最18話 猫がもたらす新たな扉
「いやはや……全く、きみには驚かされてばかりだよアキくん……」
「姫騎士……よりによってアキきゅんが姫騎士……ぷっくくく」
「笑うなよヒナ! 俺は泣きたいんだぞ!」
腹を抑えて必死に笑いをこらえるヒナ。
人の気も知らないでぇ。
これじゃ【OSO】内でチンピラプレイヤーに絡まれたヒナを助ける時に『おい、俺の彼女になにか用か?』なんて、格好いいセリフが言えねぇだろ。
言ってもいいけど幼女姿じゃチンピラにもキョトンとされるだけじゃん。
普通にレズップル認定されるわ。
だいたいさぁ俺からしてみれば、『姫』ってのはヒナのほうなんだよなぁ。
あっ、やめて、ノロケじゃないの、石をぶつけないで。
爆発しろとかいわないで。
「で、【姫騎士】のスキルツリーはどんな感じなんだい?」
「ああ、見た感じだとバフ系が多い、かな。未開放スキルも多くてまだなんとも言えないが」
ゴゴゴゴゴゴ
「ふむ。それはそれで便利そうだね」
「そういやキンさん、前に言ってなかったっけ? 実装予定のジョブがあるとか」
「うむ。そう言った噂は確かにあったね。正式版と共にスキル群とジョブが追加されるとね」
「これってやっぱそれ?」
「どうだろう。正式版実装直前ではそれらの開発と実装は一旦白紙にされたとか聞いたんだけどね」
ゴゴゴゴゴゴ
「ふーん……っておい。剣士スキルに振ったはずのジョブポイントが戻って来てんだけど……」
「現在のジョブが【姫騎士】だからその分がキャンセルされたとかじゃないんです?」
「それにしてもおかしいんだよな。剣士スキルはそのまま残ってるし」
「ふんむ。と言うことは【姫騎士】が上級ジョブに分類されるか、もしくはただのバグ……そしてあるいは……」
「「「ユニークジョブ」」」
図らずも完全にハモった俺たち。
これは大変なことになってきたぞ。
この情報だけでとんでもない金額が動きそうなほどに。
クックックッ。
ゴゴゴゴゴ
「って、さっきからなんなんだよ! ゴゴゴゴうるせぇな!」
「ちょっ、ちょっとアキきゅん! 奥! 奥!」
「ああん!?」
ヒナが指差す先。
行き止まりだったはずの洞窟最深部が鳴動と共にスライドしてるじゃないか。
まるで天岩戸のように開いて行く。
そしてそれよりも遥かに俺たちを驚かせたのは────
『ユニークシナリオ 【誘われし猫の岩屋戸】を開始しますか?』
と言うシステムメッセージだった。
「なにこれ!?」
「もしかしてこれってすごいことなんじゃありません!?」
「アアアアアアアアアキくん、『はい』だよ、早く『はい』を押したまえええええ」
キンさんが震えすぎて残響音を放っている。
ああそうか。
そう言えば俺がパーティーリーダーだったな。
「……なぁ、ユニークシナリオってことはさ、間違いなく……」
「大発見ですよ!」
「だよな! うっひょう!」
「ぼぼぼぼぼぼ僕もそうだだだだと思うよよよよよ」
落ち着けよキンさん。
いい年して動揺しすぎだ。
動きまでロボみたいになってんぞ。
俺はメッセージの『はい』を押そうとした時、ふと疑問がわいた。
「でもなんでまた急に発生したんだろ?」
「うーん、私たちが何らかの条件を達成したから、じゃないです?」
「まぁ、そう考えるのが妥当だろうなぁ」
「……推測でしかないけど、ユニークシナリオ名に『猫』が入ってるからね」
「ああ! キンさん冴えてんな! 俺をここに突き落とした、あんの憎きクソ猫関連か!」
「こら、アキきゅん! 言葉遣いがお下品ですよ!」
「お、おう」
なんで俺が弱い立場になってんだ?
一応ヒナは俺の先生でもあるが……
ともあれ、キンさんの推測通りなら、俺たちが追ってた見たこともない猫型モンスターがフラグだったと言うことになる。
ってことは、あの猫、ユニークモンスターなのかな。
そもそもあの猫もおかしなヤツだった。
なんせ青いのだから。
幸運を運ぶ青い鳥ならぬ青い猫ってか?
ま、その青猫を倒してもいないのにシナリオが起動したってことは、討伐がフラグではないだろう。
すると邂逅、もしくは発見、が条件か?
……いや、もしかしたら、猫との邂逅、猫キックを喰らって穴に落下、洞窟発見、までが一連の流れなのかもしれんぞ。
でも、ここに入ってからすぐ発生しなかったのは……?
キンさんがログインするまでヒナと二人で1時間は過ごしたよな。
その間はなにもなかった。
あ、いや、いかがわしい意味でじゃないぞ?
いやいやいや、いかがわしいことなんてなにひとつなかったけども!
あるわけねぇや……だって俺、幼女だもん……
んでまぁ、キンさんと合流してから更に1時間くらい経ったか?
それら全てを加味し、そこから導きだされる答えは……
「そうか……ここでの滞在時間がフラグなのかも」
「あぁー、ありそうな話ですね。この洞窟ってなにもないから見つけても即スルーしちゃうでしょうし」
「ほう、アキくんの洞察力は素晴らしいね。うむうむ、大いにあり得ると思うよ」
となれば、さっきからゴゴゴゴ鳴ってたのもフラグ条件達成の合図だったとか?
芸が細かいなぁ。
それはそれとしてこのシナリオ、大きな問題も実は内包してるんだよね。
俺は少しだけ真面目な顔でヒナとキンさんに問うた。
「なぁ、そんでどうする?」
「なにがです?」
「むむ?」
「いやぁ、このユニークシナリオさぁ、『難易度【高】』なんだよね」
「えぇぇぇ!?」
「難易度高は確か……」
「ああ、適正レベル80以上推奨、だとよ」
「は、80~~!?」
「ぐはっ! 僕はまだ55なんだけど……」
「私だって53ですよ!」
「俺も似たようなもん。だから相談してんじゃん。明らかにレベルが足りてないけどどうする? ってな」
さすがに全員が黙りこくる。
はっきり言って、今の俺たちじゃ力不足もいいところ。
クリアは非常に困難となるであろう。
でもな。
俺のゲーム魂がそうは言っていないんだ。
おっとぉ、ヒナもキンさんもニヤリと笑いながら俺の目を真っ直ぐ見返しているじゃないか。
そうだよな。
ここで黙って退くような俺たちじゃねぇわな!
「他のプレイヤーに先んずるチャンスだ! 行こうぜ!」
「アキきゅん! やったりましょう!」
「僕は玉砕覚悟で!」
「負けんなよ! もっと頑張れよ!」
「砕け散っちゃダメですよー!」
笑い合いながら俺は『はい』のボタンを思い切り押してやった。
さぁ、来い!
ユニークシナリオめ!
目にもの見せてくれるわ!
……悪役のセリフだった。




