第15話 美幼女 爆誕
やった!
ついにやった!
私はついに告白したのだ!
よくやったよ日菜子!
頑張ったね!
今日の私はMVPだ!
あれだけ態度で示せば、あの鈍感な先輩だって一撃必殺よね!
超必ゲージ20本分くらいのダメージを1フレーム以内に与えたはずだもん!
うぅ……でも今になって恥ずかしさがヤバいよ~~!
勢いでキ、キ、キスまでしちゃったし~~!
絶対アホの子だって思われてるよ~~!
明日どんな顔して会えばいいの~~!?
……あれ……?
ちょっと待って。
私……先輩の返事って聞いたっけ…………?
がーーーん!
あんまり時間なかったし、告白するので精一杯だった~~~!
うわーーーん!
明日絶対言葉責めにされる~~~!
あきのん先輩のドS! 鬼畜~~!
日菜子の喜びと苦悩に満ちた夜はこうして更けていく。
「……!? ……! ……!!」
な、なんだ……?
「……た!? ……ぶ!?」
ユッサユッサと身体を揺さぶられてる。
なんだよ、春乃か……?
にいちゃん眠いんだから勘弁してくれよ……
もう夏休みになったじゃねぇか。
……なつ、やすみ?
そうだよ。
夏休みに入ったんだよ。
そんで浮かれポンチな俺は昼間からログインして、ヒナやキンさんと狩りして、夜はみんなで花火を見て……
……ヒナから、こっ、告白されて、しししかもキキキキス、して……!
……あれ?
そんでどうなったんだっけ?
そうだ!
メンテナンスが実行されて真っ暗闇に……!
「あなた! 大丈夫!? しっかりして!」
「ぶほぁ!」
こっ、こら!
思い切り腹をブッ叩くな!
心臓マッサージにしても場所が違うわ!
「! 良かったぁ! 目を覚ましたのね!」
「……ここは……?」
かすむ目で辺りを見回す。
どうやら見覚えのある巨大な大木の根元に横たわっているらしい。
間違いなく昨日花火を見た場所だ。
おいおい、まさかの寝落ちしたのか俺?
ダイブ型VRMMOでどうやったら寝落ちできるんだか謎だけど。
でも周りが明るくなってるってことは少なくとも朝か昼なわけで。
んん?
もうメンテ終わったんかな?
「ここはエリア3よ。首都アランテルのすぐ近く。一人で起きられる? ダメージを受けてるならポーションあげよっか? 小さいのに一人で狩りしてたの? 偉いねー」
なんでこんなに甲斐甲斐しく世話をしてくれるんだこの人は……
ああ、まだ目がかすんでる。
ヘッドセットにエラーでも出たんかな。
んお!?
この後頭部に感じる柔らかな感触……!
膝枕だこれ!
ん?
ちょっと待てや。
今、なんてった?
『小さいのに』?
いや、俺は高校生の標準くらいの背丈ですが?
……ごめん、ちょっとだけ見栄張った。
標準よりは、ほんの少ーーし小さいかな?
あ、年齢のほう?
いやいや、そんなに幼く見られたことないぞ。
前は中坊に『テメどこ中だよ?』って絡まれたことはあったけど今はもうないし……
とにかく、いっぱしの高校生をつかまえて『小さい』だなんて、どんな大女なんだよと、一言文句を言ってやろうと勢いよく起き上がった時、異変に気付いた。
気付いてしまった。
俺の周辺に広がる長い金髪に。
元を辿れば俺の頭部から生えているのが明らかではないか。
「はい!? なんだこれぇぇぇぇ!?」
!?
なんだ今の声!
俺の声ってこんなに甲高いっけ!?
寝ぼけて声が裏返ってんのか?
