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第138話 上陸しました



「ひゃっふー! 上陸一番乗りー!」


 金髪をなびかせてストンと飛び降り、砂を何度も踏みしめる俺。

 そこはどこまでも伸びる白い砂浜であった。

 ちょろちょろと小型のヤドカリやカニらしきモンスターがうろついているものの、どうやらノンアクティブモンスターのようだ。危険はなさそうである。

 ホッと一息つけば磯の香りが鼻を突き、遂に上陸したのだと言う感慨もひとしおであった。


「(はしゃいじゃって可愛い~!)アキきゅん。ハカセさんたちが以前ここを訪れていますから、厳密に言って初上陸は……」

「わ、わかってるよ!」


 ヒナが理詰めで台無しにしてくれたものの、気分は上々だ。

 この第二大陸を攻略すれば、男に戻れる確率がグッと高まるはず(願望大いに含む)。

 俺が高揚するのも当たり前であった。


 振り返れば、少し離れた海上には巨大帆船の群れ。

 クラーケンによって多少なりと損傷を受けた船もあるが、一隻も欠けることなく到着できたのはまさに僥倖と言えるだろう。

 そしてここにはきちんと整備された港などないゆえ錨泊し、俺たちは小型のボートを下ろして少人数ずつ上陸を開始したのである。


 さて、これからは取り敢えず二班に別れる予定だ。

 侵攻の拠点作りを始める班と、偵察斥候を目的とした班。

 もちろん俺は後者だ。

 偵察斥候班にはそっち系のスキル持ちと、各団トップやリーダークラスの者で構成されている。

 この班を更に分けて各方面を探る予定なのである。

 なぜなら、邪神アポピスの現在における所在地が不明だからだった。

 ハカセの話だと、邪神は幻魔の手によって復活した後、封じられていた逆ピラミッドを離脱、そしてハンティングオブグローリーやアカデミーの前線駐屯地を破壊し、彼らを全滅させていずこかへ去ったと言う。

 つまり邪神アポピスは能動的に動いていると見るべきであろう。

 ハカセたちだけでは飽き足らず、他の生贄を求めて。


 しかし俺たちは念のため、ハカセたちが最初に降り立った場所とは違う海岸に上陸した。

 壊滅したハカセらの拠点が、邪神の眷属に未だ見張られていないとも限らない。

 なので、第二大陸の攻略としては、ほぼ初めからやり直しと言うことだ。

 とは言っても、前回の探索で3割ほどは地形も解明されているようだし、モンスターのデータも結構な量を集めていたらしく、ゼロから始めるよりは余程楽なのである。ハカセ談。


 まぁ、ハカセら前回の調査団にしても『何の成果も得られませんでしたー!』とは公言しにくいのだろう。

 残った結果が『邪神の復活と黄昏の進行』だけでは散って行ったプレイヤーも浮かばれまい。いや、生きてるけれども。

 とにかく、まずは拠点を確保して足掛かりを得る。そして慎重に、且つ素早く邪神の動向を把握し、速やかに討伐……が理想的な流れである。


 なるべく早く倒したいのは、年末が迫っているからだ。

 12月はみんな何かと忙しいであろうし、その……若者ならば重大なイベントもあったりするわけで……

 それに、期末テストや受験を控えたプレイヤーもいると思う。

 もっとも、受験生がこんな大事な時期にガッツリ【OSO】をプレイしている時点で進学は絶望的かもしれぬが。


 うーん。

 もしかして正月のほうが人の集まりはいいのかなぁ。

 でもなぁ、三が日ってゆっくりしたいだろうし、かと言って三が日過ぎちゃうと社会人は仕事始めになっちゃうよね……

 うぅ~ん……悩ましいところだけど、やっぱりリアルを優先すべきだよな……


「(うひー! 可愛い幼女が小さな頭を悩ませてるのって、庇護欲をそそるわねぇ~! 食べちゃいたい~!)アキちゃーん。悩んでるとこ申し訳ないんだけど、偵察小隊に召集がかかってるってさー」

「あ、うん。今行くね。たがねさんありがと」


 たがねさんとハイタッチ(身長差のせいで俺だけだが)してから手を振ってるヒナとキンさんのほうへ向かう。

 あれこれ考えているうちに、ほぼ全員が上陸を完了していたようだ。

 ちなみに、たがねさんは拠点構築班である。

 しかも『アタシ、雑魚とチマチマ闘うの嫌いなのよねー』とか言うとんでもない理由でだ。

 ま、元々彼女は鍛冶師としての腕前を買っただけなので問題はない。

 ただ、ちょっと納得いかないから『拠点建造責任者』の一人に任命してやった。

 精々立派な建物を作ってもらうとしよう。


「あ、アキちゃん。やっときたわねェ。んもゥ、【The Princess Order】のリーダーが遅れてどうするのよォ」

「ごめんね。でも間違えないでハカセ。『プリオダ』の団長はキンさん。わたしはヒラ団員だもん」

「あれェ? そうだったァ?」

「……くっ……屈辱……! やっぱりリーダーはアキくんに見えるんだね……」

「いえ、キンさんはこれでも頑張っていると思いますが……」

「はい。栗毛グラサンの割には。ですが、強き人(リーダー)としてはアキお嬢さまのほうが相応しいかと存じ上げます」

「あ、あはは……」


 俺とハカセのやりとりに顔を歪めるキンさん。

 フォローとも言えないフォローを入れているのはツナの缶詰さんと修道僧のシーナさんだ。

 ヒナはどう答えていいのかわからず笑って誤魔化した。うむ、賢い子である。

 他にも【OSO University】や【翰林院アカデミー】の幹部連中も半笑いを浮かべていた。


「ま、キンさんはあたしの愛人ダーリンだからそれはいいとしてェ、ハイディングに長けた斥候は既に出発したわァ」

「ギヒィ!!」

「うん。予定通りだね(哀れなキンさん……とうとう愛人認定されてるし……)」

「彼らの報告が入り次第、あたしたちも出陣するわよォ。それで、我々の現在位置はこの辺りなんだけど……前回の攻略開始地点はこっちねェ」


 ハカセは足元に第二大陸のおおまかなマップをウィンドウ表示させて説明する。

 指し棒で示した現在地は大陸の南側、ハカセたちが最初に上陸したのはもっとだいぶ西側であった。


「あたしたち【翰林院アカデミー】は北東に向かうわァ。【OSO University】は北方面。で、アキちゃんたちは本当に北西方向でいいのォ? ヘタすれば一番危険かもしれないわよォ」

「うん、大丈夫。見つけてもいきなり突撃なんてしないよ」

「まァ……あなたたちなら上手くヤッちゃうんでしょうけどォ……(アキちゃんもキンちゃん(ダーリン)も……あたし心配だわァ!)」


 ハカセの言う北西方向。

 その偵察範囲には、彼らが攻略した逆ピラミッドが存在している。

 つまり、邪神と遭遇する確率が最も高い危険地帯なのだ。

 なにせ邪神アポピスが封じられていた場所。何が起きてもおかしくはない。



 へっへっへー。

 一番危ないところに行くほうが面白いに決まってるもんな!


 むしろさっさと邪神が現れてくれりゃ手間も省けるってね!

 燃えてきたぁ!



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[一言] あわれキンさん
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