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第40話 3連携


「あなたは……ツ、ツナの缶詰さん!?」


 颯爽と噴水大広場へ現れた禍々しい鎧に身を包んだ騎士に、俺は驚きの声を上げた。


「はい。ですが私のことは親しみを込めて『ツナ缶』か『ツナちゃん』と呼んでください」

「は、はぁ」


 ごつい鎧姿でお茶目なことを言うツナの缶詰さん。


「で、でも、どうしてツナの缶詰さんがここに?」

「『ツナちゃん』、もしくは『ツナお姉さん』です」


 要求が変わってる!?


 なんなんだこの押しの強さは。

 でもなんでだろう。

 いつかどこかで同じような感覚に囚われたような……


「アキきゅん。なにがなんだかよくわかりませんが、逆らっちゃいけないような気がします」

「……ああ。俺もそう思ってたところだ……」

「取り敢えず、ロールプレイを忘れないでください」

「わかってるよ」


 耳打ちするヒナに俺も小声で返す。


 俺は気合を入れ直し、口角を思い切り上げてツナの缶詰さんに尋ねた。


「ツナお姉さんはどうしてここにきたの?」

「(はぁぁんっ! とってもかわゆいですっ!)簡単なことです。貴女が可愛いからですよ」

「???」


 ヤバい。

 なにを言ってるのかさっぱりわからねぇ。

 本当に同じ日本人か?

 日本語を理解した宇宙人と話してる気分だぞ。


「私には可愛いものを見つける力が備わっているのです」

「嘘ォ!?」

「えぇぇ!?」

「その話は後にしましょう。ビートエイプの討伐が急務です」

「あ、う、うん! そうね!」


 とんでもないことを言い出しておいて、急にまともになられてもこっちは頭が上手くついて行かない。

 ともかく、ツナの缶詰さんが俺たちを助太刀しに来てくれたのは間違いなさそうだ。


「アキさん、ヒナさん。お二人をお守りするために、私もパーティーへ入れていただけますか?」

「うちのパーティーは『一応』3人いるんだけど……はいっ、申請したよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 パーティー加入要請ウィンドウのOKボタンを押しながらきっちりと頭を下げるツナの缶詰さん。

 明らかに俺たちよりも年上のお姉さんなのだが、本当に礼儀正しい人だ。


「では、お二人とも、安全な場所へ退避してください」

「えっ? 一人で戦う気なの?」

「危険すぎますって!」

「大丈夫です。こう見えて私は強いのですよ」


 ドゴンと力強く己の胸をブッ叩くツナの缶詰さん。


 いや、俺もヒナもそこを疑ってるわけじゃないんだけどなぁ。

 そりゃ廃人団のハンティングオブグローリーに所属してるんだから強いでしょうよ。

 でも、エリア10のボスであるビートエイプをソロ討伐って出来るもんなのかねぇ?


「行ってまいります!」


 って、止める間もなく行っちゃったよ。


「アキきゅん。ツナ缶さんは本当に大丈夫なんですか?」

「さぁ? でもまぁ、お手並み拝見と……おい、ちょっと待て」


 駆けるツナの缶詰さんの背中を見ていて気付いた。

 パーティーに加入していればメンバーのHPがゲージとして可視化出来る。

 司祭はこのゲージの減り具合を見ながらヒールをかけられると言う便利機能なのだ。


 それはいいんだけど、ツナの缶詰さんのHPが半分以下なのはどうして!?


「おいおい、あの人、ゲージが黄色くなってんじゃん!」

「へ? うわ、本当です!」


 そうか、廃人団はフォレストガンマのドロップアイテム狙いとか言ってたし、彼女は戦闘を終えた直後に来たのかも。

 ……間抜けすぎるだろ。

 もしや天然キャラなのか?

 なんだか、誰かさんを彷彿とさせるな……


 UHHOOOOOOOOO


「あ、殴られた」

「わっわっ、こちらへ吹き飛ばされてますよ!」


 ビートエイプ・シルバーバックの放ったモックチャージを二本の長剣で受け止めたツナの缶詰さんであったが、勢いを完全には殺すことが出来ず、まともに吹っ飛んだのだ。


 言わんこっちゃねぇ。

 しかし、どうすればいいんだ?

 ポーションもないし、ヒーラーはほぼ壊滅してるし、キンさんはまだ【大声援】の効果が残ってて幼児化してるし……

 ちょっ、バブバブ言ってんぞ!?

 幼児どころか赤子まで戻ってるじゃねぇか!


