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第26話 強敵! レイドボス! 対するはツンデレ姫騎士!


「おー、丁度よく集まってるな」

「あれは集まっているというより、群がってるんじゃありません?」

「はっはっは。ヒナさんはユーモアのセンスがあるねぇ」


 俺たちは、エリア3の西端から、レベリングを兼ねてモンスターを蹴散らしつつ、首都アランテルへ続く橋へと戻ってきた。

 橋の向こうとは広く深い断崖で隔てられている。

 つまり、この橋を渡る以外に首都へ行く方法はないのだ。


 厳密に言えばあるんだろうけどな。

 例えば転移魔法とか。

 まぁ、そう言った便利なものは今の俺たちや、ここにたむろってるプレイヤーにはないってだけ。


 で、その橋を渡るには件のレイドボスを倒さねばならないわけだ。

 正確にはエリアキーパーと言うらしい。


 そのエリアキーパー名は『フォレストガンマ』。

 某映画みたいな名前だが、ガンマは単純にエリア3の3を表していると思われる。

 そういやボスとしても3番目か。


 やけに単純な名前だが、もしかしたら開発中のコードネームがそのまま採用されたパターンなのかもな。

 以前のゲームにもよくあった。

 ひどいのになると『001』とか、ただの数字だったりな。


 そんなことより、俺たちの目的はそのフォレストガンマを他のプレイヤーと協力して倒すことだ。

 ここのボスこそ明確に初心者と中級者を分かつ、文字通りの分水嶺となっている。

 ボスを倒し、門を抜けて橋を渡り、首都アランテルに到達できてようやく【OSO】中級者であると胸を張れるのだ。


 どぉーれ、やったりますかぁ。


 無駄に強キャラ感を醸し出しつつ、フォレストガンマへ挑戦するべく集合した初心者プレイヤーたちの元へ、のっしのっしと向かう。

 実際は、とてとてと猫を抱きかかえて歩く幼女なのだが、雰囲気と言うものは大事だろう。



「おわっ!?」

「なんだなんだ!?」

「嘘だろ!?」

「おい! 幼女だぞ!」

「……か、可愛い……」

「いやーん! なにこの子!? 猫抱いてる~!」

「この子の衣装すごくない!?」

「うおおおおおおお!」

「ちっちゃ~い! かわい~い~!」

「ハァハァハァハァハァハァハァ」


 あっと言う間に取り囲まれた俺。

 なんでか鼻息の異様に荒いヤツもいるし、正直ちょっと怖い。


 なるほど。

 女の子ってのは常にこういう恐怖を味わっているわけか……

 そりゃ男がキモがられるわけだよ……

 俺もリアルでは気を付けようっと。


「はいはーい。お触りは禁止ですよー」


 見かねたのか、割って入ってくれたヒナの背中に白い翼が見えた気がする。

 流石は俺の女神さまだぜ!

 女性プレイヤーの勢いに気圧されて日和ひよってるキンさんとは大違いだね!


「なんだ、保護者付きかよ」

「あーん、抱っこしたかったのにー」

「いやいや、オレたちで幼女を守ろうぜ!」

「おお!」

「勿論よ!」


 なぜか結束を固めるプレイヤーたち。

 それはいいのだが、この連中は本当に大丈夫なんだろうか。


 見た感じ、前衛に偏りすぎてない?

 剣士と商人ばっかりじゃねぇかよ。

 火力で押し通そうって作戦なのかな?

 ってことはレイドボスもゴリ押し系の攻撃をしてくるとか?


 などと頭を捻る俺の耳に絶叫が飛び込んできた。


「出たぞーっ!!」

「来やがったなフォレストガンマァァ!」

「今度こそ倒してやるわ!」


 リポップ時間になったのか、橋の大門前に、巨大な物体が湧いた。


 ッッ!?

 デケェ!!

 いやマジでデカい!


 まさにその名の通り、まるで森の体現化だ!

 森そのものが動いているかのようだ!

 いや、これはもう森の怒り!

 木々の一本一本が蠢き、怨嗟の声をあげているみたいじゃないか!


