表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/167

第37話 頑張る人には声援を送りましょう


 ベキベキバキバキピキピキッ


 ヒナの放った大魔法【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】によって、大音量と共に広場全体が無数の鋭い氷柱に覆われた。


 その氷柱、一本一本の中に氷漬けのミニゴリラが苦悶の表情もそのままに閉じ込められている。

 ヤツらの目は光を失い、既にHPが尽き果てたことを示した。


 すげぇな大魔法ってのは。

 派手だし威力も半端ねぇし、一網打尽じゃねぇか。

 ヒナが魔法使い好きなのもなんかわかるわー。

 魔法ってのはやっぱりファンタジーの花形なんだなぁ。


 ま、お陰でミニは全滅だろう。

 おお、噴水塔にいたビートエイプ本体も凍り付いてら。



「アキきゅん! ごめんなさい! 今の私では一時的な足止めが精一杯でした!」

「……へ?」



 ピキピキピキ……ピシッ



 UHOOOOOOAAAAAAAAAA



 氷の牢獄をブチ破り、怒りに満ちた高らかな咆哮を上げるビートエイプ。

 ドゴンドゴンと激しく胸を叩いているあたり、ミニゴリラを倒されて発狂(マジギレ)モードに入ったのかもしれない。


 ちなみにゴリラがドラミングする時の手の形はパーが正しい。


 良く勘違いしたゲームやアニメ、人間がモノマネする場合などにグーで胸を叩いていたりするが、あれは恥ずかしい間違いなので気を付けよう。

 真のゴリラーたる諸君は、掌で雄々しく胸をブッ叩くべし!


 ……びっくりするくらいどうでもいいな……



 ズシーン


 なんて、バカみたいな思考に陥っている間に、ビートエイプは噴水塔から飛び降りていた。

 高みの見物をやめて、いよいよ本気で闘う気になったようだ。



「ビ、ビビんなよお前ら!」

「ヘッ、口の割にはおめぇ、足が震えてんぜ?」

「これは武者震いだ!」

「無理しないほうがいいんじゃ……」

「こっちに来たぞぉ!」

「うわあああ!」

「あの野郎……ビビんなっつっといて真っ先に逃げんのかよ……!」

「退くな! 我々にはツンデレ幼女さまのご加護がある!」

「なに言ってんだこいつ……?」



「ヒナさん! 逃げるんだ! ヤツの狙いはきみだよ!」

「は、はいっ!」


 いかん!

 やはり大魔法を放ったヒナにタゲとヘイトが向けられたか!

 クソザルめ、俺の女に手は出させねぇ!


 ……今のセリフ、ちょっとかっこよくね?

 あっはい。

 気のせいですよね。

 調子に乗ってすみませんでした。


 なんてやってる場合じゃねぇ!


 俺はヒナたちのほうへ全力で駆け出した。

 そして、両拳を振り上げたビートエイプの背後に迫る。


「ヒナーー!」

「アキきゅん!」

「来るなアキくん! これは罠だ!」


 えっ?

 キンさんなにかっこつけてんの?


 と思った時には、俺の身体が浮いていた。

 いや、『跳んで』いた。


 ビートエイプが振り上げた両腕を横へ伸ばし、その場で大回転を始めたのだ。

 そのダブルラリアットとも言うべき攻撃を喰らったのだと理解した瞬間、全身に衝撃が走った。

 噴水塔にめり込む勢いで背中から激突したのである。


「がっはっ!」


 血液代わりなのか、赤紫のエフェクトが俺の口から吐き出される。

 アバターに内臓が存在するならば、きっと損傷してたであろうダメージをもらったのだ。


 うーん。

 無駄にリアル!


