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第162話 激突! 邪神戦!



 俺たちはいきなり突撃! ……なんて無謀なことをするでもなく、とぐろを巻いた邪神アポピスから目を離さず、山を下り始めた。


 邪神は未だこちらに気付いていないのか、動こうとはしない。

 ならば今のうちに距離を詰めておくのがセオリーだ。

 もしも喚き散らしながら突っ込んで行って邪神に気付かれた場合、こんな足場の悪い山では一方的に嬲り殺されるのがオチである。


 熱くなっていても、頭のどこかは冷静でいられるのが真のゲーマーなのだ。


「しかし邪神は全く動きを見せぬようですが……」

「蛇だけに冬眠中なのでございますか?」

「こんなクソ暑い砂漠でかい!? いや、確かに現実では年末なんだがね」


 あっはっは。

 ツナ姉さんとシーナさんの疑問にキンさんがツッコミ入れてる。


「たぶん、わたしたちが邪神の索敵範囲外にいるからじゃない?」

「ですねー」


 ゲーム脳全開の俺とヒナは意見が合致した。

 まぁ、これはゲームにおける一般常識ではある。


 ランダムエンカウントのRPGと違い、敵が見えているタイプ、いわゆるシンボルエンカウントのモンスターには、大抵索敵距離が設けられている。

 範囲内に入ればアクティブ化し、こちらに向かって移動や攻撃を仕掛けてくるわけだ。

 逆に言えば範囲内に入らない限り、なにも行動を起こさない。

 それを逆手に取り、わざと気付かせて敵をこちらに有利な地形へ引っ張り出すなどのテクニックがある。

 その辺りを上手く利用するのも上達への第一歩なのだ。


 ゲームに疎いとは言え、ツナ姉さんは感覚的にわかってそうなんだけどね。

 そうでなけりゃトッププレイヤーになんてなれないしな。勘だけでやっちゃうんだから、もしかしたら才能はツナ姉さんが一番かも。

 シーナさんも、もうちょっと長く続ければ身に付くと思う。

 間合いを測るのはやたらうまいもん。

 リアルで格闘技でもやってるのかな?


「なるほど……索敵範囲ですか。普段あまり意識していませんでしたが重要なのですね」

「素晴らしき慧眼にございます。アキお嬢さま、ヒナお嬢さま」

「当然だが僕も知っていたよ。えっへん」

「……」

「ヒィ! 無言で僕を睨まないでおくれシーナさん! 黙っているほうが怖い!」


「ちょっと二人とも。コントしてる場合じゃないよ。麓に着いたら慎重にね」

「栗毛サングラスのせいでアキお嬢さまに叱られたではございませんか……後でPvPルームへ……」

「ギヒィ!」


 ま、緊張でガチガチになるよりはいいけどさ。

 しかしキンさんとシーナさんはホント仲がいいな。

 ドMとドSで噛み合ってるせい?


 ともあれ麓に降り立った。

 ここからは気合を入れて行こう。


 うーん。

 それにしても下からだと見上げるほどでっかい塒だなー……

 こんなのとやって本当に勝てるの?

 っとと、気圧されてる場合じゃないね。

 こいつを倒さなきゃ俺は男に戻れないんだから。


 よーし、やるぞー!

 攻めのコツは慎重かつ大胆に、だ。


「先頭はツナ姉さん、お願い」

「委細承知」


 ズイと前に出るツナの缶詰さん。

 髑髏の禍々しい全身鎧姿が何とも頼もしい。


「二番手はわたし。三番手にシーナさん」

「かしこまりました」


 シーナさんはボキボキと骨を鳴らしながら俺の後ろに着く。

 勢い余って俺の後頭部を殴らないことを祈ろう。


「四番手はヒナだよ」

「はーい!」


 モンスターの魂を食らうと言う杖を振り上げ、元気よく返事するヒナ。

 うむ。今日も可愛い。


殿しんがりはキンさんね」

「おうさ! 任せたまえ!」


 叩くとハゲる恐ろしい武器を肩に担ぐキンさん。

 う……む、彼の髪はもうすぐ無くなるだろう。哀れなり。


「邪神が動き出したら全力疾走で接敵するよ」


 おお! と、みんなからいい返事が返ってきた途端────


「アキきゅん! あれ見てください!」

「!?」


 ヒナの声が耳へ届く前に、俺の目に飛び込んできた光景。


 邪神の体表面に……無数の眷属が湧き出している!

 以前に俺が闘ったのと全く同じ姿形。

 やはり邪神が眷属を生み出していたのだ。


「あれが件の眷属ですか……」

「思っていたよりも大きい……そしてキモい……」


 話はしておいたが、初見であるツナの缶詰さんとキンさんは唖然としていた。

 俺もそうだったので気持ちはよくわかる。


「大丈夫だよ。防御力さえ下げちゃえばそんなに強くないし」

「数の問題は私の魔法がありますから」

「各個撃破ならお任せくださいませ」


 既に戦闘経験のある俺、ヒナ、シーナさんは口々に二人を励ます。

 邪神戦が始まってもいないのに士気を萎えさせるわけにはいかない。なので、努めて軽い口調だ。


「ささ、アキきゅん先生。そろそろ開戦の狼煙を」

「うむうむ。苦しゅうないぞヒナよ」


 おどけるヒナに促され、俺は大きく息を吸い込んだ。

 ノリは大事なのである。


 慌てるな。眷属どもを充分に引きつけて……そこだっ!


「このバカ蛇ッッ!! 頭が高いッッ!!」


 ビッターーーーン


 咆哮一閃!

 【姫の大喝】によって眷属どもは一斉に地へひれ伏した。


「みんな、行くよ!」


 言うと同時に走り出す。


 ツナの缶詰さんの真っ黒な剣が、シーナさんのメリケンサック付き両拳が、キンさんの鈍器が、ヒナの魔法が、そして俺の聖剣エクスカリバーが次々に眷属を屠ってゆく。


 眷属に関しては想定通りの展開だった。

 問題はこれから待ち受ける邪神アポピス本体だが、今はそれに気を回す暇がない。

 大喝による麻痺効果も時間制限があるのだ。

 とにかくまずは眷属を全て葬らねば。


 ────しかし、邪神は待ってなどくれなかった。


「じゃ、邪神が!」

「立ち上がりましたよ!」

「な、なんて高さなんだい……」

「これは……」

「まさに圧巻でございます」


 眷属がやられていくのを感じたものか、塒を解いた邪神アポピスはゆっくりと起き上がったのだ。

 その全高たるや。

 その鉛色の巨躯たるや。


「くっ! 気付かれちゃったね。でも先に眷属を……」


 もう一度言おう。

 邪神は待ってなどくれなかったのである。


 SYIIIIIIIIIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAA


 遥かな高みから紫色のブレスが────!




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[一言] 無理ゲーじゃね?
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