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第148話 5連携



「アキお嬢さまが笑っておいでです……なにか良い方策など思い付かれたのでございましょうか」

「あー、あれはアキきゅんの癖みたいなものです。相手が強敵であるほど燃えるんですよね。ちなみに、笑っているだけで大抵はなにも思い付いてないです」


 うるさいよヒナ!

 懇切丁寧にいらん説明すんな! されどヒナの言う通り!

 でも、初見の敵に作戦もクソもないだろ?

 ってのは建前で、いくら俺でも全くの無策ではないところをお見せしようではないか。


 グルっと大きく旋回してくる邪神の眷属。あの図体だけに小回りとは無縁なようだ。

 小さいながら手足はあれど、ヤツの移動方法は蛇そのものだった。

 気持ち悪っ!

 だけど速い!

 へんっ、速いなら遅くすればいいってね!


「ヒナ! グラビティフィールドを張って!」

「え、あ、はいっ!」


 言われたことを即座に、そして素直に実行するヒナ。

 俺の信頼度がピカイチだからこそ何の迷いもなく動けるのだろう。

 ……ただしゲーム内のみ!


 俺の前方10メートル地点を中心に重力場が展開された。

 これは地面設置型のスキルで、領域に踏み込んだモンスターのAGIとDEXを大幅に下げる。

 俺的に最も苦手な状態異常である鈍足と命中率低下を敵に付与するものだ。


 確実にその重力場を踏ませるため、俺は敢えて少し前に出た。

 ヤツの爬虫類そのものな瞳は完全にクレオだけを見ている。

 言い換えればクレオしか見ていないわけだ。付け入る隙があるとすればそこだろう。


 そして狙い通り薄紫色の地面に眷属が突入し急激に減速。目的を果たした俺は即時後退。

 クレオを背負っている以上、派手に動く攻撃側には回るのは難しい。


 つまり今日の主攻はヒナとシーナさんなのだ。

 しかしヒナはともかく、シーナさんの実力は正直言って未知数である。

 だが、たがねさんは彼女を『強い人』と批評した。ならばそれを信じるしかなかろう。


 軽やかな後ろステップで眷属から距離を取る。

 今、眷属から視線を外すのは怖い。

 それに加えて、ヒナとシーナさんの闘いぶりを見逃すのはもっと悔しい。

 いざと言う時よそ見をしていては的確な指示も出せやしないのだ。


「ファイアボルト!」


 ヒナの魔法が文字通り火を噴く。

 どうやら先程放ったアイスボルトは効果が薄かったようだ。

 うーむ。火炎系も微妙そう。


「双覇掌!」


 のろまになった眷属のドテッ腹に両手の平を撃ち込むシーナさん。

 おっ、蛇の体勢が崩れた……けど一瞬で立て直しやがった。

 げっ! ぶっとい尻尾でビンタされたぞ!? 大丈夫かシーナさん!

 お、おお……どうにか無事みたいだ。そういや修道僧もヒールを使えるんだったな。

 ふむ。こりゃあ眷属ってのは防御力もかなりありそうだ。

 生半可なスキルじゃどうにもならんぞ。


「サンダーボルト!」


 ヒナの弱点探り3属性目。

 

「ギイッ!」


 むっ!? 蛇野郎が一瞬動きを止めるほどのけ反った!

 明らかに効いてる!

