第17話 未知のジョブ
「………………は?」
「いやいや、は? じゃなくてね。目ェ逸らすなよ。そして逃避すんなよキンさん」
「これは現実なんですよキンさん! 受け入れてください!」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
栗毛の頭を両手で抱えて苦悶するキンさん。
目に入った現実と、耳から聞かされた情報の齟齬が脳内で起こっているらしい。
ログインしてきた途端にとんでもない事態を告げられれば、誰でもこうなるだろう。
いや、キンさんはこのまま進化して第二形態になるのかも。
つまりキンさんがラスボス!
なんか普通に倒せそうだけど。
そのキンさんは土曜日だと言うこともあり、かなりの寝坊をかましていた。
そして、ログインしたものの、例の大木付近に俺たちがいないことを不思議に思い、ミニマップでパーティーメンバーの位置情報を確認してこの洞窟にやってきたというわけだ。
「と、取り敢えず状況を整理していいかい?」
『あいや、待った』みたいに俺とヒナへ掌を突き出すキンさん。
俺たちに否やはない。
むしろ俺自身も未だに絶賛混乱中だ。
「アキくんは僕たちがログアウトしたあと、メンテナンス作業に巻き込まれたんだね?」
「ああ。ビビッたぜー。急に真っ暗闇に叩き落とされてさ」
「そして気付いたら幼女になっていたと」
「うん、ヒナが介抱してくれて助かったよ。ありがとな」
「えへへ、そんなことないですよー」
「……それがなんで『ヒナと付き合うことになった』になるんじゃぁぁぁぁぁ!! どうなっとるんじゃおどりゃぁぁぁぁ!! 幸せそうに微笑みあうなぁぁぁぁ!!」
おおー!
出た。
キンさんのキレ芸。
ってかさ、キレるとこそこなの?
俺とヒナの関係よりも、理不尽な運営に怒ってくれよ。
あ、もしかして悔しかったのかな?
ならばせいぜい煽ってやることにしよう。
へっへっへ。
「アキきゅんが鬼畜な顔でなにか企んでますよ~……」
なぜバレた。
さすがマイハニーだ。
俺をよく見てるなヒナよ。
……自分で言ってて恥ずかしいわ。
「とにかく、だ。こうなっちまったもんは仕方ねぇ。このアバターでやってくしかないだろ。ちなみに、さっき試しにログアウトしてみたんだが、向こう(リアル)じゃ男だったよ。当たり前だけど」
「……ホッとしましたー。アキきゅんが身も心も女の子になっちゃったらどうしようかと……」
「うむ、それはそれで見てみた……なんでもない」
俺に睨まれ口をつぐむキンさん。
ヒナと俺をレズカップルにでもさせる気なのかこの野郎。
冗談じゃねぇぞ。
その場合は対格差からして明らかにヒナが優位じゃねぇか。
受けは性に合わねぇんだよ。
「アキくん。こうなった以上、リアル性別はなるべく隠したほうがいいんじゃないかい?」
「なんでだよ?」
「バッカ。アキくんが男だとわかったら周りの扱いが美幼女から『男の娘』に昇格するかもしれないだろう?」
い、言われてみれば確かにそうだ。
【OSO】のアバターはプレイヤーの姿をほぼそのまま反映させているんだもんな。
この幼女姿が現実の俺だと勘違いする奴が続出するだろう。
なのに『俺は男です』なんてカミングアウトしたら……
……つまり、腐女子の皆さんのみならず、そっち系の野郎どもまで大興奮の地獄絵図……
いっ、嫌だぁぁぁ!
「あっはははは! じゃあアキきゅんはもっと女の子らしくしないとですねー」
ヒナは爽やかな笑顔でなんてこと言うの!?
そんな無茶振りロールプレイを俺にしろと!?
無理難題をおっしゃる!
「ちょっと練習しましょうか。はい、『わたし』って言ってみてください」
「やだぁ!」
「ほらほら駄々こねないでください。ガチムチのお兄さんたちに追いかけられてもいいんですか? はーい、お名前上手に言えるかなぁ?」
「…………わたし、アキ」
「~~~~~ッッッ! 可愛すぎますーーー!」
「ぎゃーーーー!」
折れる!
背骨が折れるぅぅぅ!
ベアハッグの使い手かぁぁぁ!?
「不覚にも僕まで萌えてしまったよ、フッ」
フッじゃねぇよ!
萌えんな!
このグラサン破戒僧め!
「それで、変化が起きたのは外見だけなのかい?」
「……ッ」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
いやいらないよ。
その妙な効果音と振動。
勝手に緊迫感だしてんじゃねーよ。
「それがさぁ、これ見てくれよ」
ステータスウィンドウを開いて見せる。
すかさずヒナとキンさんがどれどれと覗き込んだ。
誰しも他人のステータスには興味があるらしい。
「ほう、AGIを70まで振ったのかい? これは本格的に避け剣士っぽくなってきたね」
「うーん、私だったらもう少しDEXが欲しいですけど。あはは、VIT1じゃないですか! 紙装甲~!」
「見るのはそこじゃねーよ」
俺は二人へ、とある項目をビシッと示した。
「……! なんだいこれは!?」
「なんですこれ!?」
はっはっは。
非常ーーーにいい反応だぞ二人ともぉ!
俺のステータス一覧、その左上に表示された職業こそ────
「【姫騎士】だッッ! 誰か俺にこのジョブが何なのか教えてくれぇぇぇぇ!!」




