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第35話 ゴリライベント……?


 装備を整えて宿屋を飛び出し、モンスターの群れを追う俺たち。


 目抜き通りで露店を出していた商人たちは、そのほとんどが逃げ遅れて壊滅状態となっていた。

 しかし既にモンスターの姿はない。

 ただ、街中のあちこちから轟音と悲鳴、怒号が聞こえるだけだった。

 ちなみに死体の中にはなんでかNPCの姿がない。

 多分ちゃっかりと屋内に避難しているのだろう。

 重要なNPCに死なれたらゲームが進まなくなるもんな。


 さて、闇雲に走っても無駄手間になる確率が高い。

 俺は手近で死んでるヤツらから情報を仕入れることにした。


「ねぇ、あんた。モンスターはどっちに行ったの?」

「うおえっ!? よ、幼女……!? かわええ……」

「どっちなの!?」

「ツン幼女!? あ、ああ、中央噴水大広場のほうにガチ団の連中が引っ張って行ったよ。ただ、あそこには冒険者ギルドもあるから、死んでもヘタにリスポーンしないほうがいいぜ? 生き返った途端に死ぬ可能性が高いからよ。だから俺たちもこうして横たわったまま色々眺めてんのさ。ぐふふふ」


 死んでる癖に何故かニヤニヤしている商人の男。

 あっ!

 こいつ、俺のスカートの中を覗いてやがる!

 変態!!


 げしっと思い切り商人の顔を踏んづけてやった。

 乙女の秘されし部分を見ようとした報いだ。

 ……すんません。俺、乙女じゃなかったわ。


 死体に攻撃してもPK扱いにはならないので問題なかろう。

 減らせるHPもないわけだしな。

 だけど踏まれてもニヤニヤ笑っているところを見ると、ご褒美にしかなってないのかも……


 それよりまさかこいつ、ずっとこうやって通りすがる女性プレイヤーを覗いてんのか?

 だとしたら、ふてぇ野郎だ。

 あっ、コラ。

 ヒナを見るな!

 よーし。

 テメェがその気ならこっちにも考えがあるぞ。

 貴様の名前は覚えた。

 フフフ……後は運営に通報するだけよ……

 重たーいペナルティ地獄を存分に喰らうがいい。


 ま、情報をくれたことには一応感謝しとく。


「中央噴水大広場だってさ」

「なるほどー。あそこなら広いし、戦闘しやすそうですもんね」

「ふむ。念のため先に支援魔法をかけておこう」

「さんきゅーキンさん」


 死体から巻き起こる『幼女だ!』だの『可愛い!』、『抱きしめたい!』だのの声を無視して走る。

 しかしいくら不意打ちだったとは言えどんだけの人数が死んでるんだ。

 100や200じゃきかないぞ。

 これじゃ完全にテロじゃん。

 むっ、こいつも覗きか。

 みんな踏んどけ踏んどけ。


「うーん。やっぱり目立つんだなぁ、この幼女姿」

「アキくん。いっそのこと手を振って愛想を振りまいてみたらどうだい? 一躍人気者になれると思うよ」

「ダメです。私だけのアキきゅんじゃなくなっちゃいますもん!」

「だってよキンさん。愛する彼女がこう言ってるんでな」

「リア充爆発しろ! 滅べ!」


 おー、怖。


 噴水大広場が近付くにつれて、漏れ聞こえる喧騒が大きくなってきた。

 しまったなぁ、ニャルを連れて来れば潜伏スキル(ハイディング)でタゲられることなく様子見させることも出来たのに。

 あいつも悪目立ちするから宿屋で留守番させてんだよね。


 ぶっちゃけ、俺の持つ【姫騎士】や【奥義スキル】なんかよりも、『ユニークシナリオ【誘われし猫の岩屋戸】』のほうが遥かに情報としての価値は高いはず。

 原因不明で習得した未実装ジョブは、例えバレたとしても他のプレイヤーがどうこうできるものではない。

 しかし、ユニークシナリオは実装済みで、今現在でも挑戦可能なコンテンツである。

 おぼろげながらも発生条件が判明している以上、おいそれと明かすわけにはいかない。

 シナリオ中にとんでもないレアアイテムが手に入る可能性だってあるんだからな。

 そういうもんは独占しとくほうがなにかと有利だろ?