 落ち着け。


 まず、見た目は大雑把に言えばたぶん人型だ。

 でも脚はない。

 でも移動してる。

 うおお、自分でもなにを言ってるのかわかんねぇ。


 森状に広がった脚部(?)の中央から人型の上半身が生えている、とでも言えばいいのだろうか。

 そのぶん、上半身はまだわかりやすい。

 超太い大木で出来たゴーレムと思えないこともないからだ。

 なんとなく顔っぽい部分もあるしな。



「おっしゃあ! 伐採しまくったれやぁ!」

「うおおお!」

「行け行けぇ!」


 ドドドドと威勢よく駆け出すプレイヤーたち。

 彼らはきっと一度はボスとの戦闘を経験済みなのだと思われる。

 証拠に、皆が斧を振りかざしていた。

 なるほど、樹木相手なら斧は特効武器となる得るのだろう。


 俺のゲーム脳で考えると、樹木の弱点ってのは大抵炎だと思うんだがねぇ。


「ヒナ、試しに火属性の魔法を撃ってみてくれよ」

「さすがアキきゅん。私も同じことを考えていたところです。行きますよー【ファイアボルト】!」

「あっ、ヒナさんだめニャル!」


 ニャルの制止よりも早くヒナの魔法は発動した。

 10発の火炎弾が猛然とフォレストガンマの顔……のような場所に命中する。


 しかし、無情にもボスの頭上に【火炎無効】の文字が浮かんだ。


「えぇー!? 理不尽です! SPの無駄遣いじゃないですか!」

「こりゃひでぇ。炎はちゃんと対策済みとか、いちいちいやらしいな運営は」

「アキくん、ヒナさん。火炎が効かないとなると、他の属性魔法でもたいしたダメージは与えられないと思ったほうがいいだろうね」

「だな。どうりであいつらの中に魔法職がいねぇわけだよ」


 カーンカーンといい音を立てて絶賛伐採中のプレイヤー諸氏を見やる。

 『将を射んとする者はまず馬を射よ作戦』とでも言えばいいのか、彼らはまず脚部に生い茂る木々から攻める気のようだ。


 随分遠回りな気もするが、それはなかなかの成果をあげつつあり、フォレストガンマも明らかに嫌がっている。

 だが、ボスとてそれを黙って見ているわけがない。

 蠢く木々は枝葉を伸ばし、ビターンピターンとプレイヤーたちをしばきはじめた。


 うわ、痛そう。

 殴られたヤツら吹っ飛んでるぞ。

 大丈夫かあれ?

 だけど、面白そうでもあるな。


 なんせ今の俺が持つ武器は、あの鬼王がドロップした大斧(・・)だ。

 つまり、俺は初めから特攻武器を所持してるってこった。


「ヒナ、ニャルを頼む。俺もあいつをぶった切ってくらぁ!」

「わかりました! 気を付けてくださいね!」

「キンさんはどうする?」

「僕の武器は鈍器だからねぇ。あいつにはあんまり効果も無そうだし、支援と回復に専念するよ」

「そっか。うん、わかった。そんじゃ!」

「アキきゅん! ロールプレイを忘れちゃダメですよ!」

「あいよ!」


 俺は内心ウッキウキで走り出した。

 肩にはインベントリから取り出したバカみたいにデカい斧を担いで。

 後方から飛んできたキンさんからの支援魔法で、速度と筋力が上がったことがログに表示される。


 サンキュー、キンさん。

 やっぱ強敵と戦う時ってのは、最高のカタルシスを感じるよな!

 せーーーのっ!


 カァァァン


 とってもいい音を立てて大樹の一本に深々と大斧がめりこむ。

 俺の一撃は幹の半ば以上まで達し、大木はメキメキとくずおれるように倒れていった。


 はっはー!

 見たか俺の力!

 ……まぁユニークウェポンたるこの【鬼神滅砕斧オーガベイン】が強いってだけなんだけど……


 だが、プレイヤーたちからは歓声があがった。

 幼女が強力な一撃を放ったことで彼らのテンションもアップしたのだろう。


「ちっちゃな子に負けんなテメェら!」

「おお!」

「私たちより幼い子にばかりやらせてんじゃないわよ!」

「はいよ!」

「いくわよー!」

「うおりゃあああ!」


 奮起したプレイヤーたちが勢いを取り戻して斧を振り回し始めた。

 だが、あれでは先程までとなんら変わらない。

 枝に打ち払われ続けられたら、いずれは壊滅してしまうだろう。


 仕方ねぇ。

 こちらから指示を出すか……

 でもこんな幼女の言うことを聞いてくれるもんかな?

 まぁ、言うだけ言ってみるか。



「剣士は剣を持っているか!?」

「!?」

「んん!?」

「幼女、ちゃん……?」


 いかん。

 めっちゃ怪訝そうにされた。

 おっと、ロールプレイロールプレイ。


「剣士たちは剣を持っているかって聞いてるのよ!」


「お、おう!」

「勿論持ってるぜ!」


 そいつぁ重畳。


「だったら剣士は襲ってくる枝葉を打ち払って商人を守るの! 斧を持った商人たちは伐採に専念しなさい! そのくらいの戦術は当たり前でしょ!?」


「おおおお!」

「幼女に叱られたぞ!?」

「な、なんだこの気持ち……!!」

「ツン幼女だ!」


 ツンじゃねぇよ!?

 あーでも、これでは印象悪いかな?



「別にアンタたちが倒されちゃったら可哀想だとか、そんなんじゃないんだからね!」



「!!!」

「ツンデレだ……!」

「ツンデレ幼女さまだ!」

「うおおおお! 幼女ちゃんのために戦うぞぉぉぉ!」

「気合が入ってきたわよぉぉ!」

「いっけぇぇえ! 幼女ちゃんのためにぃぃ!!」




 どうやら俺は発言の選択肢を間違えてしまったらしい。




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