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第131話 プリオダ



 首都アランテルより遥か北方。


 第一大陸の北端に位置する港町、【ノースエンド】近郊。


 一面が銀世界と化した雪原にて────




 ガランガランガランガラン!!!



「ギャー! うるせーーー!」

「なにこれ!? 音波兵器なの!?」

「そうらしい! HPが減ってるから間違いない!」

「第二分団! 作戦通りに右から回り込め!」

「待て! ソリの突進攻撃が来るぞ!」

「タンク! タンクは前に!」

「っぎゃああああああ!」

「メディーーーーック! ……じゃなかったわね。司祭はヒールを!」


 派手に吹き飛ばされるプレイヤーたち。

 乱れ飛ぶ怒号と絶叫。


 そして雪原全域に響き渡る鼓膜を突き破らんばかりの轟音。

 

 ────それは、本来ならば福音をもたらすはずの、であった。


 もっとも、大多数のプレイヤーから『そこは鈴だろ!』と突っ込まれたのだが。



「綱だ! 綱を狙え!」

「うおおおお!」

「一本切断完了よ!」

「おっしゃああ! こっちも切ったぞぉぉ!」

「橇との分断に成功!」

「よぉぉし! 第二、第三分団はトナカイ(・・・・)のほうをタゲるんだ!」

「了解!」

「今です! アキさん! 団長!」


 さぁ、出番だ。


 俺たちは橇から降り立つ紅白衣装を纏い大袋を担いだモンスターを相手にする手筈なのだ。


 エリアキーパー【ジングルオールザウェイ】の本体を。



「アキくん、ヒナさん、ツナさん。準備はいいかい?」

「オッケー」

「はい!」

「問題ありません」

「マーカーくんたちもいいかね?」

「いつでも行けますキン団長!」


「では……【The() Princess(プリンセス) Order(オーダー)】の諸君! 出陣だ!」


 ウォォオオオオオオオォォォ


 団長(キンさん)の声を皮切りに、ときの声を上げながら駆け出していく団員。

 当然俺たちもだ。


「うひー、やっぱり恥ずかしい名前」

「恥ずかしくない! 『姫騎士団』と『姫の号令』を掛けた立派で上手い団名だろう!? 僕が寝ないで考えたんだよ!」


 俺の呟きが聞こえたのか、キンさんが猛烈にツッコミを入れてくる。

 キンさんはそれでいいのだろうが、団名の由来となった俺としては恥ずかしいことこの上ない。

 全くもって、なんと言う名をつけてくれてしまったのか。

 ユニークジョブである姫騎士の秘密も何もあったもんじゃない。

 壮大なネタバレもいいところだ。


 いやまぁ、いくら取得しようとしても取れないバグみたいなジョブだから別に構わないんだけどね……

 そもそもこんな団名を深く考察するようなプレイヤーもいないだろうし。

 ……唯一やりかねないハカセには、前もって話した上で口止めしておいたんで問題あるまい。


「はいはい、わかってるよ。キンさんが団長なんだから、わたしも別に文句はないって(どうせ略されて『プリオダ』とか呼ばれるに決まってるもん。てか俺は呼ぶ)」

「……だといいがね」

「それより今はあのクソでけぇおっさんを倒さないと」

「そ、そうだった!」


 先頭を切って飛び出したマーカーくんたちは既に目標と肉迫していた。


 紅白の三角帽子に紅白のもこもこな服。

 左手で白い大袋を背負い、右手にはやたらと鐘がたくさん付いた棒のようなものを握っている。

 顔には表情すらもよくわからぬほどの白髭を湛えたその巨体。 


 どう見ても、お馴染みのサンタクローススタイルであった。

 ただし、サイズ的にはオーガキングを遥かに凌いでいるが。

 こんな殺意に満ちた恐ろしいサンタでは、子供たちも絶叫号泣間違い無しだ。


 その相棒もこれまた巨大で、恐竜とも見紛うようなトナカイだった。

