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第22話 奥義 発動


 笑いながら突進する俺に、対峙していたキンさんと鬼王までもがちょっと引いてる。


 なんでだよ!?


 いやまぁ、幼女が長い金髪を振り乱しながら薄笑いを浮かべてギターを振りかぶってる姿はちょっとしたホラーかもしれないけどさ。

 楽しいんだから仕方なかろう。


 キンさんが離れ、俺が鬼王の前へ出る。

 鬼が攻撃を繰り出すタイミングでヒナの魔法が炸裂。


 ナイスアシスト!


 威力が大幅に削がれた斧の打ち下ろしをパリィでいなし、返す刀でヤツの腕を狙った。

 しかし、敵もさるもの。

 あの巨大な斧を素早く戻して受けやがった。

 そのまま武器同士が二合、三合。

 お互いに弾きモーションが入るも、更に打ち付け四合、五合。



「お、おお……アキくんはすごいな……あいつとガチで打ち合ってる……」

「アキきゅんかっこいい……」

「ご主人さま強いニャル~!」


 ヒナとニャルの陶酔した顔と、キンさんの辟易した様子が視界の隅に入る。

 はっはっは!

 見たか!

 この必死な様を!

 紙一重すぎてマジ怖ぇよ!

 このオーガ強すぎる!


「いかん。押されはじめたようだね。加勢する!」

「私もやります! 世界にあまねく満ちしマナよ……」


 ゴァァアアアア!


「ヒナ! キンさん! 逃げろ!」


 俺の警告は間に合わなかった。

 鬼王の放った全身全霊の打撃は、一直線に地面を割り、衝撃波が二人と一匹を襲ったのだ。

 なんつー技を出しやがるんだこの野郎。


「きゃあああ!」

「ぐはぁぁ!」

「ニャニャニャー!」


 吹き飛んだ二人のHPゲージが一気に減っていく。

 やべぇ!

 死なないでくれよ!


 俺の願いが通じたのか、かろうじて、本当にかろうじて全損しなかった。

 ニャルも動いているところを見るとどうにか生き延びたらしい。

 距離があったお陰かもな。


 鬼王はとどめを刺すべく、ヒナたちのほうへ巨大な足を踏み出した。

 そうはさせじと軸足を狙ってギターを振るう。


 クリティカル!

 ギターは脛に命中し、鬼王は大きくバランスを崩した。


 うははは。

 弁慶の泣き所はオーガも同じってかぁ?

 小さいってのも時には便利だね。

 よっしゃ、もう一撃!


 はい、人間欲張ってはいけませんと言う好例がこちら。


「ごはっ!」


 倒れ際に振り回された大斧が運悪く俺に激突したのだ。

 一応、斧と身体の間にギターを入れて受けたものの、鬼王の膂力にとってはなんの障害物にもなっていなかったようだ。


 減りゆくHPゲージを見つめながら、最後の一本となったポーションを寝転がったまま飲み干す。

 わずかに回復するも、ジリ貧と言わざるを得ない状況に陥った。


 強い。

 心底思う。


 勝てない。

 現状においては真理だと思う。


 ならどうする?

 はっはっはっは。

 くたばるまでやるだけだよなぁ!


 ガァァァ


「どうした鬼野郎。俺はまだ立ってんぞ。テメェはいつまで寝転がってやがる」


 たぶんに強がりだ。

 打てる手なんかない。

 それでも俺はギターを構える。

 ゲームに絶望なんてしない。

 ただ楽しむだけだ。


 ゲーマー魂ってのを見せてやるぜ!




『ヒロイックゲージフルチャージ』




 突然システムメッセージが視界に流れた。

 そして小さなウィンドウが眼前に展開し、なにやら文を表示している。


 なんだこりゃ?

 ……読めってか?

 面白れぇ。



「響け響け槌音よ! 叩け叩け鉄塊を! 屠れ屠れ我が敵を! 全てを砕きし鉄槌となりてその威を示せ!」



 読み上げると共に、俺の身体は自動でモーションを取っていく。

 ビュンとギターを振って腰を落とし、低く低く構えた。

 身体中に得体のしれない力が満ちる。

 ビキビキと音を立てて筋肉が収縮した。



「戦槌奥義! 【烈破轟連弾ブラントウェポンズ・ラッシュ】!!」



 詠唱が終わった途端、カッと俺の身体は黄金の輝きを発し、しなやかな四足獣のように飛び出した。

 一瞬でMAXスピードに到達。

 鬼王へ肉迫する。


 当然鬼王は迎撃すべく、ちっちゃな幼女の俺へ何の迷いもなく大斧を振り下ろした。

 鬼畜生め!

