第27話 幼女の放つ大 号 令
俺の檄(?)で一度は盛り返したプレイヤーたちも、じわじわと劣勢に立たされつつあった。
なにせこのフォレストガンマがタフで困る。
既に何本切り倒したのかも覚えちゃいないほど倒木で溢れかえった脚部。
俺と商人部隊による成果である。
自然破壊にならなきゃいいが、などと頓珍漢な思考に陥る俺。
だがそこはレイドボス。
そんなことには目もくれず、上半身のような巨木は、腕状の樹木を振り回し、群がる剣士たちを牽制している。
脚部の下からは無数の根っこと思われる物体がワシャワシャと忙しなく蠢き、戦線をいったん離脱したプレイヤーに追い打ちをかけるべく俺たちを乗せたまま移動を開始していた。
このままじゃジリ貧かもな。
「幼女ちゃん! 二人やられた!」
「剣士? 商人?」
「一人ずつ!」
「全損?」
「いや、大ダメージだがなんとか生きてる!」
「俺の……じゃないや、わたしの仲間にキンさんって侍祭がいるから、ヒールをもらってきて!(回復量は微妙だけど)」
「わかった!」
剣士の一人が俺の支持を受け、伝言を伝えるべく森からフィールドへ駆け下りていく。
って、なんで俺が指揮官役なんだよ。
そんくらい自分で考えろや。
とは思うが、やはり俺の金髪碧眼幼女姿は目立つのだろう。
もはやランドマーク的な意味合いを持ち始めていた。
剣士たちはやたらと俺を守りたがるし、商人たちは一撃で大木を断ち切る俺を見て士気を上げているのだ。
これって俺がやられた場合ヤバいことになるやつじゃん……
いやいや、ここはポジティブシンキングだ。
全体的な現状としては、まだそれほど負けちゃいない。
むしろよく頑張っていると思う。
これなら耐え忍べばいつかは勝てる。
そう信じて俺は大斧を振りかざすのみだ。
「ツンデレ幼女さま! 罵ってください! ……じゃなかった、右はもうすぐ伐採完了です!」
「そう! じゃあ、こっちが終わったらすぐ左に向かうから! みんなにもそう伝えて!」
「超了解! ……ご褒美の罵りは?」
「……このおバカ! アホなこと言ってないで早く行きなさい! グズ!」
「うっひょおおお! ありがとうございますありがとうございます!」
……だ、大丈夫かこいつ?
世の中には色んな性癖持ちがいるんだなぁ。
そしてすぐにあちこちから『伐採完了!』の声が上がった。
俺たちはすぐに集合し、ウッドゴーレムっぽい上半身を挟んだ左側の森へ駆け出す。
そこも8割方は伐採が終わっていた。
よーしよし、いいぞ!
ただ、プレイヤーが集中した分、フォレストガンマの注意も完全にこちらへ向いた。
巨木をそのまま利用したような腕が大きく振り回される。
同時に枝葉を伸ばしに伸ばして俺たちを襲った。
枝と風圧のダブル攻撃だ。
「ぐおおおお!」
「ふんばれぇぇぇ!」
「きゃあああ!」
悲鳴と共に数人が吹っ飛んでいくのを目撃した。
直接的な攻撃もそうだが、あれでは落下ダメージもかなり危惧される。
【OSO】のシステムでは、5メートル以内の落下であればシステム側が自動で受け身を取り、ダメージはないも同然なのだが、5メートル以上となると、プレイヤー側で受け身を取るなり、何らかの方法で落下を防がない限りはダメージが発生するのだ。
だが俺も他の心配をしている場合じゃない。
飛ばされた彼らの無事を祈りながら、ズバンズバンと手近の木々を伐採しまくる。
斬り倒すたびに、フォレストガンマが少しずつ怯んでいくのを足の裏で感じた。
ヤツの身じろぐ振動が伝わってくるのだ。
「これで、ラストぉぉぉ!」
最後の一本を断ち切り、完全なハゲ山と化した森へスチャッと着地した俺を待っていたのは────
「第二形態くるぞおおおおお!」
「えぇぇぇ!?」
何度か挑んだのであろうプレイヤーの、無情な一声であった。
まぁ、俺もこんなもんで終わるとは思っちゃいなかったけどさ。
へっへっへ。
そう来なくちゃなぁ!
メキメキメキメキッ
「幼女ちゃん! 森から降りたほうがいい!」
「そうなの?」
「ああ、ここは形が変わるからな! なんならオレが抱っこしてあげようか?」
「いいえ、結構です。一人で降りられるもん」
「そ、そうか」
残念そうな顔すんな変態。
その商人は周りのプレイヤーから『抜け駆けすんな!』とか『死ね!』とかストレートにボコられて可哀想な目に遭っていた。
やめて!
わたしのために争わないで!
とか言ってる場合じゃない。
俺も他の連中に交じってさっさと森を降りる。
背後では轟音が続き、振り返って見れば、数十メートルもあった森は形を変えて縮んでいくところだった。
そしてゴーレムっぽい上半身はそのままに、脚だけが左右に3本ずつ、節足動物のものへと変化したのである。
うわぁ、なにあれキモい!
蜘蛛!? 蟻!? 蟹!?
よくわからんがキモい!
しかも先程までとは打って変わり、シャカシャカと節足を動かしながら素早く迫ってくるアクティブさを発揮しているではないか。
おっかねぇぇ!
