第143話 雑な設定
「おぉ~……」
「きれいですねぇ~」
「こりゃすごい……!」
「なんと美しいのでしょう……」
「非常に雅でございます」
きらびやかな宮殿を眼前にして呆ける俺たち一行。
先程通過した夜の城下町も美しかったが、篝火に照らされ……と言うか、もはやライトアップされた巨大宮殿は更に上を行っていた。
まさしく不毛の砂漠に花開いた大輪である。
「ふふん、驚いたみたいね。これが私の宮で……お家よ! みんなで寛ぐといいわ!」
仁王立ちで鼻も高々に宣言するクレオ。
これを『お家』と言い張るのは何故だろうか。いくらなんでも無理があると思うのだが。
しかし、お付きの者らは『さすがクレオさま』とでも言うように小さく拍手を送っていた。
もしくは無事に砂漠を超えて帰還できた喜びを讃えているのかもしれない。
なんてことを思いつつ宮殿の……いや、お家の門をくぐった時。
「女王さま! ご無事でしたか!」
「あのような少数で見分に向かうなど!」
「我々が御身をどれほど心配したか……!」
「クレオパト……」
「シィッ! あんたたち、深夜なのに騒ぎすぎよ! 民が起きてしまうじゃない! それに大切なお客さまもきているんだからねっ! おもてなしの準備をなさい!」
「は、ははっ! 失礼いたしました! すぐ取り掛かります!」
「アキ! 私は用事を済ませてくるからちょっと待っててね!」
「あ、はーい」
いかつい男たち、身なりからして高官臭い連中とそんな会話を繰り広げるクレオなのであった。
ま、大体想像はしてたけど。
女王さま、ね……
ドヤドヤと立ち去るクレオたちを見送ってから、残されたお付きの人に尋ねてみた。
「あの、なんでクレオは身分を隠したがってるんですか?」
「はい。女王……いえ、クレオさまが幼い頃、ご両親である王と女王が崩御なされまして……」
「ふんふん」
『今も幼いよね』とは突っ込まず黙って聞く。
「物心も付くか付かないかのうちに即位と相成ったのですが、周りには大人しかおらず、ずっと寂しい思いをしておられたのです」
「あぁー……」
「政治の面では大人たちがいくらでもフォロー出来ますが、心の面となると我々には如何ともしがたく……」
「……確かに……でも、同年代の子供はいっぱいいるでしょ?」
「ええ、勿論。ですが、相手は一国の女王さま、となれば普通のお付き合いはどうしても……」
「あああぁ~、そうだよねぇ」
「なので、異国より参られたアキさまたちならばと、気兼ねなく振る舞えるように御身分をお隠しになられたのでしょう」
「なるほどね……それはわかったけど、なんで女王さま自ら見分に出かけたの? それこそ大人に任せればよかったんじゃない? 危険すぎるでしょ」
「政治的判断です。お飾りの女帝ではなく、民の先頭に立つと言う意味もございます」
「ふーん……」
どうやら現実のクレオパトラとは少し生い立ちが違っているようだ。いや、このクレオが俺たちの良く知るクレオパトラ7世かどうかはわからないが。
ちと雑な設定付けではあるものの、文句を言うほどの改変ではなかろう。
ただ、シナリオライターは変えたほうがいいと思う。
プレイヤーがアホだからお気楽に見えるこの【OSO】を、客観的な目で世界観を見れば、結構暗めのお話しというか、影を落としているというか、終末感が漂っているというか……とにかくそんな感じなのだ。
もっと楽しく明るい世界でも良かっただろうに……キャラクターデザイン担当が優秀なだけに勿体なさすぎる。
「では、来賓室にご案内いたします」
「お願いします」
侍女の後ろをトコトコついて行こうとしたが、ヒョイと後ろから持ち上げられた。
俺の金髪に鼻を押し付ける、なんてことをするのは見るまでもなくヒナしかいない。
きっと『俺成分補給』のつもりだろう。
「こちらでしばしお寛ぎくださいませ」
「ありがとう」
案内されたのは、まるで国賓でも迎えるような一室であった。
あまりにも豪奢すぎて、小市民の俺はむしろ落ち着かない。
それはみんなも同様らしく、ツナの缶詰さんは椅子に座ってもモジモジしているし、キンさんに至ってはあてもなく室内をウロウロしている。徘徊癖でもあるのだろうか。
いつもと変わらないのは現実でも豪邸に住んでいるヒナと、普段からなにを考えているのかよくわからない無表情のシーナさんだけであった。意外!
それからしばらく、次々に侍女が運んできた山ほどの豪華な料理をつまみながら談笑して待つも、クレオは中々現れない。
用事とやらが長引いているのだろうが、時刻はもう明け方のほうが近くなっていた。
見ればみんなは欠伸をしまくっている。
今日は朝から探索の旅を続けていたのだ、無理もあるまい。
それにしてもなぜ欠伸はこうも人にうつるのか……ふぁ~あ。
おっと、侍女さんにまでうつってら。
「侍女さん。クレオはいつ頃戻ってきそう?」
「申し訳ございませんが私にもちょっとわかりかねます」
「……ですよねー。仕方ない、みんな落ちよう」
「え? アキきゅん、クレオちゃんを待たないんですか?」
「うん」
「冷たっ! 可愛い幼女があんなに懐いてるのにかい? アキくんはやはり鬼畜……」
「うるさいよっ。キンさんだって明日仕事があるんじゃないの?」
「ぐふっ! 嫌なことを思い出させないでくれたまえ!」
「わたしたちが【The Princess Order】を結成した時に決めたことがあったでしょ」
「……『現実大事に』……」
「そう、それ。廃人団じゃないんだからちゃんと守らないと」
「うぅっ」
何故か胸を押さえて呻いたのはツナの缶詰さんである。
身に覚えがありすぎたのかもしれない。
「……でも、可哀想じゃありません? 私たちがいきなりいなくなったら、クレオちゃんきっと泣いちゃいますよ」
「うん。わかってるよヒナ。だから手紙を残しておこうと思うの」
「あ、それはいいかもですね」
と言うわけで、一筆したため、侍女さんに託してログアウトする俺たちなのであった。
────しかし、これこそが悪手であったと、後に気付くこととなる。