 どうやら眷属の弱点は雷電系のようだ。メモメモ。


「ヒナ! 雷電系で攻めて!」

「了解ですっ!」

「シーナさん!」

「はい」

「普通の打撃はダメージの通りが悪いみたい」

「そのようでございます」

「だから、防御無視か防御貫通のスキルを使ってみて」

「! かしこまりましたアキお嬢さま」


 これでダメなら、眷属は対物理攻撃のバリアを張っていると思うしかない。

 魔法は通っている以上、そう考えるのが自然だ。


 ヒナが詠唱している間に、シーナさんは眷属へ肉迫した。


寸勁すんけい!」


 眷属の胴体にヒタリと当てた手の平が一瞬ブレて見え、波紋のようなエフェクトが広がる。

 それは眷属の身体に染み込んだ。


 ドゴン


「ギィイイイ!」


 痛みによる絶叫。

 今度こそ間違いなくダメージを与えた。

 寸勁は内部破壊を目的とする発勁の一種である。ゆえに防御力を無視して体内に衝撃を発生させたのだ。


 これでわかった。

 眷属はただ防御力が高いだけだ。

 それならいくらでもやりようはある。

 俺はウィンドウを呼び出してポチポチ。

 確か……あったあった。これだ。


「クレオ」

「どうしたのアキ」

「これからちょっとうるさくなるから、耳を塞いでて」

「???」


 何を言われたのかわからない様子でキョトンとするクレオだったが、大好きな(?)俺の言うことなればと両手で耳を塞いだ。

 何故かキュッと両眼も瞑ってる。可愛い。

 俺はそれを見届け、全力で息を吸い込んだ。


「大人しくしないとお仕置きするよっ!! お座りっっっ!!」


 超大音量の声が眷属を包んだ途端、ビッターンと地に伏した。

 そのかたわらでは何故かシーナさんまで体育座りをしている。

 なんで!? パーティーメンバーに効果はないはずだけど!?


 ともかく、眷属の動きは止まった。


 姫騎士スキル【姫の大喝】によって。

 その名の通り、敵を思い切り叱りつけることでATK(攻撃力)、DEF(防御力)を著しく下げ、状態異常の恐怖と麻痺を与えるデバフである。

 例の変態騎士さん相手なら『ご褒美』となってしまう諸刃の技だ。


 うまくいって良かった。

 大ボスには無理だろうけど、中ボスクラスには効くのね。

 収穫収穫。


「二人とも!」

「バッチリ詠唱済みですよ~! ライトニング・バースト!!」

「これなら普通のスキルでもダメージが通りそうでございます。雷神蹴!!」


 おおっ。

 ヒナとシーナさんの攻撃が同時に決まって……んん!?

 シーナさんの頭の上に……『2combo!』とか出てる!!

 なにあれ!?

 まさか、ヒナの魔法と連携したってこと!?


「烈震肘!!」


 3combo!

 Great!


「龍撃砲!!」


 4combo!

 Excellent!


 なんだって!?

 まさか一人で連携できるの!?

 俺の連携技ですら、一人につきひとつのスキルしか繋がらないってのに!?

 クソずるい!

 こりゃユニークの臭いがプンプンしやがるな!

 シーナさんはあんな特殊スキルをどこで……ん? それよりこれ、チャンスなんじゃね?

 俺の連携技なら、多分あのコンボに割り込めるぞ。

 へっへっへ、やっちまおう! 俺も戦闘に超参加したいし。


 と、ここまでを0.5秒で思考した俺は、走り出しながら背中のクレオに声をかける。


「クレオ、ちょっと無茶するけど、絶対に守るから。怖い時は目を閉じてしっかりつかまってて」

「アキ……うん! 信じてる!」


 信じてる、か。

 クレオはNPCだけど、言われて悪い気はしないな。

 任せとけ。


 俺は小盾をインベントリに放り込み、聖剣エクスカリバーを両手で握った。

 使うは以前ビートエイプ・シルバーバック戦で披露したあの大技。

 行くぞ!


「ドッキングスキルコンビネーション5(ファイブ)!! 【蒼彗星天翔斬あおきすいせいそらをかける】!!」


 なんじゃそのネーミングセンスはよぉぉ!

 なんか色々混じってんぞぉぉ!


 そう心の中で慟哭している間に、我が幼女アバターは自動モーションにシフト。

 つまり、身体が勝手に……眷属の鼻面めがけて走った。

 全身が蒼きオーラで包まれ、握られた聖剣エクスカリバーは切っ先となり、文字通り一個の彗星と化す。


 そして、地を蹴った俺とクレオは、牙を剥き出し大きく開いた眷属の口の中へ……凄まじい速度で突っ込んだ。

 まるで自ら生贄となるがごとく。


「ぎゃあああああ!」

「きゃあああああ!」

「ガアアアアアアアアアア!!」


 俺とクレオ、眷属が放つ三者三様の大絶叫。

 彗星は止まることなく、周囲をズタズタに引き裂きながら突き進み────


 バシュッ


 手応えが消え、視界が開ける。

 眷属の体内から抜けたのだと悟った時。


 パキィィィィィン


 甲高い音と共に、眷属は細かな粒子となって砕け散ったのである。





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[一言] クレオ可愛い
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