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第159話 そこに山があるから



 俺たちは襲い来る艱難辛苦を乗り越え(大袈裟)、女王クレオの言っていた東の砂漠を越えた先にある山岳地帯へ突入していた。


 つっても実際はモンスターを倒しながら1時間半くらい歩いただけー。あははー。

 うーん、やっぱ第二大陸のモンスターは全体的にドロップが美味しいね。

 第一大陸じゃ結構なレア素材がバンバン落ちるし。

 見たことないアイテムもかなり出た。

 ハカセとたがねさんに良いお土産ができちゃったよ。

 あの二人を喜ばせたってしょーもないんだが。


「さて、と。ここからが本番だよ」

「ですねー。頑張りましょー」

「完全に未知のエリアだ。どんな強いモンスターが出現するのかもわからない。みんな、気を引き締めて行こう。さあ、僕の後についてきたまえ! 下っ端団員諸君!」

「アキお嬢さま。この偉そうな栗毛サングラスをここに埋めて行ってもよろしいでごさいましょうか?」

「ウヒィ! シーナさん! 本当に穴を掘り始めないでくれたまえ! ほんのちょっと調子に乗っただけじゃないか!」

「(少し嬉しそうなのは気にかかりますが……)それは流石にキンさんが可哀想です。彼は我々の団長なのですから」

「……ツナさまがそこまで申すのなら致し方ございません。チッ」

「今『チッ』って言わなかったかい!?」


 そう。この度、シーナさんは我が【The Princess Order】に正式入団したのである。

 ずっと団員の加入枠は満杯だったが、つい昨夜、一人抜けたいと申し出た者がいたのだ。


 それは、ウ〇コ帽子を被った変態騎士さんであった。


 退団理由をキンさんが尋ねたところ、なんでも『現実リアルで恋しちゃったんです。だからしばらくは彼女のことだけを考えていたい! なのでログイン時間は極端に減ると思います! ツンデレ幼女さまと会えないのは非常に辛いですが……真のツンデレを見つけてしまったのです!』と、のたまったそうだ。

 しかもお相手は彼と同じ年頃の女の子だと言う。


 非常に健全である。

 幼女おれに罵られて狂喜するような変態が、己と同い年くらいの女子に恋したなんて、健全としか言いようがない。

 落ち着いたら戻ってくると言っていたし、俺たちは彼の健闘を祈るのみ。


 気がかりなのは、お相手の女の子に一度しか会っていないと言う点。

 どうやら一目惚れらしい。

 ……玉砕しなければいいが。


 いやぁ、青春だねぇ。

 恋は良いよ。世界が眩く見えるもん。

 俺とヒナを出会わせてくれた運命に感謝したいくらい。

 嗚呼……愛しのヒナ……


「? どうしたんですアキきゅん。だらしない顔しちゃって」

「し、失礼な!」

「うそうそ、嘘ですよー。アキきゅんは天使の笑顔です!」

「ぅぎゅ」


「おーい、そこのレズたち。僕が埋められる前に出発しよう」

「レッ、レズじゃねーし!」

「せめて百合と言ってください」

「否定してよヒナ!」


「では僭越ながら」

「……シーナさん……なんのつもり?」


 突然シーナさんは俺の前でしゃがみ込むと、背を向けて両手の指をクイクイと動かす。

 『はよ乗れ』と言わんばかりだ。


「おんぶでございますが?」

「見ればわかるよ!? そうじゃなく、なんでわたしをおんぶする気なの?」

「山岳地帯となれば砂漠よりも遥かに険路。ならば小さなお嬢さまを歩かせるには些かお辛いのではないかと」

「(いや、言わんとしてることはわかってるけど……)お気遣いありがとう。でもわたしは平気だよ。戦力のシーナさんに負担をかけたくないから自分で歩くね」

「ああっ! なんという穢れ無き崇高な魂をお持ちなのでございましょう! どこぞの怠惰を絵に描いたような栗毛サングラスとは大違いでございます!」

「グヒィ! そこで僕を引き合いに出すのかね……!」

「いえ、キンさんは今、とても羨ましそうにシーナさんの背を見ていましたが……」

「ツナ缶さん!? 何故暴露してしまったんだい!? シーナさん! 埋めようとしないでくれぇ!」


 そんな風にぎゃーぎゃー騒ぎながら俺たちは出発した。

 山岳地帯と言ったが、こちらからの見た目は山脈と言うか連峰と言うか、とにかく山々がずっと左右に広がっていた。

 まるで砂漠側からの視界を遮るように。

 これでは天辺に登ってみるまで向こうを確認することすらできない。


「うーん……これって作為的に感じない?」

「なにかNPCやプレイヤーに見せたくないものでもあるんですかねー?」

「うむ。その可能性は高いだろう」

「……?」

「はて?」


 ゲーム脳の俺とヒナ、キンさんはすぐにピンと来たが、普段ゲームをしないツナの缶詰さんとシーナさんにはちんぷんかんぷんのようだ。

 二人にもゲームのお約束と言う物を早く覚えてもらうために、敢えて説明はせずにおこう。

 実際に体感すれば嫌でも身に付く。


 ふっふっふ。

 こりゃ面白くなってきたぞ。

 あの(・・)運営と変態開発者なら何が待ち受けていてもおかしくないもんな。

 ただ、変態すぎて、山を越えたらいきなり『どうも、邪神アポピスです』なんて展開もありそうなのが怖い。

 ま、それならそれで探す手間が省けるってもんだ。

 ……その場合、俺たちは100パーセント死ぬよね。だけどすぐさま大挙して邪神をブッ潰してやらぁ。

 へっへっへ、見とけよぉ。


「……しかし冗談抜きできつい坂道になってきたね……」

「んー? キンさん、もうへこたれたの?」

「若者のアキくんたちと違って、ワシはもう年寄りじゃけぇのぉ」

「あっははは、なんで広島弁なの。急に老けるのもやめて」

「(むむっ、この雰囲気はダメです。流れを変えなきゃ)アキきゅん、上のほうはもっときつそうですよ」

「えー。困ったなぁ……誰か【登攀とうはん】のスキル持ってる?」

「流石に取ってないね」

「私もないですよ」

「私も未収得です」

「僭越ながら、私が所持しております」

「えっ! すごいねシーナさん!」

「お褒めにあずかり光栄でございます。アキお嬢さま」


 ってかマジ、何者なんだこの人。

 登攀は基本スキルのひとつだけど、斥候スカウト系職業の前提スキルでもある。

 スカウトに転職したいのならともかく、それ以外を目指すプレイヤーはスキルポイントの無駄になるし、取らないのが普通だ。


 なのに…………あっ、そう言えば、シーナさんはゲーム自体ほとんどやったことがないっつってたな……

 つまり、わけもわからずなんとなく取ってみたんだろう。

 うんうん。初心者あるあるだね。

 ん?

 ってことは、彼女のステータスはどうなってるんだ?


「シーナさん」

「なんでございましょう」

「シーナさんのステってどんな感じに振ってるの? 差し支えなかったら教えて?」

「どんな感じと申されましても……STRは70でございます」

「へぇ、結構振ってるんだね」

「VITは70でございます」

「ふんふん、防御重視かな?」

「AGIは70でございます」

「……えぇ?」

「DEXは70でございます」

「えぇぇええええ!! そ、それって!]


 まさかのバランス型でした!



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、そういう人もいるよね
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