 そもそも俺もまだ途中にしちゃってるし、もし誰かに明かすならシナリオをしゃぶり尽くした後だね。



 UHOOOOOOOOOO



「行けっ! 行けーっ!」

「前衛に支援を回せー!」

「うおおおお!」

「弱点は氷結系だぞ!」

「対フォレストガンマ組は第三区画へ回れ! フォレストガンマとやりたいヤツら! 第三区画だぞ!」

「ぐああああ! ヒール! 誰かヒールを!」




「おー、やってるやってる」

「間に合ったみたいですね」

「これはひどい」


 広場はプレイヤーとモンスターによる大混戦となっていた。

 もはや悲鳴すらもどちらが上げたものかわからぬほど。


 この広場は、美麗な彫刻の施された塔のように大きい噴水を中心に、円状の作りとなっている。

 石畳でできた広場部分はかなりの大きさで、普段はNPCの営む食べ物や雑貨、生花などの露店で賑わいを見せていた。

 俺とヒナが何度も買い食いしたくらいに屋台の食べ物がやたらと美味いんだよなぁ。


 だが今周囲に見えるものは、そんな日常とはかけ離れた凄惨たる光景だった。

 転がるプレイヤーたちの死体。

 駆け寄って懸命に蘇生を試みる司祭。

 果敢に攻める騎士。

 モンスターの雄々しい吼え声。

 辺りには死のとばりが降りたかのようであった。


 ごほん。

 大袈裟な説明となったことをお詫びします。

 ペコリ。


 そんなことよりも注目すべきは、その噴水塔の上にいたのだ。


 UHOOOOOOOOOOOOOOOOOO


 空気を震わせるその雄叫び。

 毛むくじゃらの巨体。

 とてつもなく分厚い胸板。

 脚は短く腕が長い。



「って、ゴリラじゃん! しかも小せぇゴリラもいっぱいいるぞ! ゲリライベントならぬ『ゴリライベント』ってか!?」

「はっははははは、きみは上手いこと言うねぇ」

「アキきゅん、人目がありますよ」

「おっと、いけないいけない」


 小さく舌を出す俺。



「あれっ? あ、あなたはツンデレ幼女さまじゃありませんか! またお会いできるなんて感激です!」


 俺たちへ声をかけてきたのは一人の騎士だった。


「あんたはあの時の! ……ごめんね、誰だっけ?」


 ズコーとズッコケる騎士。

 昭和の人か。


「オレですよ! フォレストガンマ戦の時に……あ、その前に罵ってください!」

「!?」


 思い出した。

 罵られたがりの変態剣士だった人だ。

 へー、騎士になったのか。


「ああー! あの時の変態さん! あんた、相変わらずおバカなことを言ってるのね」

「ぐふぅっ! ご褒美ありがとうございます!」

「それで? 今はどんな感じなの?」

「はっ! ガチ団勢はどうやらフォレストガンマのドロップ狙いらしく、ここは後回しにされて第三区画のほうへ行ってしまいました! ここには中堅かそれ以下の者ばかりです!」


 まるで俺へ忠誠を誓った騎士のように片膝をついて報告する変態さん。

 飼いならした記憶なんてないんだが……


 彼はプレイヤーネームを『Show兵』と言うらしい。

 ……ショーヘイ……?

 まぁ、覚えなくてもいいか。



「ふんふん、それで? あのゴリラは強いの?」


「そりゃ勿論ですよ! あいつは『ビートエイプ』って名前なんですが、なんせエリア10のボスですから!」



 えぇぇ!?


 エリア10ってことは、あのラフレシア・プラチナムがいた樹海のボスかよ!?



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