第166話 激突! 邪神戦! 5
「これが【神槍グングニル】……!」
「なんて綺麗な槍……」
眼前で輝く神々しい一槍に、目を輝かせる俺とヒナ。
吸い寄せられるかのように俺の右手が伸びる。
カッ
槍は掴んだ途端、鮮烈な光を放った。
「……ア、アキきゅん……! その姿は……!?」
「なっ、なにこれ!?」
ヒナに言われ、己を身体を見て驚く。
やたらと鍔の広い緑色の帽子。
そして同じ緑色のマントを身に纏っていたのだ。
幼女サイズだからデフォルメにしか見えないが……
「あー、神話のオーディンって普段は魔術師っぽい姿で描かれてますよね……でも可愛くて似合ってますよ」
「え、そうだっけ?」
「それよりアキきゅん、結局どうなったんです?」
「うーん。取り敢えずこんな格好だけどユニークジョブじゃないみたい。あ、武器はレジェンダリーウェポンだね」
「まぁ、色々なゲームに良く出る最強格の武器ですもんね……で、強いんですか?」
「さぁ……? あ、でもこの効果はすごいかも」
「えー? なんです? なんです!? 気になります!」
「へへー、えーとね……わわっ!?」
「きゃあ!」
ズゴォォォン
耳を劈く轟音。
見れば戦艦トヤマの右舷から、もうもうと黒煙が上がっている。
邪神のブレスを回避し切れなかったのだろうか。
な、なんか傾いてない?
こりゃ、あんまり時間も無さそうだ。
たがねさんやモーちゃんたち、無事だといいけど。
「あっ! 見てくださいアキきゅん! 邪神が!」
「うげー、キモー」
赤黒かった邪神の身体が、みるみる漆黒へ変化していく。
しかも上空にある邪神の首元が膨れ上がり、人間のような腕が6本も生えてきた。
更にツルツルだった頭部が無数の角で覆われる。
いよいよ最終形態臭いな。
だがな、邪神さんよ。あんたは人間を舐めすぎだ。
やられる前にやってんやんよ。
いま手にしたばかりの、この力でな。
「ヒナ。たがねさんにトヤマで邪神の気を出来るだけ引きつけるようにってメールして」
「は、はい!」
ヒナにそう頼んだ俺は、振り返って全プレイヤーへ向けて最後の檄を発する。
「みんな聞いて! わたしは【神槍グングニル】を入手してオーディンの偉大な力を授かった!」
オォォオオオオ!
どよめくプレイヤーたち。
「だけど、それでも邪神にはわたし一人じゃ勝てないの!」
ォォオォ……
意気消沈が早いよ!
「だからお願い! みんなの力を貸して! 全員の力が集まれば、あんな蛇なんて楽勝よ!」
ウォオォオオォオオオ!
「わたしからの指示はたったひとつ! 各自が攻撃スキルを放つこと! それをわたしが、全て繋げる!」
オオオォォォオオオオ!!
プレイヤーは沸き立ち、前衛職だけでなく、魔法使いや司祭も次々に攻撃スキルを放った。
1、2、3、4…………50、51……
「アキきゅん……」
「ん、ヒナ?」
「まさか、その槍に込められた力は所持スキルの最大拡張、ですか?」
「わっ、一発で当てないでよ。でもすぐに気付くなんてさすがだね」
「えへへー。じゃあ、あれをやるんですね?」
「うん。だからヒナも特大の魔法をお見舞いしてあげて」
「わかりました! 全身全霊で撃ちます! 万物に宿りしマナよ……己が全てを解放し……」
680、681……
いいぞ、その調子だ……
そろそろ俺も準備しよう。
「オーディン・フォーム!」
高くグングニルを掲げると、槍が変形を始める。
同時に金色の輝きが俺の全身を覆った。
光が消え去った時、グングニルは柄を伸ばし、穂先も巨大化していた。
そして俺の身体は黄金の鎧に包まれたのである。
うわぁ!
なんだこれ! 黄金聖闘士かよ!?
「……アキきゅん……ゴールドセ〇ントみたいですよ……」
「言わないでヒナ!」
だが、これは戦場におけるオーディンの正装なのだ。
バカにしちゃいけない。
(あっ!? あれあれ!? 主さま! こ、これは!)
「ん? ニコ? どうかし……わわわっ!」
気付けば俺はユニコーンのニコに騎乗していた。
しかも、八本脚の!
「な、なんで脚が増えたの!?」
(こ、このニコ、ユニコーンから強制的にスレイプニルへ進化させられてしまいました!)
「えぇぇーー!?」
「あっははは! 確かにオーディンの馬と言えばスレイプニルですもんねー!」
「笑い事じゃないよヒナ!」
(笑い事ではありませんよヒナさん! ……ニコは元に戻れるのでしょうか……)
ガクリとうなだれるニコ。
俺がオーディン・フォームを解除すれば元に戻れるんじゃないかな……たぶん。
そうしている間にもカウントは増えていく。
「じゃ、行ってくるねヒナ」
「はいっ! 必ず邪神を倒してください!」
「任せといて。よーし、ニコ!」
(承知)
ヒナの笑顔に見送られ、俺とニコは人馬一体となって戦場を駆けた。
872、873……
予定通り戦艦トヤマは砲撃で邪神を引きつけている。
おお、甲板から攻撃スキルを撃っているのはモーちゃん、ヴィヴィアンさん、マーリンさんじゃないか!
ハカセもたがねさんもいる! 助かるよ!
ってかトヤマが轟沈寸前だけど、もうひと踏ん張りお願い!
925、926……
プレイヤーは果敢にスキルを放ち、邪神の真っ黒な胴体へ大いにダメージを与えていた。
970、971……
俺はニコの首をポンと叩く。
ニコはひとつ嘶くと、空中を蹴った。
驚きの声を上げるプレイヤーたち。
当然だ。
スレイプニルは空を駆けることが出来るのだから。
頬を叩く空気。
迫る邪神の後頭部。
眼下には無惨に散って行くプレイヤー。
999……1000、1001、1002……
今こそ発動条件を満たした。
条件とは、攻撃スキルによる1000コンボ以上!
その全てを繋げ、威力を極大増加させる!
俺は槍を思い切り振りかぶり、叫んだ。
「ドッキングスキルコンビネーション・インフィニティ! 【神々の黄昏】!!」
腕も千切れんばかりに【神槍】グングニルを邪神の頭に向かって投擲する。
ドッシュッッッ
槍は邪神の後頭部に突き刺さり、超高速回転で周囲の肉と骨を抉りながら一気に埋没していった。
そしてグングニルは邪神の眉間から姿を現し────
SIIIIIIIIIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
パリィィィィィィイイン……
────邪神アポピスをデータの海へ還したのである。
はっはっはー! 見たか! これが人間の底力だ!