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第126話 グレー




 夕日射す放課後の校舎────


 シルエットと化した二人の男じょ……二人の少女────



「あっ、あのっ、先輩!」

「……はい?」

「わっ、私っ、ずっと秋乃先輩のこと見てました!」

「……そう」

「女の子なのにキリッとしてかっこよくてほっそりしてて可愛くて……!」

「……ありがと。でも、わたし……」

「あっあっ! 違うんですっ! 別に付き合って欲しいなんてわがまま言うつもりじゃないんですっ! (……大好きですけど!)気持ちを伝えられるだけで充分なんです!(超好きですけど!)それで、その……受け取ってください! 誕プレです! キャーーー!」

「あ、ちょっ、ちょっと! これ、ありがとねー!」

「はいぃぃい! きゃあぁぁ……ぁぁ……ぁぁ……」


 ドップラー効果と共に遠ざかってゆく女の子の姿と声。

 残されたのは俺の手の平に乗る可愛らしい小箱。


 その場に佇み、どうしたものかと丁寧にラッピングされた箱を眺めた。

 はっきり言って複雑な気分である。


 これがモテずに過ごしていた男時代であったのなら、今頃まさに有頂天であろう。

 しかもヒナと比べてみても、なんら遜色のない美少女からとくれば尚更だ。


 だが今の俺は心身ともにまごうことなき女子である。

 勿論、多少過ぎたとは言え誕生日を祝ってくれるのは嬉しいが、反応に困ると言うか、どう受け止めればいいのか悩むと言うか……


「ほぉ~……モテモテでござんすなぁ~……」

「!?」


 バッと声のしたほうに振り向けば、壁の影に隠れたヒナがジト目でこちらを見ているではないか。

 妙な口調とその目つきはなんのつもりなの。

 せめて影から出てきなよ。

 ちっとも隠れきれてないじゃん。


「ヒナ……そこでなにしてんの?」

「あきのん先輩の浮気現場を押さえようかと」

「えぇー……これ、浮気になるのかな? ヒナだって今も男からよく告白されてるよね」

「ぐっ! そう言うあきのん先輩に告白してくるのは女の子ばっかりじゃないですか」

「がふっ! ……いや、まぁ、男に告られるよりはいいけどさ……」

「すっかりスカートも板につきましたよね。かっこ可愛い女の子って感じですもん。そりゃやっぱり女子には人気が出ますよ」

「好きで穿いてるわけじゃないやい……姉貴が自分のお古を無理矢理……」

「さっきの子、可愛くて性格もいいから、私なんかより評判なんですよねー」

「あー、うちのクラスの野郎どもも騒いでたよ。学校のマドンナではナンバー2だってさ」

「あはは……男子って……いえ、それよりもそんな子に告白されちゃうあきのん先輩って……」

「ん? でも、わたしのナンバーワンはヒナだから」

「(ズキューン! あきのん先輩好き好きぃぃ!)えへへー、嬉しいです」


 ゲイム部の部室へ向かいながら、いつものように会話を交わす。

 やはり俺はヒナと話している時が一番ホッとするようだ。

 女性化して以降は、更にそれが顕著となった気がする。

 やはり女の子同士だと気兼ねなく話せるからだろうか。


「そう言えば、おとといも他の子に告られてませんでした?」

「ああ、うん。何日か前、チャラ男に絡まれてた子ね」

「あー! あの人だったんですか!」


 数日ほど前のことだ。

 ヒナと買い物がてらのデート中に、繁華街でその場面に遭遇した。

 俺たちの学校の制服を着た女子が、二人の男にナンパされていたのだ。


 最初はスルーしようとしたんだよ?

