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第13話 知らぬところで噂され


 その日の深夜。


 オーディンズスピア・オンライン内のプレイヤー専用掲示板。


 ここでは身バレを防ぐため、プレイヤネームが秘匿されている。






 ノーネームプレイヤー:俺の知り合いが第1エリアで【雲身】ってスキルを使うプレイヤーを見たっていってるんだけど誰か知ってるやついない?


 ノーネームプレイヤー:あ、私の友人も見たっていってましたよ


 ノーネームプレイヤー:なんぞ?


 ノーネームプレイヤー:そいつ剣士らしい


 ノーネームプレイヤー:だからなんぞ?


 ノーネームプレイヤー:【雲身】? そんなスキル剣士にあったっけ?


 ノーネームプレイヤー:ねぇよ


 ノーネームプレイヤー:特殊スキルなのか?


 ノーネームプレイヤー:まぁそうだろうなぁ


 ノーネームプレイヤー:なんかMobの眼前で消えるとか


 ノーネームプレイヤー:は?


 ノーネームプレイヤー:んで背面を取るんだと


 ノーネームプレイヤー:なんだそれwwwぶっ壊れwww


 ノーネームプレイヤー:しかもその人ってロッカーと戦ってたみたいです


 ノーネームプレイヤー:マ!? レアモンスターじゃねぇか!


 ノーネームプレイヤー:ロッカーはナイトタイム突入直後に現れたみたいですよ


 ノーネームプレイヤー:エリア1かよ……盲点だったわ……俺も狙おうかな


 ノーネームプレイヤー:私、ハングロの人に連絡しときます


 ノーネームプレイヤー:ハンティングオブグローリーに知り合いいるの?


 ノーネームプレイヤー:あの団てガチ廃人の集まりなんでしょ?


 ノーネームプレイヤー:それよりエリア1にいるくらいだから初心者なんだろそいつ


 ノーネームプレイヤー:囲っちまうか?


 ノーネームプレイヤー:取り敢えず本人から詳細を聞きたいところだが


 ノーネームプレイヤー:どう考えても人型ボス戦じゃガチスキルだもんな


 ノーネームプレイヤー:ここって名前は直接書き込めないのがなぁ


 ノーネームプレイヤー:そこらへんは異様に厳しいからな【遅】って


 ノーネームプレイヤー:どっちみちそんな特殊スキル持ちならすぐ首都までくるんじゃね?


 ノーネームプレイヤー:だな取り敢えず様子見


 ノーネームプレイヤー:そういや全然話変わるんだけどお知らせ見た?


 ノーネームプレイヤー:おまwwwあんな重大情報見ないわけにいかねぇだろwww


 ノーネームプレイヤー:俺一年くらいβ版やってる古参なんだけどいよいよかって感じ


 ノーネームプレイヤー:『正式版実装における大規模アップデートについて』←これだべ?


 ノーネームプレイヤー:たwのwしwみwwwww


 ノーネームプレイヤー:噂の新ジョブとか【奥義】スキルって結局どうなったんだ?


 ノーネームプレイヤー:開発中止だか延期だかになったんじゃねぇっけ?


 ノーネームプレイヤー:まじかよ……それだけを希望に生きてきたのに……


 ノーネームプレイヤー:だけど新フィールドだの新武器、新Mobは実装確定だろ。きっとクソ強いボスがくるぞ


 ノーネームプレイヤー:うおおお! やっぱ楽しみだわ!






「【雲身】! からのぉぉ! 後背バック責めぇぇ!」


 バキッ!


「ファイアボルトォ! そしてアキきゅんの変態! セクハラァァ!」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!


「天誅ー! 天誅ー! もひとつ天誅ー!」


 ボグッボギッボゴッ!


 小気味のいい音が響く。

 音の発生源たるモンスター諸君には申し訳ないが、俺たちの礎となってもらおうではないか。


 そう、俺たちは今、順調にモンスターをボコっているのです。


 ファトスの街を出発してから2週間ほど経過した。


 あ、いや、この言いかただとおかしいか。 

 まるで24時間ガッツリプレイを2週間もしてたみたいだもんな。


 一応平日はきちんと学校に行きつつ土日はガッツリみたいな感じで経過した。

 ……うむ。締まらんな。


 とにかく、期末テスト期間と言う地獄の日々を挟んだが、勉強に費やす時間以外は【OSO】でレベル上げとエリア進行に費やしてきたわけ。


 学年一位の頭を持つヒナは余裕だったろうが、俺はそうもいかないのが現実だ。

 親にも大学だけは出てくれと泣きつかれたからなぁ。

 だもんで、俺は使いたくなかった奥の手を使うことにしたんだ。


 放課後のゲイム部部室に、折り入って話があるとヒナを呼び出した俺。



「アキきゅ……あきのん先輩……は、話ってなんですか?(ドキドキ)」

「ヒナ……いや、日菜子。これはとても大事な話なんだ」

「大事な話、ですか……?(きゃー! 名前で呼ばれちゃった!)」

「ああ、俺たちの(【OSO】における)将来がかかってるんだよ」

「(ドキーン!)しょ、将来って……そ、そんな、私たちまだ……」

「俺、お前と一緒に(【OSO】をプレイして)いたいんだよ!」

「!! 私と(結婚したいってこと)……ですか?」

「ああ! これはお前じゃなきゃダメなんだ!」

「あきのん先輩……私、私で良けれ」

「だから日菜子さま! 俺に期末テストを乗り切るための勉強を教えてくださーーーい!」


 ビターン


 あ、俺がジャンピング土下座した音ね。

 同時にヒナがなんでか顔面からスッ転んだ音でもある。

 二人のおバカさんが奏でる奇跡のハーモニー。


 ついでになにか白いモノまで見えた気もするが気のせいだったことにしといてやろう。

 今の俺は頼んでいるがわだからな。



 こうして恥を忍んで秀才の頭を持つヒナに勉強をミッチリと教わったお陰で晴れ晴れと【OSO】がプレイできるのだっ!

