第23話 姉、襲来
「うーわー……」
「いやはやこれは……」
「…………」
「と、とってもお似合いですニャル!」
呆ける面々。
押し黙る俺。
そんな中、ニャルのお世辞だけが広い洞窟に虚しく響く。
それも仕方あるまい。
9歳か10歳くらいの金髪碧眼幼女が、自身の身長の二倍はあろうかと言う大斧を軽々と担いでいるこの絵面ときたら。
しかも片手で。
しかも大重量を感じさせないほど余裕の表情で。
俺とて傍からこの光景を目撃したら唖然とするか笑ってしまうほかないだろう。
「でも、ちっちゃな子が大きな武器を振り回すのって、ロマンですよね! あ、アキきゅん、一枚撮りますんで動かないでください!」
「撮るの!? ま、まぁ、ヒナならいいか」
一枚どころかバシャバシャとスクリーンショットのシャッターを切りまくるヒナ。
しまいにはグルングルンと俺の周囲を旋回しながら撮りまくっている。
滑らかな動きすぎてキモいぞ。
まぁ、ヒナはこう見えてその辺りはキチッとしてるからな。
写真の流出なんて心配はないと思うけど。
「アキきゅん、斧を構えてくださーい。あーいいですねー可愛いですよー。じゃあ次はもっと足を開いてみましょうかー、うんうん、とってもセクシーですよー! じゃあ次はちょっとスカートめくっちゃってみますー?」
「こんな感じー? ……って、なにやらすんだコラ!」
「ふへへー、冗談ですよー」
ちっとも冗談に聞こえないから恐ろしい。
変態カメラマンのおっさんみたいだぞヒナ。
おいおい、そこのキンさん!
鼻の下伸ばすな変態!
幼女のなんて見てどうすんだ変態!
黙ってると思ったらガン見かよ変態!
あれぇ?
なんでだろ。
たかがアバターのはずなのに、なんでか見られてると思うとすっげぇ恥ずかしいんですけど!
やだ!
アタシ目覚めちゃったの!?
……んなわけねぇけど。
「ま、魂のギターもロストしちまったし、当面大斧で凌ぐしかねぇよなぁ」
「首都なら武器も色々あるんじゃないです?」
「いやぁ、この大斧って一応ユニークウェポンだからさ、これを超えるとなると店売りじゃ厳しいかもな」
「そうでもないかもしれないよ」
格好をつけ、顎に手を当てて言うキンさん。
そんなことをしてもロリコンのレッテルは剥がれない。
剥がす気もない。
「どう言うことです?」
「首都はこの大陸でもっともプレイヤーが集中している場所だからね」
「あー、わかっ」
「そう、プレイヤーがゲットした武具も売りに出されているんだよ」
俺のセリフに被せんなよ栗毛サングラスの変態。
そんなんだから彼女ができやしないん────
ゴゴゴゴゴゴゴ
「なっ、なんだ!? まだ敵がいるのか!?」
「えぇー!? SP全然回復してませんよ!」
「僕もすっからかんだ!」
「ご主人さま! 岩屋戸を見てくださいニャル!」
ニャルが前脚で示した社の中央部。
そこにあった大岩の注連縄が外れ、岩自体が右へとスライドしていく。
鳴動はそれの音らしい。
隙間からは目もくらむ眩き光が溢れて。
「冒険者たちよ。よくぞ鬼王を倒し、わたくしをお救いくださいました」
エコーの効いた美しい声が響く。
ちょっと効きすぎかも。
耳が痛い。
「豊猫玉姫命さまニャル!」
ニャルが俺の肩に乗って飛び跳ねながら叫んだ。
えぇ~?
姫はどこにいるんだ?
眩しすぎて姿が見えないよ?
「これで天猫津国にも光が戻ることでしょう。あなたがたには深く感謝いたします」
やべぇ。
勝手に喋くるタイプのNPCか?
「姫さま! ニャルはご主人様たちと一緒に行きますニャル!」
「そなたは『ニャル』と言うお名前をいただいたのですか? とても素敵なことですね。冒険者……いえ、英雄の皆さま。ニャルのことをよろしくお願いいたします」
不思議なことに、声だけしか聞こえぬのだが、その主は深々と頭を下げているのを感じた。
「いえ、こちらこそニャルには助けられましたから。責任をもって預からせていただきます」
「なんと謙虚で清廉潔白なお子でしょう……まだそのような幼子だと言うのに」
姫の言葉は後ろの二人を大いに笑わせたようだ。
うるせーうるせー。
幼女になったのは俺のせいじゃないやい。
全部運営が悪いんだい。
「なにかお困りごとがあれば、天猫津国へおいでくださいませ。あなたがたには常に門扉が開かれておりますゆえ。ニャル、英雄のかたがたにくれぐれも忠義を尽くすのですよ」
「はいニャル!」
「では、これにて」
バシューンと輝きが真上へ収束し、天井をも貫いていく。
『ユニークシナリオ:【誘われし猫の岩屋戸】をクリアしました』
ふぅー。
これでクリアか。
思ったよりもシンプルなシナリオだったし、もしかしたら続きがあるのかもな。
猫姫も国に来いと言ってたもん。
「おっしゃ、詮索はいったんおいといて。取り敢えず地上に戻ろうか」
「そろそろいい時間ですもんね」
「おーなかが減ったよ~」
小声でアニメの歌を口ずさんでるキンさんに思わず笑ってしまった。
帰りの先導もニャルが務め、すっかり夜となった地上フィールドへ戻ってきた俺たちは、全員でログアウトした。
メシ、風呂、睡眠をきちんととらねば楽しくプレイできないからだ。
フッと目を覚ませばそこは薄暗い俺の部屋。
棚にはギッシリとゲーム機やゲームソフトが並べられている。
後はベッドがあり、机と椅子とディスプレイがあり、そして姉がいた。
姉ェ!?
「も~、秋乃くん。ご飯の時間はとっくにすぎてるよ~! めっ!」
姉ェェェ!




