第165話 激突! 邪神戦! 4
ジャッッッ
邪神の胴体にある無数の鱗。
その鱗は一斉に開き、赤い線を吐き出した。
俺が目視したのは、土砂ごと吹き飛ばされた空中からである。
赤い線は一瞬で眼前の地に到達し、爆発したのだ。
あれじゃまるでレーザーだ!
幾重もの赤き光線が、そこら中を破壊していく。
ある者は全身を焼かれ、ある者は俺と同じく宙を舞う。
「くっ!」
なんとか身を捻り、足から着地する俺。
衝撃波だけでこの有様だ。直撃ならば死んでいたかもしれない。
やられたプレイヤーを回復していく司祭。
しかし、どいつもこいつも途方に暮れた顔だった。
「あああ! 戦艦トヤマが!」
誰かの絶叫につられて振り向くと、戦艦トヤマはまだ空中に留まっていた。
だが、後部から煙を上げている。
どうやらさっきのレーザーで被弾したようだ。
より失意に満ちるプレイヤーたち。
変態が作った超兵器は、あれでも強さの象徴だったのであろうか。
ならばその失意を払拭するのが指揮官の役目。
それを知っている各団の団長クラスたちは大声で鼓舞を始めた。
いいぞ。
みんな立て。
まだ終わっちゃいない。
全滅するまでは、ね。
「怯むな! わたしは絶対に諦めない! みんなは強い! だから自分を信じて!」
オォォ……
「行くよみんな! わたしに続け! 大号令【聖戦】!!」
ウォォォオオオオオオ!
身体を超絶強化され、士気を取り戻したプレイヤーは、俺を先頭に突撃を開始した。
俺は走りながらヴァルキュリア・リュストゥングを取り出し、戦乙女形態へ変身。
魔術師部隊の放った乱れ飛ぶ攻撃魔法が俺たちを追い抜いて邪神に直撃する。
開いた鱗の内側に命中した魔法が、レーザーの発射口を破壊したらしく、それ以上光線を放たなくなった。
なるほど、攻略の糸口はそこか。
「しらみつぶしに発射口を壊すよ!」
オオ!
斬撃が刺突が打撃がスキルが、次々に半透明のガラスのような発射口を叩き割る。
しかし邪神も健在な鱗のレーザーと恐ろしい質量の尻尾で応戦。
あれだけ周囲にいたプレイヤーたちがみるみる減って行く。
戦艦トヤマの援護攻撃も散発的。
俺のフォース・シールドは何度もレーザーを受けて遂に霧散した。
完全にジリ貧である。
そんな折、俺の背にドンとぶつかってきたのはヒナだった。
「やー、厳しいですねこれ」
「だね。でも、強敵と闘るのって、やっぱり楽しいよ」
「あはは、それでこそアキきゅんです」
「ヒナ、死んだら向こうで」
「世界観的にあの世はヴァルハラですかね?」
「あっはっは、そうかも。戦士の魂を連れて行くヴァルキリーさんは来てないけどね」
「なに言ってんですか。アキきゅんが戦乙女でしょ」
「そうでした。ま、わたしには……」
『アーティファクトを献上しますか?』
「え、なんか言ったヒナ?」
「はい? いえ、なにも言ってませんけど」
『アーティファクトを献上しますか?』
「ほら、また」
「……アキきゅん……熱中しすぎて頭が変に……」
「失敬な! 可哀想な子を見る目はやめて!」
プンスカする俺。
確かに聞こえたのだが……
『アーティファクトを神界へ献上しますか?』
やっぱ聞こえるじゃん!
ヒナに消えないってことはシステムメッセージか?
しかし言われた意味は解らない。
アーティファクト?
献上しろってことはアイテムか?
そんなもん持ってたっけ?
そういや、昔に似たようなことをするゲームがあったなー。
運営め。堂々とパクりやがって。
ってか、なんでこんなクソ忙しい時にわけのわからんメッセージで翻弄されなきゃならんのか。
……まさか、今だからか!?
急に気になりだし、慌ててアイテム欄のページを繰る。
無い、無い、無い。ねぇじゃんよ!
……落ち着け俺。こんな時こそ冷静に、だ。
献上しますかと問われたのだから、俺は既にそれを所持していなければ文言としておかしい。
俺が持っている中でアーティファクトたりえる物……
となると、考えられるのはユニークアイテムだろう。
まずは鬼神滅砕斧、次に聖剣エクスカリバー、最後にヴァルキュリアリュストゥングだ。
そして声の言う神界とは、北欧神話をベースとしたこの【OSO】で言えば、きっとアースガルズのことだろう。
俺が持っているアイテムで北欧神話に関係するものはひとつしかない。
つまり、ヴァルキュリアリュストゥングだな!
はっはっは! 見たか俺の推理力を!
『アーティファクト不適合です』
おいぃい!
違うんかい!
じゃあ、北欧神話関係ないけどエクスカリバーか!?
『アーティファクト不適合です』
舐めてんの!?
結局、どれも違っていた。
一番可能性が高いと思われたヴァルキュリアリュストゥングが違っていた時点で諦めてはいたが、無惨な結果を突きつけられると精神的に来る。
こうしている間にも激戦は続いているのだ。
怒ったりしょんぼりしたり地団駄を踏んだりしている俺を見るヒナの視線が痛い。
くそっ!
これじゃあんまりだよ神さま……!
……ん? 神さま?
ある。
あるじゃないか、神さまに関連したアイテムが!
クレオから貰った【スカラベバッジ】!
ケプリ神、つまり太陽神ラーからの贈り物だ!
これならいけるはず!
……でも待てよ。
スカラベバッジを献上して、何か良いことがあるの?
『ありますよ』
!?
システムメッセージが返事すんな!
いや、今のこそ俺の幻聴かな?
ええい、迷ってる暇はない!
ダメならダメでまた考えればいいさ!
『アーティファクト適合。【スカラベバッジ】を神界へ献上しました』
どうにでもなれと思いながら空に昇って行くスカラベバッジを見送る。
勿体ないと思ってしまうのはゲーマーとしての悲しいサガか。
「アキきゅん、なにかあったんですか?」
「ああ、うん。変なシステムメッセージが来てさ、アーティファクトをよこせって」
「え、昔そんなゲームありましたよね」
「うん。わたしも思った。パクりじゃ…………ん?」
上空へ消え去ったスカラベバッジの代わりに、黄金に輝く光の柱が俺へ向かって降ってきた。
ヒナは慌てて俺のそばから飛び退く。
うわ、薄情者!
ドォォォオオオオオオン
轟音と共に、俺の眼前に一本の神々(こうごう)しい────
『主神は、汝へ【神槍グングニル】をお与えになりました』