「仕方ない。ヒナ、やっぱ俺たちも戦おう」

「ですね。やったりましょう」


 俺たちが駆けだした時、既にツナの缶詰さんは態勢を立て直してビートエイプと互角以上に打ち合っていた。

 実力は知らないが、さすがに廃人集団へ所属しているだけのことはある。

 最強形態のビートエイプ・シルバーバックにも力負けはしていないのがその証拠だ。


「アキさん、ヒナさん、どうして来てしまったのですか!」

「それは……ツナお姉さんと一緒に戦いたいから!」

「あまり戦力にならないかもしれませんが囮くらいにはなれますよ!」

「(ジーーン! なんて素敵で可愛らしくも健気な子たちなのでしょう!)そうですか。そう言われてしまっては同じプレイヤーとして返す言葉もありませんね」


 ツナの缶詰さんの横に立ち、鬼神滅砕斧オーガベインを構える俺。

 俺の位置を確認し、後ろから牽制に軽めの魔法攻撃を放つヒナ。

 それが開幕の合図であった。


「はぁあぁっ!」


 ツナの缶詰さんが右手で斬りかかり、ガード態勢に入ったビートエイプの無防備な足を見逃さず斧を叩き込む俺。

 付け焼刃にしてはナイスコンビネーションだ。

 まるで昔からの知り合いみたいに息が合う。


 ん?

 コンビネーション?

 そう言えば確か【姫騎士】のスキル欄にそんなのがあったような……


 ビートエイプが放つ左右の拳によるラッシュを二本の長剣で華麗に捌ききるツナの缶詰さん。

 ラッシュ後の隙をついて、分厚い胸板を斬り裂く様は見事としか言いようがなかった。


 しかし敵もさるもの。

 高難度エリアのボスは伊達ではなかった。

 凄まじい拳の打ち下ろしがツナの缶詰さんを襲い、ガードした二本の長剣ごと彼女を地面へ叩き伏せたのである。

 さしものツナの缶詰さんも大きなダメージを受け、HPが急激に減って行った。

 やはり万全ではない状態で戦うのは無理があったのだろう。


 今度こそヤバいな……

 ……ああもう!

 ツナ姉さんには色々バレるだろうが、こうなったら仕方ねぇ!

 ここまできて負けるよりは100倍マシだ!


 俺は素早くウィンドウを操作しながら二人に尋ねる。


「ツナ姉さん! 騎士スキルの【クロス・スラッシュ】って習得してる!?」

「え? ええ、使えますよ」

「ヒナ! 合図をしたら【サンダーブレード】をお願いね! ツナ姉さんもそれでいい!?」

「りょ、了解ですっ!」

「アキさんにお任せしますよ」


 二人が頷いたのを確認するや俺は一気に駆け出した。

 拳の振り上げモーション中のビートエイプを引きつけるためと────


 GOGAAAAAAAAA


「【雲身】!」


 ────ヤツの背後を取るために。


「ツナ姉さん!」

「【クロス・スラッシュ】!!」


 俺のほうへ振り返ろうとしたビートエイプへ、ツナ姉さんが渾身の二連斬を放つ。


 GUAAAAAAAAAAA


 自慢の胸板を深々と十字に斬りつけられて絶叫を放つビートエイプ。

 血潮のような赤いエフェクトが勢いよく噴き出す。


「ヒナ!」

「【サンダーブレード】ォッ!!」


 ヒナの杖から紫電を帯びた雷光が走り、その名の通り刀身(ブレード)状の雷電が真上からビートエイプ目がけて振り下ろされる。


 GIIIIIIIIIIIIII


 轟雷による強烈な放電、そして毛や肉の焼ける臭い。

 雷光の刀身はビートエイプの肩口半ばまで食い込む。


 その雷光を俺は大斧に受けた。

 鬼神滅砕斧オーガベインが紫電によって紫に輝く。


 とどめは勿論俺が刺す!


 大上段に振りかぶった斧を、高々と跳躍し、全力でビートエイプの脳天へ背後から撃ち込む。



「ドッキングスキルコンビネーション3(スリー)! 【インペリアルクロスブレード】!!」



 大斧は頭から股下までを真っ二つに断ち割った。

 紫電が輝きを放ち、ビートエイプの全身を包み込むと、そのまま大爆発を起こした。


 もはや最期の断末魔すら上げることを許されず、粒子となって消えゆくビートエイプ。



 システム上、モンスターに攻撃を挟ませることなく特定のスキルを連携可能な【姫騎士】固有能力、『ドッキングスキルコンビネーション』が見事な初陣を飾った瞬間であった。



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