第164話 激突! 邪神戦! 3
ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン
大質量の機械が放つような重低音。
『あーはっはっはっはっはー! アキちゃん! 待たせたわね!』
スピーカーを通したかのようなバカ笑い、いや高笑い。
聞き覚えのありまくる声であった。
ガチレズ鍛冶師。否、今やガチレズ発明家となった、たがねさんの。
呆然としてしまう俺、ヒナ、キンさん、ツナの缶詰さん、シーナさん、そして邪神アポピス。
あまりと言えばあまりな光景だ。
なにせ、バカみたいにでかい鉄の塊が山を越えて姿を現したのだから。
そう、こいつは空を飛んできたのだ。
船が!
「なっ、なにこれぇ!? たがねさんの発明品!?」
『きっと今頃『なにこれ!』と叫んでるアキちゃんに、説明しよう! アタシの最高傑作! 【第三世代型恒星間航行超弩級戦艦トヤマ】よッッッ!!』
「トヤマ!? ヤマトじゃなくて!?」
『アキちゃんはきっと『ヤマトじゃないの?』と疑問に思っているはずよ! 何を隠そう、アタシの出身地が富山なのよッッッ!』
「知るかーーーーっ!」
しっかし、またすげぇの作ったね!
どうりで出発前にあれほど見せたがったわけだよ。
むしろ俺も乗りたかった!
……ってか、第一と第二世代型はどこに……?
『あっ、ちょっと! なにすんのよハカセ!』
ザザッザザザガボゴボッ
『アキちゃん聞こえてるゥ? 団員をかき集められるだけかき集めてきたわよォ! みんなこの船に乗ってるわァ! それとねェ……』
『父上~! あたしたちも来たよ~!』
『丁度うまい具合にこの船が通りかかって助かったのじゃ』
『我が王~! 今こそ御身の御傍に~!』
おっとぉ。
たがねさんとハカセはモーちゃんたちまで拾ってきたのか。
最終決戦に勢揃いとか、漫画みたいじゃん!
『ええい! あんたたち、マイクを返しなさい! アキちゃん、これから砲撃しつつ接近するわ! 巻き込まれないように気を付けるのよ!』
待って。
巻き込まれないようにったって……俺、絶賛捕獲されてる最中なんですけど!
ドゴーン ドゴーン
「うわぁぁ! ほんとに撃ってきたぁぁ! ぎゃー!」
「ひー! お助けー!」
砲弾が邪神に命中するたび、爆風と衝撃波が俺とシーナさんを襲い、あられもない悲鳴を上げてしまう。
邪神がビッタンビッタンもがくものだから右へ左へ大きく振り回された。
だが、邪神の意識は戦艦トヤマに向いたらしく、俺たちを掴んでいた腕の力が多少なりと緩んだ。
すかさず腕を断ち切り、ついでにシーナさんを掴んでいたものも切断。二人揃って転がり落ちるようにどうにか脱出する。
「ひぃひぃ……ひどい目に遭った……」
「私としたことが、みっともない姿を……」
「ご無事ですか、アキさん、シーナさん!」
「ヒール! ヒール! 全損しなくてなによりだ」
「アキきゅん! みんなが降りて来ましたよ!」
ヒナの声に振り返れば、戦艦トヤマは空中に浮かんだまま、船腹の左右にあるハッチを開けてロープを下ろし、まるでレンジャー部隊のようにプレイヤーが滑り降りてきたところであった。
休日のせいか、思っていたよりも人数は集まったようだ。
プレイヤーの降下中も砲撃をやめない戦艦トヤマ。
どうやら製作者兼操縦者のたがねさんは艦内に残るつもりらしい。
強力な艦砲射撃は援護としてとてもありがたい。
いやぁ、初めて大当たりを引いたなぁ、たがねさん。
さすがユニークジョブ、規格外のものを出してくるね。
しかし、相変わらず世界観が仕事しないゲームだこと。
ウォオオオオォォ
俺たちが回復中に邪神へ攻め寄せるプレイヤー。
数百人が一斉に闘う様は、なんとも壮観だ。
勿論、無謀な突撃ではなく、事前にメールで邪神の概要は伝えてある。頭脳担当のヒナが本文を作成したので、さぞやわかりやすかったであろう。
「よし、わたしたちも行くよ!」
連中に負けていられない。
あれ?
そういやモーちゃん、ヴィヴィアンさん、マーリンさんの姿が見えないな。
まだ艦内に残ってんのかな?
ま、いいか。
ドゴーン ズゴーン
砲撃音が少し遠ざかる。
どうやら邪神がブレスを吐かないよう、高空に位置する頭部を集中攻撃しているようだ。
たがねさんにしてはナイス判断すぎる。
これはハカセかマーリンさんの戦術……と言うか入れ知恵だろう。
NPCのくせにメタ発言ばかりするヴィヴィアンさんの可能性もある。
どちらにせよ、これは好機だ。
舌攻撃も来ない今なら、邪魔な邪神の腕を存分に排除できる。
「はぁあーっ!」
聖剣を振るう度に胴体から生えた無数の腕が一気に数を減らして行く。
掴み攻撃にさえ気を付ければそれほど怖くはない。
だからこそ違和感を覚える。
邪神アポピスはこんなものなのかと。
そして俺はすぐさま否定した。
そんなはずはない、と。
俺の考えはすぐに肯定された。
プレイヤーの絶叫という最悪の形で。
「うわあああ! なんだあの柱は!」
「こ、こっちに来る!」
「退避! 退避ーーーー!」
ズズゥウウウウウウウウウウン
「ぐわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
凄まじい速度で迫り、大地を叩きつけた鉛色の柱。
それは邪神の尾部であった。
幾人ものプレイヤーが叩き潰され、あるいは宙を舞った。
だが司祭たちによる乱れ飛ぶ回復魔法ですぐさま癒される。
大人数レイド戦の利点だ。
「そうこなくっちゃね」
「笑ってる場合じゃないですよアキきゅん。どうするんですあんなの」
「うーん、斬っちゃおっか」
「軽っ! そもそも斬れます? 太すぎますよ」
「さーて、どうかなぁ」
「無策じゃないですか!」
「いっ、いま考えるとこ!」
などと、ヒナといつもの漫才を繰り広げていると。
「腕が消えたぞ!?」
「お、おい、邪神の色が……!」
どよめくプレイヤーたち。
彼らと同様に見上げると、上のほう、つまり上空の頭部から徐々に赤黒く変色してきていた。
気味の悪さに胴体へよじ登っていた連中も降りてくる。
「な、なんだ!?」
「鱗が!」
「開いた!!」
ジャッッッ
目の前が真っ赤に染まったと同時に、俺の身体は吹き飛んでいたのであった。