第19話 ユニークシナリオ開始
俺たちは今、例の岩戸を抜け、その先に伸びた洞窟を進んでいる。
構造的には自然洞窟と言うよりも手掘りに近いと思う。
何故なら、壁面がそれなりに整っているからだ。
つまり、何者かが何かの目的のために掘り上げたものだろうと、俺たちは見解した。
その見解に拍車をかけたのが、いくつも穿たれた横道の存在である。
見かけるたびに目印を残して入ってみるも、悉くが行き止まりだった。
支道はどれもが上へ向かったり、下へ向かったり、曲がりくねっていたりと統一性がない。
宝箱のひとつも置いてあるならばモチベーションも上がると言うものだが、なにひとつないのは精神的に徒労感が増すばかりだ。
小一時間も歩き回った頃、なんの成果も見いだせない俺は正直言って飽きかけていた。
せめてモンスターでも出ればなぁ。
いや、やっぱりいいや。
よく考えたら推奨レベル80以上の敵なんてこっちが即死するだけだし。
先頭の俺が振り返ると、真後ろにピタリとヒナが追随し、殿をキンさんがキョロキョロと警戒の目を辺りに向けながら歩いていた。
「ひぃ!? 今、なにか聞こえませんでした!?」
メキメキ
いてててて!
ヒナが思い切り俺の頭を締め上げた。
身長差からして、丁度いい位置に俺の頭があるからだろう。
さっきから何度目だこれ。
ちょっとした物音でいちいちビビるのはやめてくれよ。
ヒナの苦手なモノで不動のナンバーワンはホラーゲームだ。
それも、心霊系を最も苦手としている。
お化けが怖いなんて、全く俺のヒナは可愛いよなぁ。
あっ、違うの、ノロケじゃないの、拳を振り上げるのはやめて。
一般論、『俺の』って言っちゃったけどこれは一般論の話だから。
ヒナはその癖、不思議なことにゾンビ系だのスプラッタ系だのは平気な顔して殴り倒すんだよね。
理由を尋ねてみたところ、『物理攻撃で倒せるなら全然怖くないです』などとバイオレンス溢れるお言葉をいただいた。
確かにゾンビゲームだとチェーンソーを嬉々として振り回しながら無辜(?)のゾンビをぶった切り、銃器を乱射して蜂の巣にしまくってるもんな。
しまいには嬉しそうにヘリからミサイルをぶっ放してゾンビを壊滅させる危ない女の子だ。
そもそも、そんなに幽霊が怖いならゲームでも神職を選べばいいと思うのだが……
女の子の心理とは、いつまで経っても男には謎である。
チリーン
「ヒィィッ!?」
どこからか響く鈴の音に、ヒナの喉から引きつった悲鳴が漏れる。
「今のは僕にも聞こえたね」
「ああ、俺もだ」
「なんまんだぶなんまんだぶなんまんだぶなんまんだぶ……」
キンさんの声に頷く俺。
ヒナは両手をすり合わせて必死に拝んでる。
お婆ちゃんか。
とは言え、この洞窟に入って以来、初めての変化だ。
単調な行軍に飽き飽きしていたのもあって、迷わず音の方向へ歩く。
チリーン
鈴の音も、まるで俺たちを誘導するように何度か鳴った。
「ん?」
「なんですか!? なんですか!?」
立ち止まった俺の首にヒナが慌ててしがみつく。
「あれって、猫じゃね?」
「いやーっ! ……へ? 猫?」
「ふむ、確かに小型の四足獣のようだね」
「あいつ……青いな」
「前にエンカウントした子ですか?」
「そうかもしれないよ。アキくんの言った通り、一連のイベントなら」
「ニャ~ルゥ」
こちらをジッと見ていた猫が一声鳴いた。
ちょっと変わった鳴き声で。
「よーしよしよしよしよし、こっちへこい猫」
「ダメですよそんな呼び方。それ、ムツ〇ロウさんじゃないですか」
「なぜバレたし」
「今のアキきゅんは女の子なんですから、もっと可愛らしく呼ぶべきです」
「えぇ~、じゃあお前がやれよ」
「いいんですかぁ? アキきゅんが女の子としての自信なくしちゃいますよ?」
「そんなもんいらんわ!」
ヒナは自信たっぷりに前へ出ると、その場にしゃがんで5メートルほど先の猫に手を差し出す。
「チッチッチッチ、猫ちゃ~んこっちですよ~」
しかし青猫は見向きもしない!
それでも粘るヒナ!
大欠伸の猫!
数分に渡る激闘は猫に軍配が上がった!
「ガーン……」
「ま、ヒナのビッグマウスは大体そんな感じだよなぁ」
俺は笑いをこらえながら、しゃがんだまま落ち込むヒナの肩をポンと叩いた。
「じゃあアキきゅんが捕まえてみてくださいよ~」
「仕方ねぇな、俺の本気を見せてやるぜ」
俺もヒナのようにしゃがみ、全力の笑顔で猫に両手を伸ばす。
「ほーら、こいこい、怖くねぇぞ~?」
ツーンとそっぽを向く猫。
可愛げのねぇ野郎だ。
「ほら、全然ダメじゃないですか。容姿と話し方がチグハグなんですよ」
「くっ、女子力が足りないと言うのか……って、んなわけあるかっ」
だが、ロールプレイに徹すると言うのは一理あるかもしれない。
俺は咳払いをしてから、まさしく猫なで声を出した。
「ね、猫ちゃ~ん、おいでおいで~~」
「ニャルゥ~」
チリンチリンと鈴を鳴らしながらすぐさま俺の前へ駆け寄ってくる青猫。
俺はそっと猫の腋に手を差し入れて抱き上げた。
勿論俺の顔は。
「ドヤあああああああ! 獲ったどぉぉ!」
「うわぁ、すっごい顔」
「アキくん、女の子がしていい顔じゃないよ」
どんなん!?
ってか女の子じゃねーし!
「それはそれとして……」
ヒナが猫を抱いた俺の足から頭まで舐め回すような視線で眺める。
「あぁぁ~、猫を抱っこする小さな子って絵になりますよねぇ~!」
「ぐほぁ!」
「ニャルッ!?」
「うむ。最高だね。猫のだらんとした長い胴体もたまらないね」
意味不明の意気投合をするヒナとキンさん。
第三者目線ならきっと俺も同意したんだろうなぁ。
それよりもタックルの如く抱き着くのはやめてくれよヒナ。
しかも勢いが霊長類最強の人くらいあったぞ。
俺も猫も潰れかかったわ。
「しかし、なんでまたこんなところに猫が?」
「あ、やっぱり気にニャル?」
……は?
俺は無言でヒナとキンさんを見やる。
すると二人は慌てて顔と手を横に振った。
勿論俺でもない。
ってことは……
「猫がしゃべったぁぁ!!」




