第123話 猛攻
「……うぅ~ん……それにしても……」
「な、なに?」
ベロリベロリ、と全身をくまなく舐め回すような視線を送ってくるのは、結局そのままついてくることになった死神コスプレ中のガチレズ鍛冶師たがねさんだ。
怖気と共に無意識の防衛本能が働き、身を捩じらせる俺。
外跳ねしまくってるボサボサ茶髪や特徴的なギザ歯を除けばかなりの美人さんでスタイルもグラマーなのだが、己の性癖に正直すぎる部分はどうにも苦手であった。
鍛冶師としては腕もいいし、全然嫌いではないんだけど、ガツガツしすぎなんだよなぁ。
……あれ?
待てよ。
もしかして俺も人のことは言えないんじゃね……?
だって、俺とヒナは女の子同士で愛し合ってるし……これ、立派なアブノーマルなのでは……?
ダメだっ!
その先は考えるな!
俺の魂は例えこの身が朽ち果てようとも雄々しき男なんだっ!
などと懊悩しつつも、林道の脇から時折飛び出してくるアクティブモンスターを華麗に斬り払うのが俺の凄いところである。
……たまには自慢してもいいだろう。
そのモンスターたちもハロウィン仕様で様々にデコられていた。
スライムみたいな最初期モンスターの『ポポル』など、色とりどりだが、まんまカボチャだ。
己の衣装と見比べて、しかめっ面になる俺。
だいたいハロウィン=ジャックオーランタンってのが安直すぎるんだよなぁ……
ってか、そもそもこのハロウィン自体、日本に必要か?
由来的には例大祭だのお盆だのとやってることが一緒のはずなのに……
最近じゃ祭りに乗じて事件を起こすバカも増えてきてるんだから、禁止しちまえばいいんだよこんなもん。
なんでも欧米かぶれにすればいいってもんじゃねぇぞ。
……決して俺の衣装が気に入らないからではないよ?
うん、決して。
と脳内で愚痴っている間も、たがねさんは俺の顔や胸、果ては足や尻に絡みつくような視線を這わせている。
完全な女子になってからと言うもの、他人がどこを見ているかをことさら敏感に感じ取れるのだ。
こらこら、変なとこ見てないで手伝ってよ。
あんた高レベルの鍛冶師でしょ?
「ねぇ、アキちゃん……キミ、変わった?」
「え?」
「んー、なんかねぇ、ちょっと見ないうちにさ、すっごく可愛くなったっていうかぁ、すっごく女の子らしくなった感じがするんだよねー。なんでだろ?」
「は?」
「プスーッ!」
「ブフォッ!」
「???」
背後から明らかに吹き出す音が聞こえた。
ヒナとキンさんである。
こいつら……!
だが、笑っている理由と意味合いは二人ともそれぞれに違うだろう。
ヒナは俺が完全な女の子になってしまった事実を知っているからこその笑いで、キンさんは『その幼女の中身は男なのに』と思っているが故の笑いなのだ。
キンさんにはまだ話してないし、話す気もないね。
女の子になったなんて口が裂けても言いたくねぇもん。
いや、まぁどっちにしても笑われりゃムカつくんだけど。
ってか、お前らツナ姉さんを見習えよ!
『なにが可笑しいのでしょう? アキさんは元々とっても可愛らしいと思いますが……』ってな風に不思議そうな顔してるだろ!
……そのままの純粋なツナ姉さんでいてね……
おっと、たがねさんを放置しておくと何をするかわかんねぇからな。
無難に子供っぽく返答しておこう。
「わたし変わった、かな?」
「うんうん! ますますアタシ好みになっちゃって! 成長期かな~? ちっちゃい子は身体も精神もどんどん育つもんねぇー」
「あ、あはは……(ちっちゃいは余計だ! それに、成長期は悲しいことに終わりかけだ! ……いや! 俺の身長はまだ伸びるはず! てか伸びろ!)」
またしても背後から聞こえる笑い声。
もはや吹き出すとかそう言うレベルじゃない。
明らかに腹を抱えて笑っている。
ちくしょう!
今に見てなさいよ!
絶対男に戻ってやるんだから!
「(何か気合入れてる! 可愛いなぁ!)ね、アキちゃん。提案なんだけど、ヒナちゃんと付き合ってるままでいいからさ、アタシとも本気で付き合わない?」
「はぁ!? それは前にきちんと断ったでしょ?」
「え~? いいじゃ~ん! もしかして歳の差を気にしてる? 問題ないって~、アタシは全然気にしないからさ!」
「(しろよ! 見た目は幼女と大人だぞ!? 問題しかないっての!)やっぱりダメだよそんなの。わたしにはヒナがいるもん」
「だいじょぶだいじょぶ~、優しくするからさぁ~」
「なにを!?」
「あー、間違えた。大切にするからさぁ~」
「だからなにを!?」
「じゃあ、こうしよっか、ヒナちゃんもアタシと付き合う! これならみんな恋人!」
「はい!? なんで私も巻き込まれてるんですか!?」
「アタシ、ヒナちゃんも好きなのよね~。やっぱ美少女は人類の宝だよ」
「わ、私はアキきゅん一筋ですから!」
たがねさんが矢継ぎ早に独自の超理論を放つ。
あまりの猛攻にタジタジとなる俺とヒナ。
もはや全力で笑うキンさん。
『女の子同士で付き合って、なにが変なのでしょう?』と首を傾げるツナの缶詰さん。
嘘でしょ!?
ツナ姉さんもそっち側の人なの!?
いやそれよりどうすんだこの状況!
「(こう言う時は話を逸らす手に限りますね!)あっ、屋敷が見えてきましたよー!」
「ホント!?」
機転を利かせるヒナの意図を瞬時に汲み取り、すかさずそれに乗った。
不必要な大声で牽制するのも忘れない。
「(!! アキきゅんがピョンピョン跳ねて必死に見ようとしてる……! かわいい!)そっか、アキきゅんは見えないかもしれませんね……よいしょっと」
さりげなく俺を抱っこし、たがねさんの魔の手から庇ってくれるヒナ。
『見えないよー!』と飛び跳ねる子供っぽく恣意的な行動の意味をヒナもまた汲んでくれたのだ。
まさに阿吽の呼吸!
まるで長年連れ添った夫婦みたいだ!
おっ、本当だ。
木々の隙間から建物が見える。
「うわー! 大きなお屋敷だねー!」
「ぐっ……! 屋敷には嫌な思い出が……! 思い出させないでくれたまえ!」
「あははは、ニブルヘイムのアレですね!」
「……うぅ……またネチョネチョのグログロが出るのでしょうか……」
「ねね、なんの話? アタシにも教えてよ。キンさんの笑い話は面白いからさー」
なにはともあれ、イベントのボスが出現すると言う建物に到着した俺たちなのであった。




