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第41話 特別称号


「はっはっは。いやはや、気付いたらビートエイプを倒していたなんて、僕の力もなかなかのものだねぇ。あまりよく覚えていないが……なにかバブみのようなものを感じた気がする……うっ、頭が……」


 かんらかんらと高笑いから一転して頭を抱える栗毛サングラス、もといキンさん。

 どうやら【大声援】のスキル効果により、幼児どころか乳児にまで退行化していたことは記憶にない御様子。

 それは効果を受けた他のプレイヤーたちも同様らしく、まさか自分があのような痴態を晒したとは想像だにしていまい。

 俺もヒナも、そしてツナの缶詰さんもわざわざそれを指摘などはせず、健闘を讃え合うみんなの姿を眺めていた。


 真実ってのは知らないほうがいい場合もあるんだよなぁ……

 いてて。


 正気に戻った司祭さんたちが、噴水大広場のあちこちに転がるプレイヤーたちに死者蘇生リザレクションをかけて回った。

 覗き目的でわざと死体のままのアホプレイヤーもいるため、『強制的に全員起こしちゃえ作戦』だと女性司祭さんが言っていたが、幼女となった俺の目から見ても正しいことだと思う。


 そして、死体だった人もあの(・・)大声援による乱痴気騒ぎを目撃していたはずだが、それには一切触れず一様に口を閉ざし、まるで狐につままれたような顔をするばかりだ。


 わかるわかる。

 スキル使用者の俺ですらあんなことになるとは思ってもみなかったもんな。

 いててててて。


 ひとしきり笑ったり悩んだりしたキンさんは、禍々しい鎧姿のプレイヤーに声をかけた。


「貴女もアキくんとヒナさんを手伝ってくれたそうで、ありがとうございましたツナの缶詰さん。いやぁ、流石にハンティングオブグローリーのメンバーはお強いようですな」


「(はぁぁぁん! お二人とも、とってもかわゆいですぅ~! ……はっ!?)いえ、礼には及びません保護者のかた。可愛い子を救うのは私の天命でもありますゆえ。それに、私などまだまだ強いとは言えません」

「いでででで」

「あいたたた」

「ははは、ご謙遜を(アキくん、ヒナさん、ここは耐えてくれっ……)」


 先ほどからツナの缶詰さんに思い切り抱きしめられている俺とヒナを憐れむように見つめるキンさん。

 彼は俺たちを助ける気などないようで、ただただ憐憫の眼差しを向けるだけだ。


 この薄情者。

 こんなことなら幼児化したキンさんの恥ずかしいスクリーンショットを山ほど撮っておけばよかったな。

 後で思い切りいじり倒せるいいネタとなったろうに。


 いっでででで!

 ツナ姉さんの力強すぎる撫でかたは危険だ!

 頭皮が全部剥がれそうだぞ!

 それに、高STRで全力の抱擁をするもんだから、鎧の突起物が俺の全身に刺さってるよ!


 だが、助太刀してもらった恩もある。

 正直言って、ツナの缶詰さん無しにはビートエイプ攻略は成り立たなかったであろう。

 だからこそ俺もヒナも甘んじて現在の境遇を享受しているのだ。


 でも、いでで、せめて、いででで、鎧兜は脱いで欲しかったよねぇででででで!

 あれ?

 そういやツナ姉さんの素顔って見たことないなあでででで。

 まぁ、人にはそれぞれ事情ってもんがあるから別にいいんだけどさででででで。



『こんばんは。【オーディンズスピア・オンライン】運営チームでしゅ』



「黄ばみか」

「おい、いきなり噛んだぞ」

「今回は噛むの早いわねぇ」

「かみまみた」

「やめぃ!」


 早くも言い損じた『黄ばみ』こと運営チームからのお知らせに、プレイヤーから矢継ぎ早なツッコミの嵐。

 この女性ゲームマスターはもはや【OSO】名物と化している。

 そして噛み噛みちゃんぶりは健在なようだ。


『皆さまの奮闘によって、首都アランテルに出現したモンスターは全て討伐されました! お見事です!』


「すげぇ、噛まずに長文言えた」

「おっ、全滅したのか」

「あら、もう終わりなの?」

「いやぁ、終わった終わった」

「お疲れー」

「おつー」



『いかがでしたでしょうか? 皆さまのストレス発散に一役買うことが出来たのならば運営チームとしてもしゃい……幸いです! それでは最後に、今回のゲリライベントにおける記録レコードを発表いたします! 討伐モンスター総数1218匹……』



「キンさん。さっきの戦闘でレベルは上がったの?」


 ツナ姉さんに抱っこされながら尋ねる。

 兜のまま頬ずりされて俺の皮膚が擦り切れそうだ。

 いつの間にかヒナのやつは上手いこと隙を見て脱出したらしい。


 ズルいぞ!

 俺を生贄に捧げやがったな!


「え? えーと、おお! 随分上がってるよ! こ、これで僕もようやくまともな司祭に……!」


 ウィンドウを確認し、感動に打ち震えるキンさん。

 サングラスの下からキラリと光る一筋の涙が……見えない。

 どうやらキンさんを除く俺たちでビートエイプとその眷属を倒したことが起因となっていることなど忘れていそうだ。

 そもそも彼のレベルアップが経験値公平システムのお陰であるのは言うまでもない。


 ってーか、INT1でLUKに振りまくった司祭ってのはどうなんだ……?

 これでもし、汎用性の高いステだと判明すればキンさんは先駆者として讃えられ……るといいねぇ。

 まぁ俺もVITが低すぎて人のことをとやかく言えた義理じゃないんだけども。


「ああ! ここにいたんですかツンデレ幼女さま!」

「あっ、変態さんもお疲れさま!」

「私めの労いは、是非とも罵りでお願いします」

「…………全くあんたは本当に変態なんだから! でも、おバカさんなりに頑張ったんじゃないの?」

「ふぉぉおおお! 見事なツンデレ! ありがとうございますありがとうございます!」


 己で己の身体を抱きしめ悶絶する頭にウ〇コ帽子を被った変態騎士さん。

 彼に関してはもはやなにも言うべきことはない。

 そっとしておくのが一番だろう。



『そして、しゃ、最後に、最大ダメージを記録したのは……プレイヤー『アキ』さん! プレイヤー『ヒナ』さん! プレイヤー『ツナの缶詰』さんです! これを讃え、御三方には特別称号【スペシャルアタッカー】を運営チームより進呈いたします! しょ、それでは、引き続き【オーディンズスピア・オンライン】をお楽しみくだしゃい!』



 ゲームマスターからいきなり名を呼ばれた俺たちは、お互いの顔を見回す。


 噴水大広場にいる全てのプレイヤーが、噛みまくってる黄ばみへのツッコミも忘れて一斉にこちらへ注目し、幾ばくかの間を置いたあと────



 大歓声が巻き起こったのである。



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