第16話 幼女の存在、拡散す
良かれ悪しかれ、噂と言うものは千里を走るものだ。
それがあまりにも見目麗しい金髪碧眼幼女であるとくればプレイヤーの口にのぼらないわけがない。
そう、【オーディンズスピア・オンライン】には決定的に幼女成分が足りていないのだ。
となれば、突如首都近郊に現れた美幼女プレイヤー『アキ』の話題が【OSO】内掲示板を席巻したとしてもなんら不思議なことではあるまい。
むしろ全国の幼女を愛でたいプレイヤーが刮目し『アキ』の動向を注視…………いや、こんなスカした表現は要らぬ。
幼女好きの変態プレイヤーどもがハァハァと息も荒く、限界まで気持ち悪い目を血走らせ凝視しているのだッッ!
【幼女】NPCにすら数少ない幼女を全力で愛でるスレッド【大好き!】
ノーネームプレイヤー:お前らぁぁ聞いたかぁよぉぉぉぉお!
ノーネームプレイヤー:いい。皆まで言うな!
ノーネームプレイヤー:聞かずにおれるか!
ノーネームプレイヤー:噂の〇〇(自主規制)ちゃんだろ!?
ノーネームプレイヤー:俺、思わず見てきちゃったよおおお!
ノーネームプレイヤー:いうまでもねぇぇぇ! むちゃくちゃかわいかったわ!
ノーネームプレイヤー:ですよねー
ノーネームプレイヤー:くっそ! くっそ! 肖像権さえなければスクショ5000連写してやんのに!
ノーネームプレイヤー:落ち着けバカ
ノーネームプレイヤー:うるせー! バカ!
ノーネームプレイヤー:殺伐としてまいりました
ノーネームプレイヤー:お前ら落ち着けって。NPCならともかく、プレイヤーを勝手に撮影したらBANもあり得るぞ
ノーネームプレイヤー:おめーもBANされろバーカ
ノーネームプレイヤー:なにこの低能な連中
ノーネームプレイヤー:あのな、幼女は遠くから愛でるのが至高なんだぞ
ノーネームプレイヤー:んなこたぁわかってらぁっ!
ノーネームプレイヤー:わたし、抱っこしましたよ?
ノーネームプレイヤー:!!!???
ノーネームプレイヤー:くそぁ! 女性プレイヤーはずりぃよなぁ!!
ノーネームプレイヤー:オレらがやったら1秒でハラスメント報告されるわ
ノーネームプレイヤー:ぷにぷにでとっても可愛いの
ノーネームプレイヤー:あああああああああああ!!
ノーネームプレイヤー:うわあああああああああああ!!
ノーネームプレイヤー:ちくしょおおおおおおおお!!
ノーネームプレイヤー:いい! もういいんだ! 俺たちは俺たちでそっと見守ろう!
ノーネームプレイヤー:手助けはあり?
ノーネームプレイヤー:ありに決まってんだろ!
ノーネームプレイヤー:貢ぎてぇ……! 全力で貢ぎてぇよぉ……!
ノーネームプレイヤー:YESロリータ! Noタッチ!
「よし、ここならプレイヤーは来ねぇだろ……」
「この洞窟、見つけにくいですもんね」
女性プレイヤーの群れに追われた俺は、ヒナと共に以前見つけたエリア3の端にある洞窟へと逃げ込んだ。
見たことのない猫のようなモンスターを追跡中に偶然発見したこの場所だが、中はそれなりに広い。
プレイヤーが6人分、つまり小さなパーティーくらいはくつろげる。
まぁ、なにが悲しゅうて洞窟内部でくつろがにゃならんのかは置いといて。
隠れ家としちゃ最高なわけよ。
ヒナも言ったが、なんせ入口がとにかく見つけにくい。
ここの発見は、はっきり言って偶然と僥倖が重なった結果だ。
追っていた猫モンスターに【雲身】を発動し、背後に回った途端、そのモンスターは俺へ両脚によるダブル猫キックを放ったのだ。
完全に油断していた俺は、それをまともに食らいフッ飛んだ。
草むらをゴロゴロ転がって立ち上がろうと思ったら足場がいきなり消え失せて、あーれーとここへ落ちちゃった。
んでまぁ、その穴がこの洞窟だったと。
つっても、洞窟と言うよりは洞穴って感じだけどな。
「ふぅー、やっと一息つける……」
「あはは、アキちゃん……アキきゅん必死でしたもんね」
「言い直すなっ! せめてどっちかに統一してくれ!」
「じゃあアキちゃんで」
「やめろぉ!」
「どっちなんですか! もー……ふふっ」
「なにわろてんねん!」
「あ、いえ、昨日告白したアキきゅんが急にちっちゃな女の子になってるなんて、なんだかおかしくて……あっ……」
しまったと言う風に己の口を押えるヒナ。
「ほぉぉぉ、いーいことを思い出させてくれたなヒナァァ」
「ひぃぃ」
「言いたいことだけ言ってとっとと落ちるたぁ、どういう了見でぇ?」
「極道! 極道がいます!」
「はっきりさせとくけど、俺もヒナのことはす、す、好きだからな!」
「今なんて言いました!?」
「この距離で聞こえないわけないだろ!?」
「急に耳の調子が……」
「んなわけあるかっ!」
「いいじゃないですか! もう一度!」
「あーもう、ヒナが好きだ! 大好きだ!」
「…………」
「急に黙るなよ。否定されたみたいでなんか嫌なんだけど」
「い、いやぁ……なんと言いますかその、まるで女の子に告白されたみたいで、なにかに目覚めそうな感じが……」
「やめて!? ええい! 後でログアウトしたら思い切り連呼してやる!」
「あ、それはとっても嬉しいです。絶対ですよ?」
それきりなんとなく黙ってしまう俺たち。
お互い今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきたようだ。
「あ、あの……」
「ん?」
「これって、両想い、でいいんですよね……?」
「……お前、自分でいってて恥ずかしくない?」
「めちゃくちゃ恥ずかしいですよー! アキきゅんのバカ!」
「いふぁいいふぁい! ふぉふぉをふぃっふぁるふぁ!」
幼女の頬は良く伸びる。
おお、新たな発見だ。
「なぁ、ヒナ」
「なんです?」
「良かったらでいいんだけど、俺と付き合ってくれないかな?」
「…………」
黙るんかーい!
完全に否定されてんじゃん!
幼女だから!?
見た目幼女だから!?
しくじった!
せめてログアウトしてから言えばよかった!
「あー、困らせてごめん。無理ならいいんだ。忘れてく……れ」
ガッシと俺の腕を掴んでブンブン横に首を振るヒナ。
ちょ、そんなに首振ったら頸椎損傷しちゃうよ?
お、おい、大丈夫かその首の速度……
残像が……
「違うんでず……嬉じいんでずぅ~~! うぇぇ~~~ん!」
「おまっ、なっ、泣くなよ」
やばい。
ガチ泣きだ。
とっ、父さん! こういう時はどうしたらいいんですか!?
あっ親父は旅行中だった。
今頃はマチュピチュとナスカを巡っているはず。
ええい、息子が大変な時にどこをほっつき歩いてるんだ。
「ふづづがものでずが、よろじぐおねがいじまず~~!」
「お、おう、こちらこそよろしく」
サイズ差のせいで仕方ないんだが、抱きしめられても複雑な気分です。
ただの抱っこされてる幼女じゃねーか……
だけど……ヒナ、受け入れてくれてありがとう。




