」

「今日もいい天気だよー」

「……そう、か……くー……」

「寝ーなーいーでー!」

「……ああ、起きた起きた……」

「起きてなーい!」

「……それより……なんでお前、俺の布団に入ってしかも抱き着いてんの……?」

「奇抜な起こし方を考えた結果がこれです!」

「……裸じゃないからインパクトに欠けるな……くー」

「秋兄のエッチ! そして寝ないでー!」


 俺の首を両手で掴み、容赦なく全力で揺さぶる我が妹(マイシスター)春乃。

 目覚めた途端に死ぬわ。


「ぐへっ! ごっほごっほ!」

「ああっ! ごめんねお兄ちゃんごめんね」


 俺にまたがった妹から首を絞められているこの構図。

 ちょっとしたサスペンス劇場だ。


 だとしたら俺はどんな罪で殺されかかっているのだろう。

 ヤンデレの妹が兄を愛するあまりに及んだ凶行、あたりが妥当かもしれない。


 珍しくツインテールに結った長い黒髪を振り乱しているあたりもやばいな。

 段々ホラーじみてきたぞ。


「あれ、今日はツインテなのか」

「うん。この前会った時にかわいいなーと思って日菜子ヒナコお姉さんの真似してみたー」

「ふーん……まさか、例の『彼氏』に見せるためか? 夏姉に聞いたぞ。男子から告白されたってな」

「あぁ、それ?」


 急に大人びた目付きになる春乃。

 夏姉に似て整った顔立ち故に、ゾクッとするような妖艶さがある。

 そして12歳とは思えぬ仕草で前髪を払うと。


「断っちゃった」


 こともなげにそう言うのだった。


 それよりもまず俺の上から降りろ。


「はぁ? なんでだよ。まぁ、お前にはまだ彼氏なんて早いと思うけどさ」

「え? クラスでは結構付き合ってる子たちいるよ?」

「マジかよ!? どうなってんだ今の小学生は……俺なんてそのぐらいの年頃は鼻水垂らしてたってのに」

「やははは! 汚ーい! んー、そうだねー。強いて言えば同い年の男のなんてみんなガキっぽいからかなー」

「そ、そうですか……」


 そりゃクラスのみんなだって小学生だもん。

 ガキっぽいと言うか、ガキに決まってるだろうよ。


「それと、わたしにはお兄ちゃんがいるしねー」

「? なんでそこで俺が出てくる」

「さぁ? なんででしょー? へへへー」


 いたずらっぽく笑う春乃だが、なぜか俺には小悪魔の微笑みとしか見えなかった。


「ほらほら、かわいい妹のお陰で起きられたんだから早く着替えて。夏乃お姉が待ってるよ」

「へいへい、わかったよ」


 着替えとヒナへのモーニングメールを済ませて階下へ降りると、ダイニングの食卓には朝から豪華な料理が並んでいた。

 春乃は既に着席しており、神妙そうな面持ちで料理と姉の顔を交互に眺めている。


「おはよう秋乃くん。さぁ、座って座って」

「あ、ああ、おはよう夏姉ちゃん」


 俺はいつもの席に腰かけてから驚いた。

 目の前には皿に盛られた山のような形のチキンライス。

 そしてなんと、頂上には小さな日本国旗が掲揚されていたのだ。


 お子様ランチ!?



「お兄、これってどう言うこと? お姉になにかあったの? すっごく機嫌がいいんだけど」


 春乃は俺に顔を寄せ、小さな声でそう問うた。

 俺も姉に聞こえぬよう、小声で返す。


「昨日の夜、なにかは知らんがとても良いことがあったみたいなんだよ。『可愛いものに囲まれた』とか言ってたし」

「あぁー、お姉は可愛いものに超弱いんだったね……その癖に小物とかは興味ないって、全然意味わかんない」

「夏姉の『可愛いもの』ってのは、人か動物だからなぁ……何度も犬や猫を拾ってきては母さんに叱られてたし」

「お母さん、動物嫌いだもんね……」

「しかも毎度その犬猫を元の場所に返してくるのは俺の役目なんだぜ? ひどくね?」

「あ、あれってお兄だったんだ? だいたい次の日にはいなくなってるから不思議に思ってたんだよねー」

「俺の涙ぐましい努力をわかってくれたか」

「うんうん。えらいえらい」


 妹に頭を撫でられる兄の姿。

 なんだか新たなプレイに目覚めそうだ。


「はーい、全部出来たよー。さぁ、召し上がれ」


 テーブルにずらりと並んだ料理の数々。

 眩いばかりの笑顔を見せる夏乃姉。


 朝から胃に重たそうだ、などとは思わない。

 なぜなら俺たちは育ちざかりだからだっ!


