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第20話 なんにもしてないのにテイムできた


「お初にお目にかかりますニャル。あっ、正確には二度目ですニャル」


 ニャルニャル言ってる青猫をポカンとした顔で眺める俺たち。

 ま、まぁゲームによってはこう言うイベントも結構あるが、毛並みとか感触とかがリアル極まった猫にVRでやられるとすっげぇ違和感あるのな。


 とは言え、ユニークシナリオに関連するキャラ、つまりNPCなんだろうし、無視するわけにもいくまい。


「よろしく。俺はアキだ」

「私はヒナです」

「僕はKINTKだよ」


 キンさん!?

 なんて!?

 なんて発音したの今!?

 くそぉ、油断して聞き逃したぁ!


「ニャルほど。アキさま、ヒナさん、栗毛サングラスの人、ですニャルね」

「ぼふぅっ!」

「ぷすー!」

「栗毛サングラス……まぁそれでいいけれども」


 不意打ちすぎる青猫の言葉に、俺とヒナは噴き出すのを全く我慢できなかった。


 栗毛サングラスの人って……ぷっぷぷぷぷ。

 猫もキンさんの名前読めなかったんだな……

 やべぇ、腹痛ぇ。


 ……ん?

 なんで俺だけ『さま』付けなんだ?

 パーティーリーダーだから?



「えーと、猫さん。呼びにくいな、猫さんは名前なんて言うんだ?」

「名前ですかニャル? うーん、私には特に無いですニャル」

「ないの!?」


 吾輩は猫みたいに言われてもなぁ。

 NPCだから必要ないのかもしれんが、それはそれで不便だろうに。

 このゲームの運営はホント凝ってるんだかいい加減なんだかよくわからんよな。


「じゃあ、勝手に『ニャル』って呼ぶけどいいか?」

「! 私にお名前を授けていただけるのですかニャル!?」

「あ、あぁ、便宜上だけど……」

「とっても嬉しいですニャル! 今からアキさまがニャルのご主人さまニャル~!」


 抱いたままの猫が万歳した途端。



『ユニークモンスター:【ニャル】のテイムに成功しました』



 淡々としたログが視界に流れた。


「えぇぇぇ!? こんなのでテイムできんの!?」

「あはは……驚きましたね」

「僕も驚いたよ、運営のテキトーさにね……」

「しかも俺がご主人様って……」

「どっちかと言えば名付け親ですよね」

「はっはっは、うまいことを言うねヒナさん」


 カンラカンラとのん気に笑ってる場合か栗毛グラサンの人。

 俺の気分は『捨て猫を拾ったはいいけど、これからどうしよう』って感じなんだぞ。


「ハッ!? そうだニャル! 皆様にお願いしたいことがあるんですニャル!」


 急にもがきだすニャル。

 おっとぉ?

 ようやくクエストが進行したか?


 ニャルはトトトと俺の身体を駆け上がると、肩に四肢を乗せた。

 それにすかさず反応したのはヒナだ。


「わぁ! アキきゅんがナウ〇カみたいです! いいなぁー!」

「こらヒナ、固有名詞はいかんぞ。せめて『風の谷の少女』と言うべきだろ」

「いやいや、そこは『姫ねえさま』じゃないかい?」

「それだ!」

「それです!」


 いや待った。

 アホ話をしてる場合じゃない。

 ニャルが牙を剥き出しにしてキンさんを威嚇してる。


「そんで、お願いってのはなんなんだ?」

「はいですニャル! 我々の姫さまが大変なんですニャル!」

「姫さま……ですか?」

「じゃあ、すぐに案内してくれたまえニャルくん」

「!? ニャルは女の子ですニャル! 失礼ニャル!」

「えぇ!? こ、これはすまなかったねニャルさん」


 ニャルの猛抗議にペコペコ頭を下げるキンさん。

 人間としての尊厳を容易に捨て去るとは。

 侮れない男だ。

 俺もロールプレイに徹するべきか……

 ……無理だ……幼女にはなりきれないよ……


 しかし、姫さま、ねぇ。

 今日は随分と姫に縁があるな。

 俺のジョブが【姫騎士】だし、さっきも『姫ねえさま』の話題なんて出たもんなぁ。

 ところで、まさかこの謎ジョブもクエスト発生の条件になってたりしないよね……?


 それだとこの情報はさして価値がなくなっちまう。

 だってさ、現状で【姫騎士】なんてジョブを持ってるのはたぶん俺しかいねーじゃん?

 ってことは、俺以外に条件を満たせるプレイヤーがいないわけだ。

 発生させることすらできないクエスト情報に金を出すようなプレイヤーは少ないと思うんだよね。

 いたとしても買いたたかれそう。


 まぁいいか。

 見せびらかすくらいはできるだろ。


 ゲーマーなんてもんは自己顕示欲の塊みてぇなもんだ。

 誰よりも強くなりたい。

 誰よりも早くクリアしたい。

 誰も持ってないアイテムを手に入れたい。

 そんな連中がごまんといる。


 ま、俺もヒナもその中の一人なんだけどな。

 競争心や闘争心がないとゲーム内ですら大成できない。

 ゲームもまともにできないヤツが社会に出てやって行けるはずがあろうか。

 いや無い!

 ……うん。どうでもいいか。



 俺たちを先導するように先を行くニャルの足取りに迷いはない。

 いくつもある支道には目もくれず進んでいく。


「やべ、もうここから帰れって言われても道がわかんねぇな」

「ふっふっふ、甘いですよアキきゅん。私の特技は『脳内マッピング』ですから!」

「うっ、そう言えばそんな特技あったな……あのクッソ複雑な3DRPGでも猛威を発揮してたもんな」

「ふふーん!」

「偉い偉い。頼りにしてるぞヒナ」

「えへへー」

「……悔しくなんてない……悔しくなんてない……」


 怨念にも似た呟きが最後尾から聞こえるが、ここはそっとしておこう。



「なぁ、ニャル。姫が大変ってのはどういうことなんだ?」

「あ、私も気になってました」


 歩きながらこちらへ首だけひねって向け、少し逡巡した表情になるニャル。

 うーむ。

 NPCのAIが高度すぎて怖くなるな。

 人間となんら変わらんぞ。


「私たちの国、『天猫津国アマノネコツクニ』では、かつて天変地異がありましたニャル」


 えっ?

 なんて?

 いきなりパワーワードが出てきたけど。

 天猫津国……猫天国ってこと?


「そんな世を憂いた『豊猫玉姫命トヨネコノタマヒメノミコト』は国を救うため岩屋戸へ篭り、長い祈祷に入られたのですニャル」


 うわー。

 なんか似たような話を見たことあるー。


「これって日本神話に似てません?」

「うむ。僕もそう思った」

「ほれ、【OSO】スターターキットのペラい説明書に書いてあっただろ。『北欧神話だけではなく、様々な神話をベースにした』ってさ」

「よく覚えてますねアキきゅん。私、説明書は困ってから読むタイプでして」


 ヒナよ、お前もか。


「そもそも説明書なんて入ってたかい?」


 キンさん、あんたは論外だ。



「祈りは神々へ届き、天猫津国アマノネコツクニには平穏が訪れましたニャル……しかし……豊猫玉姫命トヨネコノタマヒメノミコトは今も岩屋戸に囚われたままなのですニャル……国は再び悲しみに満ち、暗雲に見舞われてしまったのでニャル」


「そりゃまたどうして?」


「姫を狙う者が岩屋戸の前に居座っているからなんですニャル……」



 うーわー。

 ボス戦不可避だぁ。



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