 なにがむごいって、こんな目にあってんのにHPが全損しなかったことだよ。

 ミリ単位のHPが残ったところで、どうしろってんだ。


 それよりもあのクソゴリラ。

 本当に罠を張ってやがった。

 ヒナをタゲったと見せかけて、最初から狙っていたのはミニゴリラを斬りまくった俺だったのだ。


 油断してたわー。



「おっおい! 幼女ちゃんがやられたぞ!」

「あのゴリラ許すまじ!」

「許すまじ!!」

「オレの幼女ちゃんを!」

「誰がお前のだバカ!」

「テメェらPKしてんじゃねーよ!」

「うおおおお! ツンデレ幼女さまああ! いま参りますぞぉぉ!」

「おまっ! 特攻する気か!?」

「くそっ! 幼女ちゃんからタゲを外せ!」

「行くぞぉおお!」




「アキちゃん無事!? すぐに回復するわ!」

「あ……さっきの司祭さん」

「ええ、いてもたってもいられなくて来ちゃった。今度は私があなたを助ける番ね。【ハイネスヒール】!」


 魔法をかけつつ、チロっと舌を出す司祭さん。

 なかなかお茶目だ。


「ありがとう、こちらこそ助かった、わ」


 すんでのところでロールプレイを思い出す俺。

 不思議そうに俺を見る司祭さん。


 気にしないでおくれ!

 まだ慣れてないんだよ……

 ともあれ、これで全快だー。

 俺のために頑張ってる野郎どもに助太刀してやらんとなぁ。


 おっと、その前に。


「ヒナ!」

「アキきゅん! 無事でよかったです!」

「ちょっと手伝ってくれないか?」

「はい?」


「頑張ってるあいつらにちょっと、な」

「?」


 怪訝そうなヒナに小声で説明しながら引っ張り出す。

 ある程度戦線に近付いて準備完了。


「じゃあ、行くぞヒナ」

「ほ、本当にやるんですか?」

「いいから、ほれ、やるぞ」

「わかりましたよ……」


 ロールプレイ全開!

 行くぜぇ!



「みんなーーーー! 頑張ってねーーーーー! お願いだよーーーーー!」

「みなさーーーーん! 頑張ってくださーーーーい! フレーーフレーー!」


 ドヨッ


 どよめくなよ。

 あ、こっちに気を取られて一人死んだ。


 とにかく、これで発動条件は満たした。




「頑張るみんなに、わたしたちからの応援を届けるね! いっくよーーー! 【大声援グランドエール】!!」




 片手と片足を上げてポーズを決め、パチンとウィンクする俺とヒナ。



 ウォォオオオオオォォォ!


 歓声と共にボワンとピンク色のエフェクトに覆われるプレイヤーたち。



「アキきゅん……顔が真っ赤ですよ」

「ヒナ……言っとくけどお前もだからな?」


 代償として恥辱にまみれた俺たちではあったが、未実装ジョブ【姫騎士】のスキル効果は掛け値なしだ。


 二人以上の女性(・・)プレイヤーが揃わねば発揮できないこのスキル【大声援】。

 その名の通り声援を送ることで、声の届く範囲にいるプレイヤーはバフを受けることができるのだ。


 その効果は、モンスターの攻撃による怯みモーションの無効化。

 そして戦意向上効果。

 これはクリティカル率が飛躍的に向上するものだ。

 簡単に言えばやる気アップである。


 更に、ガッツ状態を付与するのだが、これは大ダメージを受けて一撃全損したとしてもHPが1で踏みとどまると言う効果を持つ。

 言うなれば『死んでも戦え』だろうか。

 ある意味恐ろしい。



「ふおおおおおお!」

「ようじょちゃんだいしゅきぃぃぃぃ!」

「まどうしちゃんもかわいいよぉぉぉ!」

「ああん! ツンデレようじょしゃまぁぁぁ!」



 お、おい……

 大丈夫かこのスキル……

 プレイヤーたちが幼児化した気がするんだけど……?

 ってか、頭がイカれた?



 しかし、俺の心配を余所に、見た目も頭の中もピンク色に染まったプレイヤーたちは、ビートエイプに対して凄まじい猛攻を見せるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