「いっただきまーす」

「いただきまーす」


 パンと手を合わせるや、一気にガッつく俺と春乃。

 ニコニコとそれを見守るのは、母親よりも慈愛に満ちた姉。

 俺たちが美味しそうに食べるのを見るのが三度の飯より好き、と言われてはそれに応えるしかなかろう。


 いざ、尋常に勝負!




「く、くるちぃ~……」

「うぅ……お腹一杯……」


 結果は火を見るよりも明らかだった。

 俺と春乃はリビングのソファで屍と化す。


「秋乃くん、春乃ちゃん、お茶を淹れたよ~。こら! 食べてすぐ横になると牛になっちゃうんだよ!」

「お婆ちゃんの格言じゃねぇんだから……久々に聞いたよそれ」

「わたしは牛でいいです……」

「もうー、困った子たちね」


 とは言うものの、夏姉は笑顔のままだった。

 まるでこれから楽しいことが待っているかのように、心の底から歓喜が滲み出ている。


 姉ちゃんの機嫌がいいとこっちまで嬉しくなるね。

 メシは豪華になるし、ゲーム三昧でも怒られないし。


「二人ともお薬は飲んだ?」

「飲んだ」

「うん。飲んだよ」

「よしよし、いい子だねー。私も飲まなきゃ」


 数年前、病院で検査を受けた時から出されている薬がある。

 なんでも不足した栄養を補うものだと聞かされていた。


 全国一斉検診みたいなのがあってな、大人は個別に、18歳以下は学校単位で受けたんだよ。


 それより、今日はどうすっかなぁ。

 勝手に先へ進むとキンさんがうるさそうだし、レベルも80後半まできちゃったからなぁ。

 あ、そう言えばツナ姉さんのログイン時間もわかんねーや。

 んー、ならヒナと大陸を探検でもするかな。

 いいね、行ってないところを巡ってみるのは楽しそうだ。


 ……あれ?

 これじゃ子供をほったらかして世界を巡ってるうちのアホ両親と同じだ。

 ……これも血筋の成せるわざか……


「さてさて、お姉ちゃんは掃除をしますよー。洗濯物があったら出しておいてね」

「りょうかーい」

「はーい」

「そうだ、秋乃くん。悪いけどお買い物に行って来てくれない?」

「買い物?」

「うん。朝ご飯に力を入れすぎて食材がなくなっちゃったの、てへっ」


 小さく舌を出す夏姉。

 我が姉ながら憎めない仕草だ。


「ん、わかった」

「買うものはメモしておいたから。お金と一緒にエコバッグの中に入れておくね」

「へーい」


 買い物かぁ。

 ヒナでも誘ってプチデートでもするかな。


 そう思い立った俺は、ポケットからスマホを取り出してヒナへメールを送る。

 ピロン。

 どう言うわけか、2秒くらいで返信がきた。

 ハートマークが一杯の中に、『是非ご一緒させてください!』と書かれている。


 どんだけ打ち込み早いんだあいつ。


「お兄! わたしも行きたい!」

「えー?」

「ねー、いいでしょー!?」

「春乃くらいの年頃なら兄貴なんかと一緒に買い物って、普通は嫌がるもんなんじゃねぇの?」

「よそはよそ! うちはうち!」


 なんだかどこかのオカンが言いそうなセリフで返された。


 言い出したらきかないからなぁこいつ。

 仕方ない一応、ヒナに了承を得るか。


 ピロン。


 またもや数秒以内に返信が来る。


 常にスマホを構えてんのかあいつは?

 どれどれ。



『春乃ちゃんも来るんですか!? 大歓迎ですよー!!』



 さ、さいですか。




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