 嗚呼、ヒナさま万歳!


 ちなみに、ヒナの教え方が良かったのか、過去最高の成績を収めたのは余談である。

 苛烈な授業だったけどな……

 なんぞ恨みでも買ったんかねぇ。


 その代わりヒナも俺に、やれメシをおごれだの、やれ買い物に付き合えだのと理不尽な要求をしてきたわけだが。

 キンさんの帰宅時間に合わせてログインを20時くらいにしたから放課後は時間があったし別にいいんだけどさぁ。

 そのキンさんも『塔に登る仕事なんだ』とか言ってたが、いったい何者だよ。

 そもそもどんな仕事だそれ。

 勇者かなにか?


 ともあれ、苦痛極まる勉強から一時的に解放された俺は、きたる夏休みも楽しみに【OSO】内で青春を謳歌しているのである。


 いやぁ、レベル上げがはかどるはかどる。



「そぉい!」


 ボグシャ


「……いつ見てもシュールな光景ですよね」

「そうだね。ギターで撲殺する剣士って……」

「うるさいよそこ!」


 そうなのだ。

 あのロッカーとか言うバッタからドロップした『魂のギター』は鈍器だったのだ。

 しかも武器種の扱いは戦鎚ウォーハンマーで二度びっくり。


 鈍器と言えば聖職者用、なんてイメージもないわけではないが、【OSO】では立派な戦闘職武器だったりする。

 勿論、侍祭であるキンさんも装備可能だ。

 しかし彼はSTR制限に引っかかってしまった。

 聞けば20しか振っていないと言う。

 要求STRは50。

 意外と厳しい。


 なので、渋々俺が装備することにした。

 俺的にははっきり言って不本意だよ。

 剣士ならやっぱり剣を振りたいもん!

 もん、じゃねぇよ。

 キメェな俺。


 でも、後から知ったんだが、どうやらロッカーはレアモンスターだったらしく、つまりは『魂のギター』もレアドロップ武器みたいなんでな。

 勿体ないし使うしかないだろうよ。


 このギター、持ち主に大事にされてんだかされてないんだかよくわからんアイテムだが、効果だけはすごかった。

 説明によると『攻撃命中時に一定確率で相手に状態異常【麻痺】を付与する』という強力さだ。

 ボスやユニークモンスターには効果が出ないとしても、ザコ狩りにはとっても便利!


 俺はAGIも高めだし、手数も多いからか、思ってたよりも結構な頻度で麻痺を与えている。

 麻痺がかかればしめたもの、あとは後ろからフルボッコにするだけだ。

 これはやっぱあれかね。

 下手くそな音楽でモンスターも泡を吹くと言う、ジ〇イアンの歌声的なアレなのかねぇ?

 このギター、ちゃんと弾けるしな。

 いや俺は弾けないけど、楽器として音は出るって意味ね。


 しかも隠し効果なのかは知らんが、弾くとなんでかモンスターが寄ってきやがるんだよな。

 街の中で使ったらどうなるのかちょっと興味はあったりする。


 まぁ、絵的には美しくないが、このギターのおかげでここまでこれたと言っても過言じゃない。

 エリア1を抜け、エリア2のボスもなんとか倒し、エリア3に到達した。

 ここを抜ければいよいよ首都アランテルだ。


「アキきゅん、アキきゅん! もうすぐですねー!」


 ヒナがピンクツインテを揺らしながら楽し気に近付き俺の隣に腰を下ろした。

 最近、こいつはやたら近くに寄ってくる気がする。


 ま、まさかこの俺に気があるんじゃ!? ……なんて自惚れはありません。

 きっとヘッドセットがバグって距離感がおかしくなってるだけだろう。


「なにが?」

「んもう! 色々ですよ! 夏休みとかー」

「ああ、そうだなぁ。ぐへへへ、ガッツリとプレイしてやるぜぇ」

「うわ、悪い顔してる……」


 ちょっと引き気味のヒナ。

 お前も全力でプレイするっつってただろうに。


「時にきみたち。正式版の実装日が決まったって知ってるかい?」

「おっ、マジ?」

「いつですか?」


 キンさんはグラサンをキラリと光らせ、意味もなく間を取ってからこう言った。


「金曜日さ!」

「ふーん(ドヤ顔キンさんはスルーしとこう)」

「アキきゅん、丁度良く終業式の日ですよ!」

「おお! 超朗報じゃん! いやぁ、楽しみだなぁ!」

「上級職への転職も首都到着ももうすぐですもんね!」

「ゲーム本編は首都に着いてから始まる、なんて話だからね。そうだ、当日は首都に祝福の花火があがりまくるそうだよ」

「へぇー! そりゃいいね!」

「……花火……ですか」


 なんでか頬を染めるヒナを不思議に思いながら、楽しくなりそうな夏休みへ思いを馳せる俺だった。



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