第124話 モンスターハウス
「ちょっ! のっけからこれぇぇぇ!?」
「ひいぃぃ! ゴーストが! ファントムが! レイスがぁぁ! アキきゅん取ってぇ! 取ってくださいぃぃ!」
「ぐわぁぁぁぁ! 貴重なSPがァ! ただでさえ少ないSPが吸われるぅぅ!」
「っっぎぃぃぃ! ゾンビのお腹から内臓がはみ出てますぅぅぅ!」
「……あっちゃー……こりゃまたすっごいモンハウだわねぇ……あっはっは、まいったまいった」
ハロウィンボスが現れると言う、イベントマップ内の大きな屋敷に到達した俺たち一行。
ところが、入口の大扉を開けて一歩踏み込んだ途端に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
いわゆるモンスターハウス、略してモンハウである。
異様にだだっ広い玄関ホール一杯に詰め込まれた様々なモンスターが、一斉に俺たち目掛けて殺到したのだ。
そしてやはり、なんともイラつくことに、どいつもこいつもハロウィン仕様にデコられていた。
別にいいけど、ゾンビのはらわたまでリボンで飾っちゃってるのは悪趣味すぎない?
ツナ姉さんが卒倒寸前だぞ。
それにしても、数が多すぎる。
まさしく怪物の館ってか?
とにかく、まずは壁役のツナ姉さんをどうにかしてあげないと。
そのためには範囲火力のあるヒナを立ち直らせなきゃならんか?
ああもう!
負のスパイラル!
「キンさん! ヒナの周りにいるゴースト系にターンアンデッドを!」
「了解! だが少し待ってくれ! ポーションを飲んでからでないと……ごっふごっふごっふ」
確かキンさんは【神聖退魔陣】を習得していたはずである。
広範囲の不死系モンスターに大ダメージを与える魔法なのだが、所詮彼のINTは1だ……あ、いや、訂正する。
そう言えば少しINTに振ったと聞いた。
10か20かはわからないが、それでもはっきり言って高位のアンデッドが相手では大した効力など見込めないだろう。
しかし、キンさんのLUKは今やカンスト!
バ、バカー!
じゃなくて、ターンアンデッドは発動確率をLUKに依存しているんだ。
そしてひとたび発動すれば、どんなにHPの高い不死系モンスターであろうと即死に至る。
つまり、LUKバカのキンさんが放つターンアンデッドは────
「穢れし不死者よ、神の名に於いて光と共に大地へ還れ! ターンアンデッドォ!!」
グォォオオ
ガァアアアア
ヒィィヤァァ
────必中、確殺なのだ。
アンデッドなのに確殺ってのもなんかアレだけどね。
「ひゃー、すっごいじゃんキンさん! キミ、随分強くなったんだねぇ」
「そ、そうかい? ははは。僕もね、日々成長してるんだよ。思えばこれまで日の目を見なかった僕のLUKが……」
たがねさんに称賛され、照れ臭そうに笑うキンさん。
色々ツッコミたいところではあるが、今回ばかりは本当に活躍している。
黙殺するしかあるまい。
てか、キンさんの小芝居に付き合っている暇はない。
「ヒナ、大丈夫?」
「は、はい。お化けさえいなければ平気です。でも、どうするんですこれ?」
「なんとかするしかないよ。ヒナ、ゾンビを一掃しちゃって!」
「はい! 世界に遍く満ちしマナよ! 我が導きに寄りて舞い狂う炎となれ! 火炎旋風!!」
ツナの缶詰さんに群がろうとするゾンビたちを、炎の竜巻が襲う。
火属性が弱点のゾンビだけに、勢いよく燃え上がり、あっと言う間に粒子と化した。
「ツナ姉さん! もうゾンビ……内臓はなくなったよ!」
「ひぃぃ……ハッ!? アキさん、ありがとうございます! さぁ、みなさん私の後ろへどうぞ! シールドウォール・フルガード!!」
ツナの缶詰さんが構えた黒き大盾を中心に、半透明の巨大な壁が展開された。
モンスターどもはそれに阻まれたものの、壁に向かって攻撃を繰り出している。
ゴンゴンガリガリと防壁に衝撃が走った。
「如何せん数が多すぎます。私の盾もそれほど持たないでしょう」
ようやくいつもの冷静さを取り戻したツナの缶詰さん。
グロが苦手とは女性らしい一面を持っているものだ。
ヒナは幽霊の類が嫌いだしね。
俺はどっちも平気だけど。
ただ、お化け屋敷はダメなんだ。
だって、あれは『怖い』んじゃなく、大きな音や突然現れて『ビックリさせる』だけなんだもん。
恐怖と驚きを綯交ぜにするんじゃねぇよ。
絶叫マシーンとかのほうがよっぽど怖くて面白いわ。
おっと、話が逸れた。
「とにかく数を減らそう。場合によっては屋敷の外で待機させてる団員たちに突入してもらうよ」
「そうしましょう。無限湧きの可能性もありますし、みんなアキきゅんに呼ばれるのを待ってますし」
「委細承知です」
「ははぁ、なるほど。その時は彼らにここを任せて僕たちは先に進むわけだね」
「うわー、そう取るんだ? アキちゃんはそう言う意味で言ったんじゃないでしょーに。相変わらずキンさんはゲスいところがあるのねぇ。キミ、アタシらのパーティーにいたときも『自己中』とか陰で言われてたよ?」
「な、なんだって!? こんなに紳士なのにかい!? 嘘だと言っておくれよたがねさん!」
「んにゃ、ガチ」
「そ、そんなぁ! 僕はきみたちもきちんと公平に……」
「はぁー? キミがカスミちゃんだけ思い切り依怙贔屓してたのモロバレだったけど? 相当キミの好みだったんでしょーよ」
「グハァッッ!!」
キンさんとたがねさんによる面白漫才もかなり気になるが、俺とヒナのゲーム脳はフル回転で現状の打破を模索していた。
出てくるモンスターはザコから高レベルまで幅広い。
もしもヒナが言った通り、敵が無限に湧き続けるのなら、こちらがジリ貧になるのは目に見えている。
だが、無限湧きなどさせるものだろうか?
元来、イベントなどと言うものは、基本的にプレイヤーを楽しませるだけであるはずだ。
ならば、初心者でもそこそこ進めるようにすると思う。
あー、そうとも言い切れないか。
ゲリライベントとか言って、街なかにクソ強いボスモンスターを放つような運営だからなぁ……
「……アキきゅん。この建物って、構造的におかしくないですか?」
「へ?」
ヒナがキョロキョロと上を眺めながらそんなことを呟いた。
つられて俺の目も上空へ。
天井がかなり高いな……
なんて言うか、屋敷全体が吹き抜けみたいな感じ?
……んん!?
よく見れば上や下へ向かう階段どころか、奥へのドアすらない!
入口の扉と窓だけ!?
欠陥住宅かよ!
って、んなわけないよねー。
じゃあ、なんでこんな造りなの? となると……
「……あー、さすがヒナ。目の付け所が違うね」
「えへへ」
「でも……ヤな予感しない?」
「めっちゃしてますよ!」
「……オチが読めちゃってるもんね……」
ゴゴゴゴゴゴ
「ほーら来た!」
「やっぱりですか!」
床から実体化しつつ、巨大な影が現れたのだ。
誰がどう見てもイベントボスの登場である。
めんどくさいからってザコもボスも一部屋にまとめるなよ!
アホ運営め!




