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第161話 クレーターに巣食うモノ



「なっ、なんだこりゃ~~~~!」


 眼下に広がる光景に、大絶叫をかます俺。

 叫んだのは失神しないようにするための自己防衛本能である。


 ヒナたちに至っては声もない。

 魂が抜け出たように呆けるばかりであった。

 無理もなかろう。

 気絶していいなら俺も今すぐしたいくらいなのだ。


 なにせ、俺たちの立っているこの山脈は、峰が延々とどこまでも連なり、左右の稜線は大きく弧を描いてひとつの超巨大な円形と化していたのだから。

 しかもその円の内側は、中心地点へ向かうにつれて深く抉れた窪地となっている。

 これは、誰がどう見てもバカでかいクレーターとしか言いようがなかった。


 だが、俺たちを真に驚愕させたのは、このクレーターなどではない。



 直径数キロメートルはあろうかと言う窪地の中心部に、それは在った(・・・・・・)



 クレーターのド真ん中にうずたかく盛り上がった螺旋状の巨大な山……


 とぐろだ!


 あれほどの大きな塒を巻くような生物。

 伸ばせばいったいどれほどの長さになると言うのか。

 500メートル? それとも1キロメートル?

 そんな途轍もない長さの蛇など、思い当たるのは最早ひとつしかない。

 だからこそ俺たちは愕然としていた。



 ────邪神アポピス────



 何てこった。

 まさかこんな場所で邂逅するとは。


 ってか、あのクソ運営、マジでやりやがった!

 完全に『どうも、邪神アポピスです』状態じゃん!

 いらねぇよこんなサプライズ!


 しかし、ようやく見つけたと言う思いもあった。

 こいつを倒し、第三大陸へ渡れば俺のふざけた運命にも光明が見えてくるはずなのだ。

 そう考えると俺は少しだけ落ち着きを取り戻せた。


「みんな、ボケてる場合じゃないよ。ほれ、ぺちぺちぺちぺち」

「ハッ!? アキきゅん……!」

「ぶはぁ! そ、その通りだ」

「くっ、私としたことが圧倒されていたようでございます」

「ッ! 騎士としてアキさんを真っ先に守護すべきなのに面目ありません」


 俺の声(と張り手)でみんなも気を取り直したようだ。

 こう言った突発的状況では冷静さがものを言う。


「まずは落ち着こうよ。ヤツはこっちに気付いてないのか、攻撃してくる様子はないみたいだし」

「で、ですね」

「う、うむ(帰りたい)」

「今、『帰りたい』とか思ったのではございませんか」

「シーナさんはエスパーかい!?」

「ですがアキさん、これはどうすべきなのでしょう……」


 ツナの缶詰さんの疑問はもっともだ。

 実は俺もどうするのが最良なのか全くわからん。

 が、ジワジワと背中が熱くなってきた。

 身体は正直だね。いや、変な意味でなく。


「……うわ、出ましたよ。アキきゅんスマイルが」

「うへぇ、本当だ」

「? 『アキきゅんスマイル』とは……?」

「アキさんは危機に陥れば陥るほど楽しくなってしまうのです」

「強敵とやらずに居れない性癖持ちなのさ。困ったもんだねアキくんは」

「全くですよ。付き合わされる私の身になってくださいアキきゅん(どこまでもついて行きますけど!)」

「なるほど……左様でございますか(確かにアキお嬢さまは私とPvPをした際にも笑っておいででございました……いま思い返しても素敵でございます!)


 人を頭のおかしなやつみたいに言うな!

 一期一会のチャンスを棒に振るほうがつまんないだろ!

 とは言え、突撃する前にやれることはやっておかないとね。


「取り敢えず、各方面に緊急連絡だね」

「うむ。【The Princess Order】の団長として僕が引き受けよう」

「(……かっこつけたいだけじゃん……)ん。任せたよキンさん」

「アキきゅん、今日が日曜なのはラッキーでしたね」

「うん。うちの団員は、ほぼ全員ログインしてるみたい」

「分団員からも続々と連絡が入って来てますよ」

「皆さまは集合地であるエジプティアの拠点に向かっているそうでございます」

「しかし、問題は拠点からここまでの移動です。少人数の我々ですら数時間を要しました。間に合えばいいのですが……」


 兜で表情は窺い知れぬが、いかにも危惧していそうなツナの缶詰さん。

 自分を含めた俺たちの心配はしないあたりが彼女らしい。

 さすがトッププレイヤーだ。


「一応聞きますけど、アキきゅんはハカセさんたちやモーちゃんたちが到着するのを……待つような顔じゃないですねそれ」

「えっへっへー、ヒナならわかってるでしょ」

「きみならそう来るだろうと思っていたがね……ははは……」


 何もかもを諦めたかのように引き攣った笑いを見せるキンさん。

 そんな顔をされちゃ、まるで俺が鬼畜みたいじゃないか。

 悪党ではないと証明するために、俺はこう言った。


「邪神と闘いたいのはわたしの我儘。だから強制なんてしないよ。行きたくない人はここでハカセたちを待ってて」


 押し黙ってしまうキンさん、ツナの缶詰さん、シーナさん。

 一人少ないが、その一人はいつだって共に在り、俺の背中を押してくれる。


「言うまでもないですが、もちろん私はアキきゅんと行きますよ。アキきゅんを放っておくと、しょーもない死にかたしそうですもん」


 ほらね?

 微妙に皮肉入ってるけど、ヒナは俺のそばに居ることを選んでくれるんだよ。

 ……ヒナめ! おっしゃる通りすぎて何も言い返せない!


「ん。死んだときは拠点まで戻ってハカセらを案内しながら来るよ」

「その場合、私も死んでますって。あははは」

「なに言ってんの、ヒナはわたしが絶対庇うよ」

「アキきゅん……」

「ヒナ……」


「二人だけの世界を作っているところ申し訳ないんだがね。きみたちの団長たる僕が行かないわけないだろう?」

「アキさんの守護騎士である私は、例え地獄であろうともお供つかまつります」

「私より年下のお嬢さまがただけを死地に赴かせるわけには参りません。それに、強敵と相まみえるのは拳士として何にも勝る本懐でございます」


 おっとぉ。

 俺のゲーム魂がみんなにも伝播しちゃったかしらん?


 ……でも、気恥ずかしいから口には出さないけど、すっごく嬉しいよ。


 ありがとね。



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