 よくある光景だしさ。

 俺は(・・)、ね。

 でも、うちの日菜子ヒナコちゃんは違ったんだな。 


『なにしてるんです! 嫌がってるじゃないですか!』


『なんだぁ? 文句でもあるっちゅーのかよ ジャラジャラ(意味もなくたくさんぶら下げた鎖の音)』

『ちょ待てよ。この子、メッチャ激マブ(死語)じゃね? ペロペロ(顔中に付けているピアスを舐め回す音)』

『うぉお! マジヤベー! カワイ子ちゃん(死語)オレたちと楽しーことすんべー!』

『な、なんです……!? やる気ですか!?』

『おほーっ! わかってんじゃねーか! ヤる気マンマンビンビンよぉ!』

『ギャッハハハハ! おま、下品すぎっぞ!』

『……うぅ……や、やめてください! 近寄らないで!』


 ナンパされていた女の子を庇うように両手を広げるヒナ。

 その身は少し震えているようだ。


 あらら、最初の正義感溢れる勢いがなくなっちゃったか。

 いくら護身術を学んだヒナとは言っても、やっぱデケェ男二人は怖いんだろうなぁ。

 後先考えずに飛び出しちゃうあたりも可愛いんだけどね。

 でも、猪突猛進すぎない?

 止める暇もなかったよ?


 おっとっと。

 こらこら、お触りは流石にアウトだよ兄さんたち。


『待ちな』

『あぁ!? お楽しみタイムを邪魔すん……なぐぼっ!』


 ヒナの手を掴んでいた鎖男の肩をポンと叩き、振り向きざまにヤツの首筋を目がけて上段回し蹴りを放った。

 我ながらスラリとした白い脚が美しい弧を描く。

 一瞬で意識を刈り取られた鎖男は、白目を剥いてその場へペタンと座り込んだ。


『グ、グレーのパン……!』

『見ないでよバカ!』


 一部始終を目撃されたピアス男に思い切り踏み込んで肘撃ちをかます。

 狙い通り鳩尾みぞおちに決まり、くの字になって今にも崩れ落ちそうなピアス男。

 羞恥心に駆られた俺は、一歩引いてから更に踏み込み、丁度いい位置に下がった顔面へ中段突きをめり込ませた。

 意識と記憶を飛ばすために。


 しかし野次馬からも歓声以外に『見えた!』とか『見逃した!』とか聞こえてくる。


 くそぁ!

 スカート(夏姉のおさがり)だったのを忘れてたぁ!

 ついでに今は女の子だったってのも忘れてた!

 ええい!

 見られちゃったけどそれが油断に繋がったと思い込むことにしよう!

 いや、そもそも松宮まつのみや家のSPはどこ行った!?

 いつもはヒナを陰から護衛してるだろ!

 主人の危機だってのに…………おい……もしかして、あそこでのん気にソフトクリーム食ってる二人の黒服がそうなんじゃ……?

 ア、アホー!


 ま、まぁ、結果オーライってことでいいか……

 爺ちゃんに無断で拳術使ったけど……バレたら地獄のシゴキが……


『あ、ありがとう。助けてくれて……あなた、隣のクラスの火神くん?』

『うん、そうだよ』

『……』


 それきり黙ってしまう同級生の子。

 だが、その瞳はキラキラと潤み、頬を薔薇色に染めて俺を見つめ────


 あ、これやばい目だ。



 と、まぁ、そんな事件があった。

 

 その後はもう、展開が読めるだろう。

 どうやら、助けた俺がよほど素敵な白馬の王子……王女? に見えたらしく、一目惚れと称して告白してきたと言うわけだ。

 それも誕生日プレゼントを渡すと言う名目で。



「いやー、あの時のあきのん先輩は本当にかっこよかったですよー。衆人環視の前であんなにスカート全開……」


「思い出すからやめて!? ……でも、なんでみんなわたしの誕生日を知ってるんだろ……?」


「うーん、それはほら、きっと好きな人のことは何でも知りたいからですよ!(一人に教えたらみんなに広まったなんて言えませんし! ごめんなさい!)」



 なにやら妙な含みをヒナから感じたが、わざわざ追及するほどでもない。


 もやもやはゲームで発散するとしよう!


 そう思いながらゲイム部室で格闘ゲームに興じる俺たちなのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、お姉様か。 そういや、あきは武術やってたな
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