「本当に大丈夫? 頭とか打ってない?」
「……すっごく動揺してるけど、大丈夫だと思う。ありが……ぇぇえええええぇぇ!?」
介抱してくれたみたいだし、一応礼だけ言おうかと振り返ってまたも驚愕した。
そこにいたのは……
「ヒナかよ!? なんで他人行儀なの!?」
「へっ? は、はい、私はヒナと言いますけど。どこかで私と会ったことがあるの? こんな幼い子に知り合いはいないと……」
「なに言ってんだ!? 俺だっての!」
「OREさん?」
「違うわ! ボケるにはまだ早いぞ! プレイヤーネームをよく見ろ!」
「あなた『アキ』ちゃんって言うの? へへへ、私の大好きな人と同じ名前だねー」
「アホか! 本人だっての!」
「あはは、そういう冗談が学校で流行ってるのかな? 私の知ってるアキきゅんはもっとこう冴えない感じで男の子だか女の子だかよくわかんない顔立ちな」
「俺に失敬だよ!?」
「……その被せてくるツッコミ……アキきゅんそっくり……」
「どこで判断してんの!? 俺のアイデンティティはそこ!?」
我ながら自分のキャンキャン声に耳が痛くなってくる。
もうなにがなにやら。
「嘘……? ホントにアキきゅんなんですか?」
「本当だよ! ……ちょっと待て。俺って今、どんなことになってんだ?」
「サラッサラの金髪ロングストレートで」
「おう。それはなんとなくわかる」
「目なんかまつげバッサバサのパッチリした碧眼で」
「えぇ? なんだそりゃ」
「びっくりするくらいのちっちゃな美少女なんですけど……」
「はぁぁ!?」
俺はガバリと立ち上がって近くの川まで猛然とダッシュした。
視界が低く、なんとも走りにくい。
それでも祈りながら川面を覗き込むと……
うべぁ!
マジで幼女だこれぇ!!
すっげぇ美幼女だこれぇぇぇぇ!
あああああ!
装備までおかしくなってるうううう!
なんて説明すればいいんだ!?
落ち着け。
どうどう、落ち着くんだ俺。
白いフリルとレース付きドレスのような、ふわっと裾の広がったスカート。
その上から白銀に輝く鎧のような金属パーツを纏っている。
肩当て、胸当て、手甲、脛当て。
スカート部分にも、赤く縁取りされた板金がいくつか取り付けられ、補強されている感じだ。
メタいことを言ってしまえば、某セ〇バーさんみたいな。
……ちなみに、内部は白いタイツでした!
「なっ、なんじゃこりゃあああああああ!!」
ガックリと膝から力なく崩れ落ちる。
なにがどうなってるんだよぉ……
なんで俺が幼女になってるんだよぉ……
「いやーん! ちっちゃく丸まってて可愛い~~! あぁ~こんな妹が欲しかったなぁ~!」
「べふぅっ!」
背後からタックルするように抱き着いてきたヒナ。
辛抱たまらん! と言った風にグリグリと頬ずりしまくってる。
やっ、やめろぉ!
「ちょっと、見て見て! あんなに小っちゃい子が【OSO】にいるわよ!」
「なにあれ!? 超可愛い~!」
「お人形さんみた~~い!」
「こんなに可愛い衣装があったの!?」
「うっそ! マジもんの幼女!? それともNPC!?」
「やべっ! あたしの琴線に触れまくりなんですけどぉぉ!」
「ねぇ、その子ってあなたの妹さん? 抱っこしてもいい!? むしろさせなさい!」
メンテが終わったからか、続々とログインしてくるプレイヤーたち。
流石に幼女は珍しいし目立つようで、あっと言う間に包囲網を築かれた。
一応、ヒナが俺を守ろうと抱きしめてくれているが、所詮は魔術師のSTR。
筋力のある女剣士に抗うべくもない。
俺はまるで人形のように様々な女性プレイヤーの手を渡り歩いた。
最初のうちはニヘニヘと身体に当たる柔らかな感触や、頬にキスされたりして喜んでいたのだが、いつまでも終わらぬそれらにだんだん嫌気がさしてきた。
俺はおもちゃじゃなーーーい!
ガルルルと威嚇しながらインベントリに手を突っ込み『魂のギター』を取り出す。
おや、元々持ってたアイテムはちゃんとあるじゃないか。
姿形がバグってるし、アイテム類も消失くらいは覚悟してたんだけどな。
「ふんす! ふんす!」
鼻息も荒くギターを振り回す俺。
「やーん! 幼女が怒ったー! 可愛い~~!」
「あなたアキちゃんって言うの?」
「アキちゃん、お姉ちゃんと遊ぼ~!」
「おいでおいで~!」
「ぎゃーーーーーー!!」
無駄な抵抗でした。