 だが俺は現在、絶賛自動モーション中だ!


 皮一枚で斧を躱し、俺は凄まじい速度でその名に相応しい乱打を見舞った。

 連打に次ぐ連打!


 鬼が苦し紛れに斧をかざせばその腕を打ち、俺に蹴りを入れようとするならばその足を打つ。

 鬼王の行動を全て強制的(・・・)打ち払い(キャンセルさせ)ながら連打は続いた。

 顔も胴も手も足も、ギターの命中した部分が見る間に腫れ上がっていく。


 う、うわぁ、気の毒ぅ。


 奥義スキルはとどめとばかりに俺の身体を跳躍させ、眩い輝きを放つギターを鬼王の眉間に叩きつけた。

 そのポーズのまましばし全ての空間も時間も凍り付いたように硬直し────


 グガァァァアアァァァ……


 明らかな断末魔を洞窟中に響かせて鬼王は膝から崩れ落ちた。

 そして俺は、それを見届けた後、シタッと片膝をついて着地したのである。


 黄金の光は色を失っていくが、俺の頬は真っ赤に色づいた。

 普通に恥ずかしかったのだ。


 だってよぉ、中二病満載じゃん……

 いや、嫌いじゃないんだけどさぁ。

 これ人前でやるの、こっぱずかしすぎない?

 コンシューマーゲームの一人プレイならともかく、MMOではかなりきっついぞ。



「ワシは姫と仲良くなりたかっただけなのに……ゴハァッ!」


 ちょっと待てぇぇ!

 あんた喋れたのかよ!?

 だったら話し合いとかもあっただろ!?


 ドシャァッと粒子の山となり、それ以上は何も言わず消え去っていく鬼王。

 なんだったんだこいつは……


 バキッ


 同時に俺の右手に握られたギターのネックが折れた。

 奥義の威力に耐えられなかったものか、こちらも粒子と化して消えていく。

 完全なロストだ。


 ロッカーよ。

 お前の魂はしかと受け継いだ。

 ギターは返すぜ。

 あっちで仲良く演奏してくんな。

 アデュー。


「アデューじゃないですよアキきゅん! すっごくナイスプレイでした!」

「俺の心を読んだの!?」

「二本の指を額にかざしてたらだいたい『アデュー』でしょ!」

「うわぁ! 無意識だった!」

「だけど、とってもかっこ可愛かったですー!」

「ご主人さま最高ニャル~!」


 駆け寄ってきたヒナとニャルに思い切り抱きしめられる。

 ヒナの力でも軽々と持ち上げられてしまったのは業腹だが、この色々と柔らかい部分まで肉体が……いや、敢えて言おう、『女体』が再現されてるのは非常にまずいのではなかろうか。

 うん、まずくないな。

 まずくない、まずくない……うっひょー!


「アキくん、ドロップ品を拾いたまえ。きみがファーストアタックを決めたから僕じゃ拾えないよ」


 おっと。

 そうだった。

 どれどれ。

 戦いの後のお楽しみっつったらドロップアイテムだよなー。



「おー、色々出たなぁ。あいつが身に着けてた宝飾品かな?」


 俺は片っ端からインベントリへアイテムをぶち込んでいく。

 たぶんこれがクエスト報酬代わりになってんだろうな。

 へっへっへ。

 懐も潤っちゃうね!


「アキきゅん、これどうします?」

「ぶっ!」


 ヒナの指差すソレを見て思わず噴き出す俺。

 現実リアルなら鼻水まみれになってたかもしれない。


 なんせ、鬼王の持ってたあの巨大な大斧がそのまま残っていたのだから。


「どうするったって、どうすんだこれ?」

「言ってることがめちゃくちゃだよアキくん。取り敢えず装備はできそうかい?」

「装備!? この2メートルはありそうな斧を!? こんな幼女が!?」


 全くキンさんも無茶振りするなぁ。

 こんなデケェのが持ち上がるはずも……あれ?

 持てた。

 うわぁ!

 装備もできちゃった!



『ユニークウェポン:【鬼神滅砕斧オーガベイン】1個獲得』



 鬼王オーガキングの持ってた武器が、鬼をブチ殺す斧って名前なの、最高にシュールじゃない……?



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