 こいつも荒々しい鼻息と共に蹄で地を引っ掻き、その鋭すぎる角でプレイヤーを串刺しにせんと欲している。


 そう、このエリアキーパー【ジングルオールザウェイ】は二体で一組のボスモンスターなのである。


 バカみたいにデカいソリにサンタが騎乗した状態では、突進攻撃と鐘による音波攻撃を行う。

 特に突進攻撃はトナカイの角と、鋼鉄製らしき橇の重量も相まって、直撃を受ければ即死級のダメージを負うので要注意だ。

 だからこそ、分団のみんなは【ジングルオールザウェイ】の分離に注力した。


 既に攻略済みであるハカセらの助言によって。


 初見である我々は、このエリアキーパーを倒さぬことには港町ノースエンドに入ることも出来ぬのだ。

 本当ならば、じっくりと自分たちの手で攻略したいところであったが、そうも言っていられない。

 大目標はあくまでも第二大陸へ渡り、邪神アポピスを倒すこと。

 いや、本当の目的は更に先の第三大陸に渡ってアバター変更施設を探すことだ。

 少なくとも俺とハカセは。

 なので、こんなところで足踏みしているわけにはいかないのである。



 ガランガランガラン!


「ぐっはぁああああ!」

「神聖な鐘で殴るな! このサンタ野郎! お前それでも聖人か!」

「普通は鈴の音でしょ! 『シャンシャン』鳴らすものよね!? クリスマス感がゼロじゃないの!」

「……ていうか、あれ武器だったんだ?」

「武器種が気になるわね……」

「ね。鈍器なのかも」


 ズッシャァァアアア


「このクソトナカイ! 分離しても突進はするのかよ!」

「そりゃするでしょーよ」

「メイン攻撃っぽいしなぁ……うぐはぁっ!」

「高AGIの連中! 囮になってくれ!」

「任せろ! 【八艘はっそうフライ】!」

「なんじゃそりゃああぁ!」

「ユニークか!? なぁ、ユニークスキルなのか!?」


 二手に分かれて戦う分団を含めた『プリオダ』の団員。

 その総勢は現在80名を超えている。

 実はこれでも少なくしたほうだ。

 入団希望者だけで数百人はいたのだから。


 そんな人数をキンさん一人で管理できるはずもなく、同盟団であるアカデミーやユニバーシティの手を借りていた。

 なんせあちらさんはハカセを筆頭に(?)、高知能集団だけあって頭の良い者が多い、つまり管理運用が得意なプレイヤーに分団を任せる形をとったのである。


 また、元々独自に団を組んでいた連中はそのまま継続させ、連携強化に努めさせた。

 無理に望まぬ解散をさせて再編し、彼らのモチベーションを下げてしまうよりも、気の合う仲間とプレイするほうが余程建設的だからだ。

 そんな連中の中にも『プリオダ』に入団希望の者がいて、仲間内から『裏切り者!』などとそしられる一悶着があったりしたがそれはどうでもいい。



 ブオォォオオオオオ


「ぐはあああああ!」

「なんだあの袋!?」

「クリスマスプレゼントをミサイルみたいに飛ばすなよ! 子供たちが泣くだろ!」

「くっそぉ! あんな遠距離攻撃まであるのか!」


 苦戦しているように見えるが、分団の連中も充分に成長し、経験も積んである。

 この程度の中ボスに負ける要素はない……はず。


「みんな落ち着いて! 魔法で大袋を狙うの! 近接職は右腕を部位破壊するよ!」

「アキ姫さま!」

「幼女ちゃん!」

「うぉおお! アキさんが来れば百人力だ!」



「キンさん! ヒナ! ツナ姉さん! 援護よろしく! 行くよみんな!」


 ウォオオオオオオオ!



 俺は聖剣エクスカリバーを高々と掲げ、吶喊とっかんと共に団員たちと突撃を開始するのであった。





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[一言] あれ? いつ聖剣見つけたっけ?
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