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第38話 黒い人再び


「ようじょしゃまのためにぃぃぃ!」

「そぉぉぉぉおおい!」

「まどうしちゃまにほめてもらうのぉぉぉお!」

「アキきゅうううううん! ヒナしゃああああん! しゅきぃぃぃいいい!」



「ちょっ!? あれ見てくださいよアキきゅん! キンさんも【大声援】にかかっちゃってません!?」

「……うわぁ……マジだ……」


 陶酔に満ちた顔で栗毛を振り乱しながらビートエイプに殴りかかっているキンさん。

 最早頭の中には俺とヒナのことしかないのだろう。

 それはどうやら他のプレイヤーも同じようであった。


 なんか嫌だなそれ……

 このスキルは違う意味で危険すぎる。

 今後は固く封印しよう……


「俺はキンさんの名誉のためにも見なかったことにしとく……」

「私もそうします……」


 動画を撮っておけば後でキンさんをおちょくれるんじゃないか、などと考える悪い俺を抑えつける。

 いかんな。

 どうにも俺はネタを優先しがちで困る。

 くそ、あんなに面白い顔をするキンさんも悪いんだぞ。

 まぁ、逆の立場だったらキンさんも嬉々として俺の痴態動画を撮ろうとするだろうけど。


「でも、かなり押せ押せムードじゃありません?」


 確かにヒナの言う通りだ。


 四方八方から攻められ、完全に防御へ回ったビートエイプ。

 しかし前方からの攻撃は防げても、後方には対処できずクリティカルやバックアタックを喰らっていた。


 あ、ちくしょ。

 乱戦も楽しそうだな。


 ……今行ったら暴走したプレイヤーやキンさんから、もみくちゃにされそうだし絶対近付かないけど。


「うん、これならみんなに任せておいても勝て……る……」

「……あれ?」


 ……おや!? ビートエイプのようすが……!


 石畳にうずくまったビートエイプは、微動だにすることなく攻撃を受けていたのだが、よく見ればヤツの体表から白く水蒸気にも似たエフェクトが噴出し始めたのだ。



 U、U、U……UHOAAAAAAAAAAAAAAAA



 耳をつんざく咆哮一閃。


 白い闘気を上空まで噴き上げながら、ヤツのたてがみから背中にかけて、体毛が見事な銀色に染まった。



 おめでとう! ビートエイプは、ビートエイプ・シルバーバックにしんかした!



 いやマジで。

 名前もちゃんと『ビートエイプ・シルバーバック』になってる!


 しかもなにあれ。

 急に強そうになったんだけど。

 スーパーサ〇ヤ人?


「……シルバーバック、ですか……聞いたことがありますね」

「なに!? 知っているのかヒナ! さすが学年一!」

「はい。なんでも、成熟したオスの背中は銀色へ変化し、ボスとして群れを率いるそうです。そのシルバーバックの中でも、頭部まで銀になったオスは王として他の群れからも一目置かれる存在となるそうです」

「……後半がなんか嘘くせぇな」

「そして王となったオスはあのように……」



「うわあああああ!」

「うっぎゃああああ!」

「なにあの突進!?」

「ヒールをかげべふっ!」



「【モックチャージ】と呼ばれる必殺技で敵を倒すそうです」

「これはひどい! 冷静に解説してる場合か!」


 シルバーバックのとんでもない突進で、プレイヤーたちがまるでボウリングのピンよろしく吹き飛んで行く。

 ガッツ効果で生き残った者も二度目のモックチャージの前には無力であった。

 バタバタと倒れ伏すプレイヤー。


 ダンプカーに跳ねられたみたいになってる!


 ああ、もう【大声援】の効果時間も尽きるころだ。

 一気に形勢逆転されるとはな……

 流石はエリア10のボスってところか。


「アキきゅん、どうします? 私はあんまりSPが残ってませんよ」

「俺もだ。ポーション補充前だったからなぁ」

「ラフレシア・プラチナムの時に使い切っちゃってましたからね」

「たとえSPがあってもこの状況じゃ厳しいかもしれんが……」

「【大号令】ならどうにかできるんじゃありません?」

「アレなぁ。使ったとしても、たぶん歯が立たないぞ」

「なんでです?」

「そりゃ簡単な話だ。単純に今ここにいるプレイヤーのレベルが低いからさ」

「あー……」

「素のレベルが低いと、いくらステータスが2倍になってもなぁ」

「ですね……」

「フォレストガンマの時はそれなりにボスとのレベルが拮抗してた連中だった。だからこそ【大号令】で一気に押し切れたんだけど……」


 高レベル帯のガチ勢はフォレストガンマのドロップ狙いに行ってしまったらしい。

 つまり、この場にいるそれなりにレベルの高いプレイヤーは俺とヒナだけと言うことだ。


 ま、俺はむしろそれも面白いと思ってるけどな。

 二人で特攻するのもまた一興。


 ゲームにおいてトライアンドエラーはどこまでも付きまとうものだ。

 試行錯誤を繰り返し手探りで攻略するのもゲームの醍醐味だろう。


 この【OSO】はそれが特に顕著だ。

 攻略Wikiなんてものが存在しないのだから。


 昔のゲームは全てそうだった。

 『人柱』と呼ばれる探求心に溢れた先人たちが切り拓き、後続に道を指し示す。

 後人はそれを研究し、発展させ、全てのプレイヤーに攻略と言う形で広めるのだ。


 ならば俺もそれに倣うしかあるまいよ。


「ヒナ、ちょっくら俺、死んで来るわ」

「ブッ! それじゃ自殺志願者みたいですよ!」

「わはは! ゲームの中じゃいつだってそうだろ」

「そうですけど……私はたとえゲームの中でもアキきゅんには死んでほしくありません」

「おっ、健気なことを言ってくれるねぇ」


 ヒナの言い分を聞いて尚、俺は大斧を担ぎ直す。

 意識してはいないが、きっと顔はニヤリと笑みを浮かべているだろう。


 すまんヒナ。

 これほどバカな男がヒナの彼氏で申し訳ないと思ってる。


「いいえ。アキきゅんが行くなら私も行きます。どうせなら二人で無理心中しましょう」

「物騒だよ!?」


 凛とした顔で杖を構えるヒナ。

 バカな俺にどこまでも付き合ってくれるらしい。


 俺は格好付けて『お前は来るな』とか『死ぬのは俺だけでいい』なんて言わないぞ?

 どこまでも一緒に行こう。



「おっしゃ、【大号令】で……」


 しかしSPが足りない!


 忘れてたぁっ!




 ザッ



「おや? これはアキさん、ヒナさん。またお目にかかりましたね。ご壮健そうでなによりです」



 顔まで覆う、黒紫の禍々しい全身鎧。


 バツ印に背負った二本の長剣。


 下向きにした剣を挟むように吠え立てる二頭の猟犬を模したエンブレム。


 見た目からは想像できぬ、涼やかな女性の声。




「あなたは……ツ、『ツナの缶詰』さん!?」





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