上半身の頭頂部までは目測で10メートルもありそうなヤツが近付いてくる様を見上げるのはなかなかに圧巻だ。
それでもプレイヤーたちは臆することなく向かって行く。
もう、プレイヤーと言うよりチャレンジャーだ。
俺も負けてられんぞ!
「ツンデレ幼女ちゃん! 足止めは俺たちがする! 幼女ちゃんは火力として胴体を!」
「はーい!」
「くっ……可愛い……」
「かわいいなぁ! ちくしょう!」
「お前ら仕事だぞ! 壁は前へ!」
剣士たちは大盾と斧に装備を変え、フォレストガンマの節足を止めるべく動き出した。
タンク役を買って出るだけあってVITに自信のある連中なのだろう。
左側の足を4名で止め、右側の節足を3人がガッチリと盾で抑えつける。
「すごい、本当に止めたぞ」
「幼女ちゃん! アタシたちについてきて!」
「うん!」
商人たちの後に続き、上半身へ肉迫する。
さぁ、ここからはガチンコ勝負だ。
「そぉい!」
「おらぁぁぁ!」
「はぁぁぁ!」
カーンカーンカーン
群がったプレイヤーたちの、斧による一斉攻撃が上半身を打ち付け始めた。
なんとも壮観な眺めである。
俺も負けじと太すぎる胴体部分へ大斧を撃ち込む。
さしものフォレストガンマもこれには焦りを覚えたらしく、節足は苛烈に動きまくり、剛腕による攻撃も激化していった。
「ぐはっ!」
「やべぇ! ポーションがもうねぇぞ!」
「いやぁぁ!」
あちらこちらから悲鳴が上がり始めた。
腕の振り回し。
突き刺し。
押し潰し。
節足による踏み付け。
蹴り飛ばし。
これらが間断なく俺たちへ襲い掛かる。
それでも斧を振るい続けた。
腕にある洞へ打ち込んだ攻撃はクリティカル。
鬼神滅砕斧が蒼く輝き、右腕を斬り飛ばした。
BOOOOOOOOOOO
絶叫を上げるフォレストガンマ。
とうとう大ダメージを与えたのだ。
しかし、レイドボスたるフォレストガンマは、体色を赤銅に変え、攻撃をさらに激化させた。
「第三形態だ! 気を付けろ! がああああああああ!」
叫んだと同時に剛腕によって地面へと叩きつけられる商人。
伏した商人はピクリとも動くことはなかった。
ああん!?
一撃で全損かよ!
「きゃあああ!」
「やべぇ!」
「くっそおおおお!」
胴体部分からいきなり飛び出した夥しいトゲに、みんなの悲鳴と絶叫が交錯する。
俺もなんとか躱すので精一杯だった。
「ダッ、ダメだ!」
「やられる!」
「もう持たないぞ!」
完全なる劣勢。
敗北必至の情勢。
あー、くそっ!
こんなところで使うはずじゃなかったんだけどなぁ。
だけど、仕方ないよな……
俺は覚悟を決めてウィンドウを操作した。
そして、深呼吸と共に詠唱を開始する。
「我!【姫騎士】アキの名に於いて号令す! 挫けし心、頽れし膝を奮い立たせ、今一度立ち上がれ! 不撓不屈、万夫不当の勇者たちよ! 我が意思に応えよ! 応えし者には戦女神の加護があると知れ!」
自動モーションが俺の右腕を高々と掲げ、その手に持つ大斧を煌めかせた。
「大号令! 【聖戦】!!」
俺の宣言と共に、この場にいる全てのプレイヤーの頭上に次々とシステムメッセージが浮かぶ。
【大号令発動!】
『身体超絶強化!』
『全ステータス値2倍効果!』
『被ダメージ50%カット!』
『SP消費量80%カット!』
『HP継続回復状態付与!』
俺も含めた効果範囲内のプレイヤーが淡い金色に輝いた。
付与効果の発現である。
「アンタたちーーー! しっかりしなさーーーーーーい!」
オオオオオオォォォォオオオオオ!!
俺が放ったダメ押しの激励に雄叫びを以て返すプレイヤー。
この大号令こそが、ユニークジョブ【姫騎士】に秘められたスキルである。
短い時間ではあるが、効果範囲内の全プレイヤーに凄まじい効力を齎すのだ。
でもこれ、俺のSPのほぼ全てを一気に消費しちゃうんだよね……
だから、ここぞ、と言う場面でしか使えないのが欠点だ。
「みなぎる……みなぎってきたぁぁ!」
「なんだこれすっげぇぇ!」
「力が溢れてくるわ!」
「これならいけるぜ!」
「がははは! 今なら負ける気がしねぇ!」
「かかれぇぇぇ!」
「おおおおお!」
「ツンデレ幼女ちゃん愛してるぅぅぅ!」
「アキ姫ちゃん最高ーー!」
最高峰のバフを受けたプレイヤーたちは一斉に覇気を取り戻した。
振るう武器の威力もすさまじく、フォレストガンマの巨体を一気に削ぎ取っていく。
節足を全て失い、両腕も無くなり、そして────
パキィィィイン
フォレストガンマの本体が粒子となって霧散していった。
【エリアキーパー3:フォレストガンマを撃破しました】
システムメッセージと同時に、俺の頭上には【MVP】の文字が浮かび上がったのである。
ここまでが第二部です。
お読みいただきありがとうございます!
 




